The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PG] ポスター発表 PG(01-76)

Mon. Sep 17, 2018 10:00 AM - 12:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PG07] 保幼小連携における保育者からみた「ずれ」の認識

一前春子1, 秋田喜代美2, 天野美和子#3 (1.共立女子短期大学, 2.東京大学, 3.東京大学大学院)

Keywords:保幼小連携, 保育者, 移行

問題と目的
 幼児期から児童期への子どもの移行の支援の重要性については様々な国と地域で指摘されている(OECD, 2017)。学校と園の連携の取り組みの効果についても筆者らが明らかにしてきた(一前・秋田・天野, 2017)。しかしながら,連携の取り組みがある期間継続的に行われている学校・園であっても,保育者と小学校教諭が持っている連携への認識が共有されているかどうかについては明らかになっていない。保育者と小学校教諭の間には,連携のとらえ方の「ずれ」が存在することが想定される。
 そこで本研究は幼稚園・保育所・認定こども園の保育者が保幼小連携の取り組みの中で体験した連携の認識の「ずれ」について探索的に検討する。

方  法
協力者 自治体A市の3保育・幼児教育施設(幼稚園1・保育所1・認定こども園1)に所属する10名の保育者。
調査時期 2017年7月~10月に実施。
調査手続き 園ごとにグループインタビューを実施した。インタビュー1回の平均時間は1時間20分であった。
施設長と協力者本人からインタビューへの参加の承認を得た。
分析手続き 保育者の語りの逐語録を作成し,コーディング作業を行った。

結  果
 保育者の語りから,園と小学校とが連携する際に生じる4つの認識のカテゴリーが見出された。すべての園の語りに共通して4つの認識のカテゴリーが含まれていた。
交流の位置づけの違いにより生じるずれ
 小学校では交流活動を教科等の中で行事的活動として位置づけるが,園では日常の生活や遊び場面の中の位置づけて捉える場合が多い。連携の内容として期待しているものが小学校教諭と保育者では異なるため,保育者が「ずれ」を感じて取り組みのやり方を模索していた。
 A園保育者: 自然な交流,人と人との触れ合を大事にしたいのですが,(中略)あちらはやはり総合の中で枠を取るので。(中略)「これから交流の会を始めます。司会,5年1組,誰々さん」とか,こんなふうなのじゃなかったのになみたいな…
子どもの学びの見とり方の違いにより生じるずれ
 小学校では教科等の到達度により,その教育的効果の有無として評価するが,園では交流活動における子どもの表情や発話等の反応から,そこでの子どもの経験や学びを見とる。子どもの学びや育ちに対する考え方について小学校教諭と保育者の間に違いがあることへの気づき,あるいは存在すると思っていた違いが存在しなかったことへの気づきを,保育者は「ずれ」としてとらえていた。
 B園保育者:小学校の先生は,上から下ろしてっていう。で,子どもが聞いて学ぶみたいな感じなんだけど。園の子どもたちっていうのは,みんなが何かやっているのを,先生たちが見つけて,引っ張り出すっていう…(以下略)
組織の職務や分担の違いにより生じるずれ
 連携に関わる園側と小学校側の担当者間の報連相においての意思疎通の難しさがあり,役割分担や,担当教員の責任の範囲等の十分な打ち合わせがされにくい。連携に関わる担当者がどのような形で役割分担するのか,担当者間の連絡はどのように行われるかといった連携の組織化の不透明性に対して,保育者は「ずれ」を認識していた。
 C園保育者:保健の先生だったりとか,教頭先生だったりとか,来られる先生ももちろんいるんですけれども,一番見ていただきたい低学年の先生方が,なかなか(中略)難しいということをおっしゃられるんですね。
生活時間の違いにより生じるずれ
 小学校では時間割に沿って学校生活が営まれるが,園では園生活全般が遊びと基本的な生活で成り立っているという生活時間の違いが存在する。授業という単位で子どもの活動をとらえることに対して,保育者は「ずれ」を感じていた。
 A園保育者:(前略)やっぱり時数を確保するのが大変なんですって,学校の先生は。でも最近は,「そんな時間はありません」ではなくて,「時数を確保するのが難しい」みたいなことをおっしゃった…(以下略)

考  察
 連携が継続的に行われている学校・園においても保育者は,交流の位置づけの違いにより生じるずれ,子どもの学びの見とり方の違いにより生じるずれ,組織の職務や分担の違いにより生じるずれ,生活時間の違いにより生じるずれを感じていることが示された。子どもの移行を支援するという目的を共有していても,その移行を支援する体制や連携内容に関して相互に深く本音を伝え合う機会を得ることが課題であると考えられる。

引用文献
一前春子・秋田喜代美・天野美和子 (2017). 保幼小連携の効果に対する保育者・小学校教諭の認識―施設種・免許資格・自治体の観点から 国際幼児教育研究, 24, 45-58.
OECD (2017). Starting Strong V: Transitions from Early Childhood Education and Care to Primary Education. Oecd Publishing.

付  記
ご協力いただいたA市の保育者の方々に心から御礼申し上げます。なお,本研究はJSPS科研15K04332の助成を受けたものです。