[PF40] 教育の場における疑似科学と教師の批判的思考との関連
Keywords:疑似科学, 批判的思考, 教師
問題と目的
疑似科学とは,科学的外観を備えているにもかかわらず,実際には科学としての要件を満たしていないために誤った結論に至った研究やそれにもとづく主張ととらえられている(菊池,2017)。こうした疑似科学が社会に普及することで,科学的に正しくないにもかかわらず,教師が教育の道具として疑似科学を用いていることがある(石川,2016;菊池,2012;長嶋,2010)。本研究では,教育の場で扱われる代表的な疑似科学として,教材などで用いられている江戸しぐさ(越川,2007),EM菌(比嘉,2012),水からの伝言(江本,1999),ゲーム脳(森,2002)を取り上げることとする。
科学的に思考し,判断するためには,情報を批判的に判断しなければならない(菊池,2006)。教師は子どもに正しい判断を教えるためにも,批判的思考ができることが求められるが,教師の批判的思考と疑似科学との関連については検討されていない。したがって,教育の場における疑似科学と批判的思考との関連について検討を行う。
以上を踏まえ,本研究では,教師を対象として教育の場で見られる「江戸しぐさ」,「EM菌」,「水からの伝言」,「ゲーム脳」の4つの疑似科学について妥当性,科学的根拠の十分さの評価を行い,教師の批判的思考との関連について検討することを目的とする
方 法
調査対象者 教師216名(男性83名,女性133名)に質問紙調査を行った。
質問紙の構成 ①フェイスシート:年齢,性別,教師歴,校種を尋ねた。②疑似科学の妥当性の評価:「江戸しぐさ」,「EM菌」,「水からの伝言」,「ゲーム脳」について主張の妥当性の評価を行った。また,その理由について自由記述で回答を求めた。③疑似科学の科学的根拠の十分さの評価:眞嶋(2011)を参考に,「江戸しぐさ」,「EM菌」,「水からの伝言」,「ゲーム脳」について科学的根拠の十分さの評価を行った。また,その理由について自由記述で回答を求めた。④批判的思考:平山・楠見(2004)の批判的思考態度尺度を用いた。
結果と考察
疑似科学の妥当性の評価の検討 4つの疑似科学において,教師の「妥当である」,「妥当ではない」と回答した人数の割合を算出した。その結果,2割から3割の教師が妥当であると判断していた。また,「妥当である」と判断する理由は,「疑似科学の知識」,「疑似科学の検証」,「説明文の理解」,「疑似科学の利用価値」,「知識の欠如」,「その他」の6つのカテゴリーに分類された。カイ二乗検定の結果,江戸しぐさにおいて,「疑似科学の利用価値」が有意に多くみられた。「妥当ではない」と判断する理由は,「検証やデータの不足」,「疑似科学に対する疑問」,「知識の欠如」,「その他」の4つのカテゴリーに分類された。カイ二乗検定の結果,江戸しぐさにおいて,「検証やデータの不足」,「疑似科学に対する疑問」が有意に多くみられ,水からの伝言において,「疑似科学に対する疑問」が有意に多くみられた。
疑似科学の科学的根拠の十分さの評価の検討 4つの疑似科学において,教師の「科学的根拠がある」,「科学的根拠がない」と回答した人数の割合を算出した。その結果,1割から4割の教師が科学的根拠があると判断していた。また,「根拠がある」と判断する理由は,「疑似科学の知識」,「疑似科学の検証」,「説明文の理解」,「その他」の4つのカテゴリーに分類された。カイ二乗検定の結果,江戸しぐさにおいて,「疑似科学の知識」が有意に多くみられた。「根拠がない」と判断する理由は,「検証やデータの不足」,「疑似科学に対する疑問」,「知識の欠如」,「その他」の4つのカテゴリーに分類された。カイ二乗検定の結果,有意差はみられなかった。
各疑似科学の「妥当性の評価」および「科学的根拠の十分さの評価」の批判的思考の差の検討 疑似科学の妥当性の評価の批判的思考による差について検討するため,t検定を行った。その結果,有意差はみられなかった。疑似科学の科学的根拠の十分さの評価の批判的思考による差について検討するため,t検定を行った。その結果,「水からの伝言」の「客観性」(t=3.529,df=165,p<.01)において,「科学的根拠がある」が「科学的根拠がない」よりも有意に高かった。「ゲーム脳」の「客観性」(t=1.999,df=165,p<.05)において,「科学的根拠がある」が「科学的根拠がない」よりも有意に高かった。この結果から,教師の批判的思考は疑似科学の妥当性の評価および科学的根拠の十分さの評価と関連しないことが明らかとなった。
疑似科学とは,科学的外観を備えているにもかかわらず,実際には科学としての要件を満たしていないために誤った結論に至った研究やそれにもとづく主張ととらえられている(菊池,2017)。こうした疑似科学が社会に普及することで,科学的に正しくないにもかかわらず,教師が教育の道具として疑似科学を用いていることがある(石川,2016;菊池,2012;長嶋,2010)。本研究では,教育の場で扱われる代表的な疑似科学として,教材などで用いられている江戸しぐさ(越川,2007),EM菌(比嘉,2012),水からの伝言(江本,1999),ゲーム脳(森,2002)を取り上げることとする。
科学的に思考し,判断するためには,情報を批判的に判断しなければならない(菊池,2006)。教師は子どもに正しい判断を教えるためにも,批判的思考ができることが求められるが,教師の批判的思考と疑似科学との関連については検討されていない。したがって,教育の場における疑似科学と批判的思考との関連について検討を行う。
以上を踏まえ,本研究では,教師を対象として教育の場で見られる「江戸しぐさ」,「EM菌」,「水からの伝言」,「ゲーム脳」の4つの疑似科学について妥当性,科学的根拠の十分さの評価を行い,教師の批判的思考との関連について検討することを目的とする
方 法
調査対象者 教師216名(男性83名,女性133名)に質問紙調査を行った。
質問紙の構成 ①フェイスシート:年齢,性別,教師歴,校種を尋ねた。②疑似科学の妥当性の評価:「江戸しぐさ」,「EM菌」,「水からの伝言」,「ゲーム脳」について主張の妥当性の評価を行った。また,その理由について自由記述で回答を求めた。③疑似科学の科学的根拠の十分さの評価:眞嶋(2011)を参考に,「江戸しぐさ」,「EM菌」,「水からの伝言」,「ゲーム脳」について科学的根拠の十分さの評価を行った。また,その理由について自由記述で回答を求めた。④批判的思考:平山・楠見(2004)の批判的思考態度尺度を用いた。
結果と考察
疑似科学の妥当性の評価の検討 4つの疑似科学において,教師の「妥当である」,「妥当ではない」と回答した人数の割合を算出した。その結果,2割から3割の教師が妥当であると判断していた。また,「妥当である」と判断する理由は,「疑似科学の知識」,「疑似科学の検証」,「説明文の理解」,「疑似科学の利用価値」,「知識の欠如」,「その他」の6つのカテゴリーに分類された。カイ二乗検定の結果,江戸しぐさにおいて,「疑似科学の利用価値」が有意に多くみられた。「妥当ではない」と判断する理由は,「検証やデータの不足」,「疑似科学に対する疑問」,「知識の欠如」,「その他」の4つのカテゴリーに分類された。カイ二乗検定の結果,江戸しぐさにおいて,「検証やデータの不足」,「疑似科学に対する疑問」が有意に多くみられ,水からの伝言において,「疑似科学に対する疑問」が有意に多くみられた。
疑似科学の科学的根拠の十分さの評価の検討 4つの疑似科学において,教師の「科学的根拠がある」,「科学的根拠がない」と回答した人数の割合を算出した。その結果,1割から4割の教師が科学的根拠があると判断していた。また,「根拠がある」と判断する理由は,「疑似科学の知識」,「疑似科学の検証」,「説明文の理解」,「その他」の4つのカテゴリーに分類された。カイ二乗検定の結果,江戸しぐさにおいて,「疑似科学の知識」が有意に多くみられた。「根拠がない」と判断する理由は,「検証やデータの不足」,「疑似科学に対する疑問」,「知識の欠如」,「その他」の4つのカテゴリーに分類された。カイ二乗検定の結果,有意差はみられなかった。
各疑似科学の「妥当性の評価」および「科学的根拠の十分さの評価」の批判的思考の差の検討 疑似科学の妥当性の評価の批判的思考による差について検討するため,t検定を行った。その結果,有意差はみられなかった。疑似科学の科学的根拠の十分さの評価の批判的思考による差について検討するため,t検定を行った。その結果,「水からの伝言」の「客観性」(t=3.529,df=165,p<.01)において,「科学的根拠がある」が「科学的根拠がない」よりも有意に高かった。「ゲーム脳」の「客観性」(t=1.999,df=165,p<.05)において,「科学的根拠がある」が「科学的根拠がない」よりも有意に高かった。この結果から,教師の批判的思考は疑似科学の妥当性の評価および科学的根拠の十分さの評価と関連しないことが明らかとなった。