[PF62] 子どもたちはなぜいじめ場面で傍観するのか
ピアプレッシャーへの敏感さを指標とした検討
キーワード:いじめ, 傍観行動, ピアプレッシャー
問題と目的
いじめ場面で傍観者がいじめを促すような行動を多くとる学級ではいじめが頻発し,周囲にいる者たちが被害者を助けようとする傾向にある学級ではいじめがさほど起こらないといった研究が報告され(Salmivalli, Voeten, & Poskiparta, 2011),いじめの重篤化に傍観者の動向が大きく関わることが明らかになった。その一方で,仮想場面でほとんどの子どもがいじめ被害者を助けようとする意図を示したにもかかわらず,実際に被害者を助けた子どもは稀だったことが報告され(Rigby & Johnson, 2006),いじめ場面で傍観行動が起きる背景について様々な側面から検討が進められている。
森田(2010)は,いじめ場面で見て見ぬふりをする態度の背景には,「自分が被害者になることへの恐れ」「集団への同調志向」などがあることを指摘し,集団からの同調圧力(ピアプレッシャー)の影響を示唆した。本研究では,いじめ場面での傍観行動を類型化し,ピアプレッシャーへの敏感さと関連する要因がそれらの傍観行動を予測するかどうかについて学校段階差に注目して検討することを目的とする。
方 法
使用尺度 ①いじめ場面での傍観行動:Olweus (1996)で用いられた傍観項目を使用 ②ピアプレッシャーへの敏感さ:Nishino(2015)の8項目4件法 ③自己価値:松尾(1999)で使用された5項目4件法 ④援助要請:Pozzoli & Gini(2010)を参考に作成した5項目5件法 ⑤共感的関心:鈴木・木野(2008)から3項目4件法
調査時期と対象 2016年10月に小学4年生から中学3年生を対象に持ち帰りによる自宅回答での調査を実施。今回の分析対象は806名(小学生290名,女子55.2%;中学生516名,女子49.8%)。
結果と考察
傍観行動の種類 いじめ場面での行動のうち,傍観3タイプ((a)何もしない。ただ,いじめはあってもしかたないと思う。(b)それを見ているだけ。(c)何もしない。ただ,いじめを受けている児童生徒を助けるべきだと思う。)に該当する人数について学校段階による差をχ2検定により検討したところ,有意差が確認された(χ2 (2)=8.52, p<.05)。調整済み残差検定の結果,中学生では小学生に比べて(b)の人数が有意に多く,(c)の人数が有意に少ないことが示された(ともにp<.01)。これにより,小学生は中学生に比べて,いじめ場面で傍観することに対する罪悪感を持つ可能性が高いことが示唆されたといえよう。
ピアプレッシャーへの敏感さと関連する要因 ピアプレッシャーへの敏感さ,自己価値,援助要請,共感的関心の各変数間の関連を調べたところ,小中学生ともに,ピアプレッシャーへの敏感さに対していずれの変数も有意な負の相関を示した。
傍観行動3タイプとの関連 各尺度得点を従属変数とする分散分析(2(学校段階)×3(傍観タイプ))を行ったところ(Table 1参照),援助要請と共感的関心についてそれぞれ傍観タイプの主効果が確認された。援助要請では,中学生においてのみ,(c)の得点が(a)(b)より有意に高い(p<.001)ことが示された。共感的関心では,小学生において(c)の得点が(a)より有意に高く(p<.05),中学生において(c)の得点が(a)(b)より有意に高い(p<.001)ことが示された。
総合考察
いじめを低減するための効果的な方策の一つとして,いじめ場面で見て見ぬふりをする傍観者への介入が考えられる。本研究では,傍観行動の背景にある「ピアプレッシャーへの敏感さ」と関連する要因について検討したところ,自己価値,援助要請,共感的関心の各得点が高ければ,ピアプレッシャーへの敏感さが抑制される可能性が示唆された。また,小中学生ともに共感的関心の低さがいじめを正当化する可能性が予測され,さらに,中学生では,援助要請の高さが仲裁行動につながる可能性が示されたことから,いじめ低減に向けて,子どもたちの共感的関心を育み,援助要請しやすい環境を作る必要が確認されたといえよう。
付 記
本研究はJSPS科研費26380913の助成を受けた。
いじめ場面で傍観者がいじめを促すような行動を多くとる学級ではいじめが頻発し,周囲にいる者たちが被害者を助けようとする傾向にある学級ではいじめがさほど起こらないといった研究が報告され(Salmivalli, Voeten, & Poskiparta, 2011),いじめの重篤化に傍観者の動向が大きく関わることが明らかになった。その一方で,仮想場面でほとんどの子どもがいじめ被害者を助けようとする意図を示したにもかかわらず,実際に被害者を助けた子どもは稀だったことが報告され(Rigby & Johnson, 2006),いじめ場面で傍観行動が起きる背景について様々な側面から検討が進められている。
森田(2010)は,いじめ場面で見て見ぬふりをする態度の背景には,「自分が被害者になることへの恐れ」「集団への同調志向」などがあることを指摘し,集団からの同調圧力(ピアプレッシャー)の影響を示唆した。本研究では,いじめ場面での傍観行動を類型化し,ピアプレッシャーへの敏感さと関連する要因がそれらの傍観行動を予測するかどうかについて学校段階差に注目して検討することを目的とする。
方 法
使用尺度 ①いじめ場面での傍観行動:Olweus (1996)で用いられた傍観項目を使用 ②ピアプレッシャーへの敏感さ:Nishino(2015)の8項目4件法 ③自己価値:松尾(1999)で使用された5項目4件法 ④援助要請:Pozzoli & Gini(2010)を参考に作成した5項目5件法 ⑤共感的関心:鈴木・木野(2008)から3項目4件法
調査時期と対象 2016年10月に小学4年生から中学3年生を対象に持ち帰りによる自宅回答での調査を実施。今回の分析対象は806名(小学生290名,女子55.2%;中学生516名,女子49.8%)。
結果と考察
傍観行動の種類 いじめ場面での行動のうち,傍観3タイプ((a)何もしない。ただ,いじめはあってもしかたないと思う。(b)それを見ているだけ。(c)何もしない。ただ,いじめを受けている児童生徒を助けるべきだと思う。)に該当する人数について学校段階による差をχ2検定により検討したところ,有意差が確認された(χ2 (2)=8.52, p<.05)。調整済み残差検定の結果,中学生では小学生に比べて(b)の人数が有意に多く,(c)の人数が有意に少ないことが示された(ともにp<.01)。これにより,小学生は中学生に比べて,いじめ場面で傍観することに対する罪悪感を持つ可能性が高いことが示唆されたといえよう。
ピアプレッシャーへの敏感さと関連する要因 ピアプレッシャーへの敏感さ,自己価値,援助要請,共感的関心の各変数間の関連を調べたところ,小中学生ともに,ピアプレッシャーへの敏感さに対していずれの変数も有意な負の相関を示した。
傍観行動3タイプとの関連 各尺度得点を従属変数とする分散分析(2(学校段階)×3(傍観タイプ))を行ったところ(Table 1参照),援助要請と共感的関心についてそれぞれ傍観タイプの主効果が確認された。援助要請では,中学生においてのみ,(c)の得点が(a)(b)より有意に高い(p<.001)ことが示された。共感的関心では,小学生において(c)の得点が(a)より有意に高く(p<.05),中学生において(c)の得点が(a)(b)より有意に高い(p<.001)ことが示された。
総合考察
いじめを低減するための効果的な方策の一つとして,いじめ場面で見て見ぬふりをする傍観者への介入が考えられる。本研究では,傍観行動の背景にある「ピアプレッシャーへの敏感さ」と関連する要因について検討したところ,自己価値,援助要請,共感的関心の各得点が高ければ,ピアプレッシャーへの敏感さが抑制される可能性が示唆された。また,小中学生ともに共感的関心の低さがいじめを正当化する可能性が予測され,さらに,中学生では,援助要請の高さが仲裁行動につながる可能性が示されたことから,いじめ低減に向けて,子どもたちの共感的関心を育み,援助要請しやすい環境を作る必要が確認されたといえよう。
付 記
本研究はJSPS科研費26380913の助成を受けた。