[PF59] 医療領域における多職種連携教育(IPE)の教育領域への転用可能性
Keywords:多職種連携教育(IPE), 医療領域, 教育領域への転用
問題と目的
現在学校では,不登校や発達障害,虐待等,児童生徒の様々な問題の対応に,チーム学校(文部科学省,2015)として,スクールカウンセラー(以下SCと表記)やスクールソーシャルワーカー等,多様な職種が教員と協働して子どもの支援に取り組むことが,緊急課題として挙げられている。しかし,学校場面にてこれらの異職種が教員との相互理解が難しいために,協働が取りにくいことが指摘されている(河村・武蔵・粕谷,2005)。
一方医療領域では,多職種連携教育(Inter-
Professional Education:以下IPEと表記)がチーム医療や高齢者包括的ケアの観点から,看護や医学,薬学,作業療法等の学部・学科合同で教材開発や演習,実習を行い,カリキュラムや評価法が蓄積されつつある(小林・黒臼・鈴木ら,2012)。
IPEの必要性は,教育領域でも同様であり,医療領域でのIPEの知見は,教育領域においても有用なものが存在すると考えられる。従って本研究では,医療領域におけるIPEの知見を概観し,教育領域への転用可能性の検討を目的とする。
方 法
Ciniiでの「多職種連携教育」「IPE」のキーワードから79件の論文を入手し,読んだ上で「カリキュラム」「カリキュラムと教育効果」「プログラム」に関連し,教育内容が詳細な25件を選択した。
選択した文献を,(1)対象者:どの学科の何年次を対象とするのか (2)カリキュラムの内容:どのような内容の学習なのか,(3)評価方法:教育効果の測定方法といった3つの観点から検討した。
この3観点を軸に,医療と教育領域でのIPEを比較検討し,教育領域での転用可能性を検討した。
結 果
(1) 対象者:対象組織では大学が20件,その内全学年対象が13件と一番多く見られた。他には大学院が2件,大学~社会人が1件,社会人が3件みられた。大学での参加学部・科は看護が20件と最も多く,続いて医学14件,理学療法11件であるが,学部・学科だけでも18種類と多岐にわたった。
(2)カリキュラムの内容:大学・大学院の学習内容23件を抜き出し,学年毎に多い1・2位を挙げた。 順に(数字は該当数),1年生ではIPW(inter professional work) の必要性・基本的考え方(5),人の尊厳と倫理観の講義,病院・施設見学(4),2年生は他職種理解(8),IPWの必要性・基本的考え方,チーム形成のスキル講義・演習(3),3年生は模擬事例のPBL(Problem based learning),チーム形成のスキル講義・演習,4年生以上・院生は多職種チーム実習(5),模擬事例のPBL(4),模擬患者の支援計画作成・カンファレンス(4)が見られた。
(3)評価方法:授業終了時のアンケートが8件,大学独自の連携行動尺度を開発・実施が4件みられた。IPEを測る尺度として,受講者のコミュニケーションや効力感の変化をみるKiss-18やGSES,IPEの志向性を測るRIPLS(Readiness for
interprofessional learning scale)の日本語版(Tamura,2012)等が見られた。パフォーマンス課題としては,支援計画の作成・発表が4件,多学部による糖尿病教室3件等が見られた。
考 察
医療領域IPEの概要:IPEの実践は卒前教育として発展し,全学年を通じた系統的学習が設定されていた。これらの系統的学習は,千葉大学の各学年でのキーコンピテンシー(酒井・朝比奈・前田他,2014)に代表されるように,系統的に積み上げる必要性を示唆していた。カリキュラムの内容でも,多職種連携の必要性や病院・施設の見学を通じて連携の基本的事項をおさえ,チーム形成のスキルや他職種を理解した上での模擬演習,多職種実習と学習が系統立てられていた。評価方法では,授業終了時のアンケートのみならず,大学独自の連携行動尺度開発やIPEを測る尺度,パフォーマンス課題等,エビデンスが蓄積されていた。
教育領域との比較:上述の3観点を教育領域の報告と比較したところ,教育領域では対象者は一部学年に留まり,カリキュラムの内容も模擬事例の検討(瀬戸,2011:荊木・森田・鈴木,2015)や他職種理解(荊木・森田・鈴木,2015)の報告が部分的に見られる程度に留まった。また評価方法も授業終了時のアンケート(瀬戸,2011:荊木・森田・鈴木,2015)に留まり,尺度を用いてエビデンスをみた報告は見当たらなかった。
教育領域のIPEが遅れた背景に,医師や看護師といった多様な職種が混在する医療領域と異なり,SC導入により多職種連携が意識された経緯があり,多職種連携への問題意識が成熟していないと考えられる。しかし,医療領域のIPEの概要から示されている通り,多職種連携の態度を育む系統的学習は今後益々重要となり,教育領域でもIPEの系統的学習を開発する必要があるだろう。
現在学校では,不登校や発達障害,虐待等,児童生徒の様々な問題の対応に,チーム学校(文部科学省,2015)として,スクールカウンセラー(以下SCと表記)やスクールソーシャルワーカー等,多様な職種が教員と協働して子どもの支援に取り組むことが,緊急課題として挙げられている。しかし,学校場面にてこれらの異職種が教員との相互理解が難しいために,協働が取りにくいことが指摘されている(河村・武蔵・粕谷,2005)。
一方医療領域では,多職種連携教育(Inter-
Professional Education:以下IPEと表記)がチーム医療や高齢者包括的ケアの観点から,看護や医学,薬学,作業療法等の学部・学科合同で教材開発や演習,実習を行い,カリキュラムや評価法が蓄積されつつある(小林・黒臼・鈴木ら,2012)。
IPEの必要性は,教育領域でも同様であり,医療領域でのIPEの知見は,教育領域においても有用なものが存在すると考えられる。従って本研究では,医療領域におけるIPEの知見を概観し,教育領域への転用可能性の検討を目的とする。
方 法
Ciniiでの「多職種連携教育」「IPE」のキーワードから79件の論文を入手し,読んだ上で「カリキュラム」「カリキュラムと教育効果」「プログラム」に関連し,教育内容が詳細な25件を選択した。
選択した文献を,(1)対象者:どの学科の何年次を対象とするのか (2)カリキュラムの内容:どのような内容の学習なのか,(3)評価方法:教育効果の測定方法といった3つの観点から検討した。
この3観点を軸に,医療と教育領域でのIPEを比較検討し,教育領域での転用可能性を検討した。
結 果
(1) 対象者:対象組織では大学が20件,その内全学年対象が13件と一番多く見られた。他には大学院が2件,大学~社会人が1件,社会人が3件みられた。大学での参加学部・科は看護が20件と最も多く,続いて医学14件,理学療法11件であるが,学部・学科だけでも18種類と多岐にわたった。
(2)カリキュラムの内容:大学・大学院の学習内容23件を抜き出し,学年毎に多い1・2位を挙げた。 順に(数字は該当数),1年生ではIPW(inter professional work) の必要性・基本的考え方(5),人の尊厳と倫理観の講義,病院・施設見学(4),2年生は他職種理解(8),IPWの必要性・基本的考え方,チーム形成のスキル講義・演習(3),3年生は模擬事例のPBL(Problem based learning),チーム形成のスキル講義・演習,4年生以上・院生は多職種チーム実習(5),模擬事例のPBL(4),模擬患者の支援計画作成・カンファレンス(4)が見られた。
(3)評価方法:授業終了時のアンケートが8件,大学独自の連携行動尺度を開発・実施が4件みられた。IPEを測る尺度として,受講者のコミュニケーションや効力感の変化をみるKiss-18やGSES,IPEの志向性を測るRIPLS(Readiness for
interprofessional learning scale)の日本語版(Tamura,2012)等が見られた。パフォーマンス課題としては,支援計画の作成・発表が4件,多学部による糖尿病教室3件等が見られた。
考 察
医療領域IPEの概要:IPEの実践は卒前教育として発展し,全学年を通じた系統的学習が設定されていた。これらの系統的学習は,千葉大学の各学年でのキーコンピテンシー(酒井・朝比奈・前田他,2014)に代表されるように,系統的に積み上げる必要性を示唆していた。カリキュラムの内容でも,多職種連携の必要性や病院・施設の見学を通じて連携の基本的事項をおさえ,チーム形成のスキルや他職種を理解した上での模擬演習,多職種実習と学習が系統立てられていた。評価方法では,授業終了時のアンケートのみならず,大学独自の連携行動尺度開発やIPEを測る尺度,パフォーマンス課題等,エビデンスが蓄積されていた。
教育領域との比較:上述の3観点を教育領域の報告と比較したところ,教育領域では対象者は一部学年に留まり,カリキュラムの内容も模擬事例の検討(瀬戸,2011:荊木・森田・鈴木,2015)や他職種理解(荊木・森田・鈴木,2015)の報告が部分的に見られる程度に留まった。また評価方法も授業終了時のアンケート(瀬戸,2011:荊木・森田・鈴木,2015)に留まり,尺度を用いてエビデンスをみた報告は見当たらなかった。
教育領域のIPEが遅れた背景に,医師や看護師といった多様な職種が混在する医療領域と異なり,SC導入により多職種連携が意識された経緯があり,多職種連携への問題意識が成熟していないと考えられる。しかし,医療領域のIPEの概要から示されている通り,多職種連携の態度を育む系統的学習は今後益々重要となり,教育領域でもIPEの系統的学習を開発する必要があるだろう。