[PF56] 保育実習生のワーク・エンゲイジメントと省察
実習中の週レベルの変動とその関連性
Keywords:保育実習生, ワーク・エンゲイジメント, 省察
問題と目的
保育実習生の実習中のワーク・エンゲイジメント(以下,エンゲイジメント)は,実習後のパフォーマンスを向上させる有力な変数である(金子,2017)。本研究では,新たに保育者の専門性の中核とされる「省察」(リフレクション)を取り上げ,実習生のエンゲイジメントとの関連を検証する。その際,実習中の週ごとのエンゲイジメントと省察を測定し,その変動性に着目して検討する。
エンゲイジメントに関して,多くの研究が安定的な性質である特性変数として扱っているが(e.g.,三和・外山,2015),近年では個人内で短期間(1日・1週の単位)に変動する状態変数として扱った研究も散見される(e.g., Bakker&Bal,2010)。こうした「状態エンゲイジメント」に基づいた小刻みな測定は,対象者に過去の全般的経験を尋ねる「特性エンゲイジメント」の測定よりも,過去の記憶バイアスの影響を受けにくく,他の変数との関係をより正確に反映するという利点が指摘されている(Sonnentag et al,2010)。
方 法
調査対象者及び手続き:埼玉県内の保育者養成系の女子短大2年生126名(平均年齢:19.10歳,SD =.30)を対象に,2016年5月から6月にかけて質問紙調査を行った。本研究では,幼稚園実習を取り上げる。対象校では,2年次に3週間の指導実習が設けられている。質問紙は,実習直前の事前指導の時に配布し,その際,週レベルの状態エンゲイジメントを測定するために,同一の項目を各週の週末(土・日)に回答するように依頼した。質問紙は,実習直後の事後指導で回収した。実習を中止した学生,未提出の学生,欠損値が多い学生の質問紙を除いた96名を分析対象とした。
調査内容:(a)エンゲイジメント:Shimazuら(2008)を参考に,実習の項目に沿うよう,活力(3項目),熱意(3項目),没頭(3項目)の9項目を作成した(5段階評定)。(b)省察:「省察尺度」(杉村ら,2009)の33項目を用いた。本尺度は,省察の内容を「保育者自身」「子ども」「他者」の3つの視点から捉えており,各内容につき,浅い―深いの2つのレベルが想定されている。浅い―深いの順に,保育者自身は「自己注意」(5項目)と「自己考慮」(6項目),子どもは「子ども察知」(4項目)と「子ども分析」(7項目),他者は「他者情報収集」(5項目)「他者情報利用」(6項目)であり,6下位尺度から構成される(5段階評定)。
結果と考察
各週を独立変数,エンゲイジメントと省察の各変数を従属変数とした対応のある一要因分散分析を行った。その結果,エンゲイジメントの変動に関して,「活力」「没頭」は1週目から3週目へ段階的に上昇しており,「熱意」は2週目から3週目に上昇していた。特に熱意(仕事に対する意義や誇り)は,全ての実習を振り返ることで強く感じられる要因といえる。省察レベルが浅い「自己注意」「子ども察知」「他者情報収集」は,2週目から3週目に上昇していた。一方,省察レベルが深い「自己考慮」「子ども分析」「他者情報利用」は1週目から3週目へゆるやかに上昇しており,保育観や子ども観などの個別的認識は,時間経過に伴って徐々に形成される可能性が示唆された。各週のエンゲイジメントと省察は,r =.21~.61(p<.05~.01)の相関があり,相互に関連していた。
本研究より,エンゲイジメントや省察の測定方法を工夫する必要性や両変数の一定の関連性が示された。今後は,インタビュー調査や日誌法などの質的手法を用いて,各変数の力動的変動や関連を規定する要因を明らかにすることを課題とする。
保育実習生の実習中のワーク・エンゲイジメント(以下,エンゲイジメント)は,実習後のパフォーマンスを向上させる有力な変数である(金子,2017)。本研究では,新たに保育者の専門性の中核とされる「省察」(リフレクション)を取り上げ,実習生のエンゲイジメントとの関連を検証する。その際,実習中の週ごとのエンゲイジメントと省察を測定し,その変動性に着目して検討する。
エンゲイジメントに関して,多くの研究が安定的な性質である特性変数として扱っているが(e.g.,三和・外山,2015),近年では個人内で短期間(1日・1週の単位)に変動する状態変数として扱った研究も散見される(e.g., Bakker&Bal,2010)。こうした「状態エンゲイジメント」に基づいた小刻みな測定は,対象者に過去の全般的経験を尋ねる「特性エンゲイジメント」の測定よりも,過去の記憶バイアスの影響を受けにくく,他の変数との関係をより正確に反映するという利点が指摘されている(Sonnentag et al,2010)。
方 法
調査対象者及び手続き:埼玉県内の保育者養成系の女子短大2年生126名(平均年齢:19.10歳,SD =.30)を対象に,2016年5月から6月にかけて質問紙調査を行った。本研究では,幼稚園実習を取り上げる。対象校では,2年次に3週間の指導実習が設けられている。質問紙は,実習直前の事前指導の時に配布し,その際,週レベルの状態エンゲイジメントを測定するために,同一の項目を各週の週末(土・日)に回答するように依頼した。質問紙は,実習直後の事後指導で回収した。実習を中止した学生,未提出の学生,欠損値が多い学生の質問紙を除いた96名を分析対象とした。
調査内容:(a)エンゲイジメント:Shimazuら(2008)を参考に,実習の項目に沿うよう,活力(3項目),熱意(3項目),没頭(3項目)の9項目を作成した(5段階評定)。(b)省察:「省察尺度」(杉村ら,2009)の33項目を用いた。本尺度は,省察の内容を「保育者自身」「子ども」「他者」の3つの視点から捉えており,各内容につき,浅い―深いの2つのレベルが想定されている。浅い―深いの順に,保育者自身は「自己注意」(5項目)と「自己考慮」(6項目),子どもは「子ども察知」(4項目)と「子ども分析」(7項目),他者は「他者情報収集」(5項目)「他者情報利用」(6項目)であり,6下位尺度から構成される(5段階評定)。
結果と考察
各週を独立変数,エンゲイジメントと省察の各変数を従属変数とした対応のある一要因分散分析を行った。その結果,エンゲイジメントの変動に関して,「活力」「没頭」は1週目から3週目へ段階的に上昇しており,「熱意」は2週目から3週目に上昇していた。特に熱意(仕事に対する意義や誇り)は,全ての実習を振り返ることで強く感じられる要因といえる。省察レベルが浅い「自己注意」「子ども察知」「他者情報収集」は,2週目から3週目に上昇していた。一方,省察レベルが深い「自己考慮」「子ども分析」「他者情報利用」は1週目から3週目へゆるやかに上昇しており,保育観や子ども観などの個別的認識は,時間経過に伴って徐々に形成される可能性が示唆された。各週のエンゲイジメントと省察は,r =.21~.61(p<.05~.01)の相関があり,相互に関連していた。
本研究より,エンゲイジメントや省察の測定方法を工夫する必要性や両変数の一定の関連性が示された。今後は,インタビュー調査や日誌法などの質的手法を用いて,各変数の力動的変動や関連を規定する要因を明らかにすることを課題とする。