[PF63] 教師の賞賛行動による教師自身のストレス反応およびワーク・エンゲイジメントの変容
縦断的インタビュー調査による変化プロセスの検討
Keywords:賞賛行動, 教師ストレス, インタビュー調査
問題と目的
児童生徒の不登校やいじめなどの諸問題に加え,バーンアウトといった教師のメンタルヘルスに関する課題が生じている。これに対し,教師による児童生徒への賞賛行動の有効性が示唆されている。
これまでに,教師の賞賛行動による児童生徒の授業妨害行動の減少や授業参加行動の増加が報告されており(e.g.,庭山・松見,2016),児童生徒の適応行動の促進,即ちストレッサーの減少による教師自身のバーンアウト軽減やワーク・エンゲイジエント(WE)向上の可能性を指摘することができる。また,Iijima & Katsuragawa(2018)は教師を対象とした質問紙調査によって,教師が児童生徒に対して行う賞賛行動が,児童生徒に対する認知などを介し教師自身のストレス反応に対して負の,WEに対して正の影響を持つことを示している。したがって,教師が児童生徒をほめることは,児童生徒だけでなく教師自身のメンタルヘルスに対しても効果を持つものであると考えられる。
しかし,児童生徒への賞賛行動が教師自身の ストレス反応やWEを好転させるプロセスについてはこれまで明らかにされていない。本研究は,介入実験と並行して継続的なインタビュー調査を行うことによって,教師が児童生徒をほめることでストレス反応およびWEを変容させていく変化プロセスについて検討した。
方 法
調査対象:賞賛行動を増加させる介入手続きとして,1ヶ月間の賞賛行動の自己記録を依頼した。これに取り組んだ公立小学校教師2名,中学校教師3名に対して,自己記録期間中に各教師3回の半構造化面接によるインタビュー調査を実施した(男性2名,女性3名,平均年齢29.60歳)。
調査時期:2017年6月~11月。
倫理的配慮:本研究は,早稲田大学「人を対象とする研究に関する倫理審査委員会」の審査・承認を得て行われた。
調査項目:①児童生徒への賞賛行動,②児童生徒に対する認知,③ストレス反応,④WE
結 果
佐藤(2008)の質的データ分析法に基づいたインタビューデータ分析の結果,16の概念が得られ,さらに4つのカテゴリーが生成された。また,分析の結果得られた概念関連図をFigure 1に示す。なお,概念は〈〉,カテゴリーは【】内に表記する。
概念関連図より,児童生徒への賞賛行動は,児童生徒の〈適応行動の促進〉や〈嬉しそうな反応〉などの【効果の体験】を得ることによって,直接的,あるいは間接的に【WEの向上】および〈児童生徒によるストレス反応の減少〉へと至ることが示された。WEに対して,児童生徒の〈嬉しそうな反応〉といった【効果の体験】から直接的に【WEの向上】へと至るプロセスに加え,〈コミュニケーションの増加〉などから〈信頼関係の深化〉を体験し〈捉え方の変化〉が起きる【児童生徒認知の変化】を介し【WEの向上】へ至るといった,複数の変化プロセスが得られた。
同様に〈児童生徒によるストレス反応の減少〉に対しても,〈指導の円滑化〉などによる直接的なストレッサーの減少によるものと,“子どもをプラスの発想で捉えられるようになってからあまりイライラしなくなった”といったような【児童生徒認知の変化】による間接的なプロセスが得られた。
考 察
賞賛行動によるWEとストレス反応双方への影響プロセスとして児童生徒認知の変化を介するものとそうでないものが得られた。しかし,児童生徒認知の変化を介さない場合,WEやストレス反応への効果は賞賛行動に対する児童生徒の即時的な反応に依存することとなり,効果の維持については不安定さを指摘できる。したがって,賞賛行動を繰り返す中で児童生徒認知の変容を促進することが,安定した教師のWE向上やストレス反応低減において重要であるといえる。
児童生徒の不登校やいじめなどの諸問題に加え,バーンアウトといった教師のメンタルヘルスに関する課題が生じている。これに対し,教師による児童生徒への賞賛行動の有効性が示唆されている。
これまでに,教師の賞賛行動による児童生徒の授業妨害行動の減少や授業参加行動の増加が報告されており(e.g.,庭山・松見,2016),児童生徒の適応行動の促進,即ちストレッサーの減少による教師自身のバーンアウト軽減やワーク・エンゲイジエント(WE)向上の可能性を指摘することができる。また,Iijima & Katsuragawa(2018)は教師を対象とした質問紙調査によって,教師が児童生徒に対して行う賞賛行動が,児童生徒に対する認知などを介し教師自身のストレス反応に対して負の,WEに対して正の影響を持つことを示している。したがって,教師が児童生徒をほめることは,児童生徒だけでなく教師自身のメンタルヘルスに対しても効果を持つものであると考えられる。
しかし,児童生徒への賞賛行動が教師自身の ストレス反応やWEを好転させるプロセスについてはこれまで明らかにされていない。本研究は,介入実験と並行して継続的なインタビュー調査を行うことによって,教師が児童生徒をほめることでストレス反応およびWEを変容させていく変化プロセスについて検討した。
方 法
調査対象:賞賛行動を増加させる介入手続きとして,1ヶ月間の賞賛行動の自己記録を依頼した。これに取り組んだ公立小学校教師2名,中学校教師3名に対して,自己記録期間中に各教師3回の半構造化面接によるインタビュー調査を実施した(男性2名,女性3名,平均年齢29.60歳)。
調査時期:2017年6月~11月。
倫理的配慮:本研究は,早稲田大学「人を対象とする研究に関する倫理審査委員会」の審査・承認を得て行われた。
調査項目:①児童生徒への賞賛行動,②児童生徒に対する認知,③ストレス反応,④WE
結 果
佐藤(2008)の質的データ分析法に基づいたインタビューデータ分析の結果,16の概念が得られ,さらに4つのカテゴリーが生成された。また,分析の結果得られた概念関連図をFigure 1に示す。なお,概念は〈〉,カテゴリーは【】内に表記する。
概念関連図より,児童生徒への賞賛行動は,児童生徒の〈適応行動の促進〉や〈嬉しそうな反応〉などの【効果の体験】を得ることによって,直接的,あるいは間接的に【WEの向上】および〈児童生徒によるストレス反応の減少〉へと至ることが示された。WEに対して,児童生徒の〈嬉しそうな反応〉といった【効果の体験】から直接的に【WEの向上】へと至るプロセスに加え,〈コミュニケーションの増加〉などから〈信頼関係の深化〉を体験し〈捉え方の変化〉が起きる【児童生徒認知の変化】を介し【WEの向上】へ至るといった,複数の変化プロセスが得られた。
同様に〈児童生徒によるストレス反応の減少〉に対しても,〈指導の円滑化〉などによる直接的なストレッサーの減少によるものと,“子どもをプラスの発想で捉えられるようになってからあまりイライラしなくなった”といったような【児童生徒認知の変化】による間接的なプロセスが得られた。
考 察
賞賛行動によるWEとストレス反応双方への影響プロセスとして児童生徒認知の変化を介するものとそうでないものが得られた。しかし,児童生徒認知の変化を介さない場合,WEやストレス反応への効果は賞賛行動に対する児童生徒の即時的な反応に依存することとなり,効果の維持については不安定さを指摘できる。したがって,賞賛行動を繰り返す中で児童生徒認知の変容を促進することが,安定した教師のWE向上やストレス反応低減において重要であるといえる。