[PF46] 他人がラップを用いて作ったおにぎりへの抵抗感に影響を及ぼす要因
「素手」で作ったおにぎりとの比較
Keywords:食行動, 強迫傾向, 親子の信頼関係
目 的
石井・田戸岡(2015, 2016)は,他人が作ったおにぎりを食べることに対する抵抗感の要因について実証的な検討を行った。その結果,一般成人において,病原体嫌悪のような生理的な衛生意識,そして,他者に対する信頼感や不安感のような対人的要因が影響することが明らかになった。
向居(2017)は,先行研究では,おにぎりの作成方法が明記されていないことを指摘し,「素手で」作ったおにぎりに限定した上で,それに対する抵抗感に影響を及ぼす要因を検討した。先行研究をふまえて,生理的な衛生意識に対応するパーソナリティ特性として「強迫傾向」を,対人的要因に対応するものとして,他者への信頼関係の基盤になる「親子の信頼関係」を取り上げた。その結果,概して,強迫傾向においては,汚れることを過剰に恐れる「汚染」が最も影響し,また,親子の信頼関係においては,「父親が相談相手になってくれない」,「母親が支援してくれていない」と感じているほど,他人が素手で作ったおにぎりへの抵抗感を感じやすいことが示された。
本研究では,素手ではなく,ラップを用いて作られたおにぎりに対する抵抗感を検討した。近年では,衛生意識の高まりからか,ラップを用いておにぎりが作られることが多いようである(クレハ, 2015)。素手で作っていないにもかかわらず,抵抗感があるのならば,影響する要因やその影響の仕方に差違が見られる可能性があるだろう。
方 法
調査対象者 大学生274名(男性62名,女性212名)であり,平均年齢19.5歳(SD =1.04)であった(向居(2017)と同じ調査対象者)。
手続き 向居(2017)と同じ手続きで調査が実施された。家族(母親,父親,祖母,祖父,兄弟,姉妹)や家族以外(親戚のおじさん・おばさん,友達のお母さん・お父さん,友達,隣人,同じ町内の人,留学生)が,ラップを用いて作ったおにぎりにどの程度の抵抗感を感じるかを6件法で回答してもらった。また,鈴木(2004)によるJ-PI32(回答方法の変更あり),および,浜崎他(2012)による親子の信頼関係を測定する尺度を用いた。
結果と考察
まず,向居(2017)と本研究のデータを合わせて,おにぎりの作成方法(素手・ラップ)や作成者(家族・家族以外)における抵抗感の平均値(表1)について,分散分析を行った。その結果,両要因の主効果と交互作用が認められた(all Fs>1, all ps<.01)。単純主効果検定を行ったところ,すべての要因のすべての水準で有意差が認められた(all ps<.01)。しかし,効果量を比較すると,作成者の要因の効果は素手におけるもの(偏η2=.59)の方がラップにおけるもの(偏η2=.27)よりも大きく,また,作成方法の効果は,家族以外におけるもの(偏η2=.59)の方が家族におけるもの(偏η2=.27)よりもそれぞれ2倍程度大きいことが示された。そのため,この交互作用が得られたと推察される。
次,家族がラップで作ったおにぎりへの抵抗感を目的変数とし,①J-PI32の下位因子と②親子の信頼関係尺度の下位 因子を説明変数とした重回帰分析を行った。その結果,①の「汚染」(ß =.17),②の父親の「相談相手」(ß =-.26),母親の「見守られ」(ß =-.21)が,抵抗感に有意に影響していた(修正R2=.24**)。また,家族以外がラップで作ったおにぎりへの抵抗感を目的変数として同様の重回帰分析を行った結果,①の「汚染」(ß =.36),②の父親の「相談相手」(ß =-.19),および,父親の「感情抑制」(ß =-.16)が,抵抗感に有意に影響を及ぼしていた(修正R2=.26**)。
おにぎりの作成者に関係なく,強迫傾向の「汚染」が,ラップを用いて作ったおにぎりへの抵抗感に影響を与えていることがわかった。この結果は,素手でつくったおにぎりと同様であった(向居, 2017)。しかしながら,その影響は,家族がラップを用いて作ったおにぎりにおいて最も小さいことも明らかになった。この条件では,父親が「相談相手」になってくれないと感じていることが,抵抗感に最も大きな影響を与えていた。また,この要因は,「汚染」とともに,すべての条件で一貫して他人が作ったおにぎりへの抵抗感に影響を及ぼした要因であった。
主要引用文献
向居 暁 (2017). 他人が素手で作ったおにぎりへの抵抗感に影響を及ぼす要因-強迫傾向と親子の信頼関係の観点からの検討- 日本教育心理学会第 59 回総会発表論文集, 407
石井・田戸岡(2015, 2016)は,他人が作ったおにぎりを食べることに対する抵抗感の要因について実証的な検討を行った。その結果,一般成人において,病原体嫌悪のような生理的な衛生意識,そして,他者に対する信頼感や不安感のような対人的要因が影響することが明らかになった。
向居(2017)は,先行研究では,おにぎりの作成方法が明記されていないことを指摘し,「素手で」作ったおにぎりに限定した上で,それに対する抵抗感に影響を及ぼす要因を検討した。先行研究をふまえて,生理的な衛生意識に対応するパーソナリティ特性として「強迫傾向」を,対人的要因に対応するものとして,他者への信頼関係の基盤になる「親子の信頼関係」を取り上げた。その結果,概して,強迫傾向においては,汚れることを過剰に恐れる「汚染」が最も影響し,また,親子の信頼関係においては,「父親が相談相手になってくれない」,「母親が支援してくれていない」と感じているほど,他人が素手で作ったおにぎりへの抵抗感を感じやすいことが示された。
本研究では,素手ではなく,ラップを用いて作られたおにぎりに対する抵抗感を検討した。近年では,衛生意識の高まりからか,ラップを用いておにぎりが作られることが多いようである(クレハ, 2015)。素手で作っていないにもかかわらず,抵抗感があるのならば,影響する要因やその影響の仕方に差違が見られる可能性があるだろう。
方 法
調査対象者 大学生274名(男性62名,女性212名)であり,平均年齢19.5歳(SD =1.04)であった(向居(2017)と同じ調査対象者)。
手続き 向居(2017)と同じ手続きで調査が実施された。家族(母親,父親,祖母,祖父,兄弟,姉妹)や家族以外(親戚のおじさん・おばさん,友達のお母さん・お父さん,友達,隣人,同じ町内の人,留学生)が,ラップを用いて作ったおにぎりにどの程度の抵抗感を感じるかを6件法で回答してもらった。また,鈴木(2004)によるJ-PI32(回答方法の変更あり),および,浜崎他(2012)による親子の信頼関係を測定する尺度を用いた。
結果と考察
まず,向居(2017)と本研究のデータを合わせて,おにぎりの作成方法(素手・ラップ)や作成者(家族・家族以外)における抵抗感の平均値(表1)について,分散分析を行った。その結果,両要因の主効果と交互作用が認められた(all Fs>1, all ps<.01)。単純主効果検定を行ったところ,すべての要因のすべての水準で有意差が認められた(all ps<.01)。しかし,効果量を比較すると,作成者の要因の効果は素手におけるもの(偏η2=.59)の方がラップにおけるもの(偏η2=.27)よりも大きく,また,作成方法の効果は,家族以外におけるもの(偏η2=.59)の方が家族におけるもの(偏η2=.27)よりもそれぞれ2倍程度大きいことが示された。そのため,この交互作用が得られたと推察される。
次,家族がラップで作ったおにぎりへの抵抗感を目的変数とし,①J-PI32の下位因子と②親子の信頼関係尺度の下位 因子を説明変数とした重回帰分析を行った。その結果,①の「汚染」(ß =.17),②の父親の「相談相手」(ß =-.26),母親の「見守られ」(ß =-.21)が,抵抗感に有意に影響していた(修正R2=.24**)。また,家族以外がラップで作ったおにぎりへの抵抗感を目的変数として同様の重回帰分析を行った結果,①の「汚染」(ß =.36),②の父親の「相談相手」(ß =-.19),および,父親の「感情抑制」(ß =-.16)が,抵抗感に有意に影響を及ぼしていた(修正R2=.26**)。
おにぎりの作成者に関係なく,強迫傾向の「汚染」が,ラップを用いて作ったおにぎりへの抵抗感に影響を与えていることがわかった。この結果は,素手でつくったおにぎりと同様であった(向居, 2017)。しかしながら,その影響は,家族がラップを用いて作ったおにぎりにおいて最も小さいことも明らかになった。この条件では,父親が「相談相手」になってくれないと感じていることが,抵抗感に最も大きな影響を与えていた。また,この要因は,「汚染」とともに,すべての条件で一貫して他人が作ったおにぎりへの抵抗感に影響を及ぼした要因であった。
主要引用文献
向居 暁 (2017). 他人が素手で作ったおにぎりへの抵抗感に影響を及ぼす要因-強迫傾向と親子の信頼関係の観点からの検討- 日本教育心理学会第 59 回総会発表論文集, 407