[PG09] 第一子出産後の女性と社会のつながり方の変化
Keywords:出産後, 関係の変化, 場の移動
問題・目的
本研究の目的は,妊娠と出産による有職者女性と社会とのつながり方の変化を「場」の移動に伴う全人格的学習という観点から,探索的に明らかにするものである。従来,妊娠や出産後の女性の心理的変化は,夫婦間での就労継続に関する意見の不一致や家事・育児分担のあり方への葛藤(e.g., 小坂・柏木, 2007, 東海林, 2006),育児不安(小林他, 2006),職場復帰後のキャリア形成の困難さなど,家庭や職場との関係に関心が向けられてきた。
しかし,出産後の女性は家庭や職場だけでなく公園や子育て支援,病院など出産前とは異なる複数の場を移動する主体でもある。本研究では,コミュニティへの参加が何者かになっていくこと(全人格的学習)という状況論の立場から(e.g., Lave & Wenger, 1991/ 1993),第一子出産後の女性が妊娠・出産後に社会とのつながり方をいかに意味づけているかを検討する。
方 法
調査協力者:育休中であるもしくは出産前は有職者で仕事復帰を考えている0~3歳までの第一子を持つ母親5名を対象とした。調査協力者の年齢は30~38歳であった。
調査時期・調査方法:X年3月。関東近郊で街頭調査を実施し,調査趣旨に同意した対象者に半構造化面接を行った。調査協力者には学歴,職歴,同居家族,出産時の状況などの他に,(1)妊娠・出産によって社会との関係がどのように変化したか,(2)自身の経験から,今は実現していないが今後社会に求める変化について尋ねた。
結果と考察
つながり方の変化
(1) 産後初期のつながり
産後初期では「(出産後に外出が難しくなり)他の人と,ただ,ちょっと切り離された感じ」といった社会と自分とが切り離された感覚や,身体的負担が語られた。この語りと同時に,夫の育児休暇中の過ごし方や残業を減らすなど夫の帰宅時間に関する工夫が言及された。子どもが生まれたことによる「家族」の変化に対する夫婦間での関心の向け方が,切り離された感覚や身体的負担に対する意味づけに影響を与えていると推察される。
(2) 移動を伴うつながり
育児を行なう場が家庭内から家庭外の場へと拡がると,他者とのつながり方に関する新たな意味づけが行なわれる。たとえば子育て広場への参加があげられる(Table 1)。
ここでの交流は子育ての悩みの共有だけでなく子どもの成長を共に喜ぶなどの情動的交換が含まれていた。ただし,職場復帰や再就職,保育所への入園後のつながりの変化も同時に見通しており,子育て広場への参加が継続的なものではないとも考えられていた。
(3) つながりを通した「未来の自分」
また,これまで挨拶しかしなかった同じマンションの人と何気ない会話が生まれるなど,これまでと異なる社会とのつながり方への言及があった。「(何気ない会話であっても)うれしいし…私も年取ったら,こういうふうに話し掛けられるとすごい助かるなと思ったんで,優しくしてもらえるといいなっていうふうに思うようになりました」など,なろうとする未来の自分が語られていた。
経験から描き出される今後実現してほしい社会とのつながり方
社会に実現してほしい変化として,待機児童の解消や両親との関係改善などが挙げられた。特に待機児童の問題については,職場復帰もしくは職探しと保育園探しの厳しさがあるという。また自分1人の解決ではなく,同じ境遇の仲間で集まるいわば「サード・プレイス」として,年齢が近い子どもを育てる家族が住めるシェアハウスや子連れで行ける職場などの場が描きだされた。
以上より,第一子出産後の女性は,出産前のつながりの一部は希薄化する一方で,以前とは異なる場で子育てを契機として構築したつながりによって,未来への見通しを持ち,情動的な結びつきを形成する可能性が示唆された。
本研究の目的は,妊娠と出産による有職者女性と社会とのつながり方の変化を「場」の移動に伴う全人格的学習という観点から,探索的に明らかにするものである。従来,妊娠や出産後の女性の心理的変化は,夫婦間での就労継続に関する意見の不一致や家事・育児分担のあり方への葛藤(e.g., 小坂・柏木, 2007, 東海林, 2006),育児不安(小林他, 2006),職場復帰後のキャリア形成の困難さなど,家庭や職場との関係に関心が向けられてきた。
しかし,出産後の女性は家庭や職場だけでなく公園や子育て支援,病院など出産前とは異なる複数の場を移動する主体でもある。本研究では,コミュニティへの参加が何者かになっていくこと(全人格的学習)という状況論の立場から(e.g., Lave & Wenger, 1991/ 1993),第一子出産後の女性が妊娠・出産後に社会とのつながり方をいかに意味づけているかを検討する。
方 法
調査協力者:育休中であるもしくは出産前は有職者で仕事復帰を考えている0~3歳までの第一子を持つ母親5名を対象とした。調査協力者の年齢は30~38歳であった。
調査時期・調査方法:X年3月。関東近郊で街頭調査を実施し,調査趣旨に同意した対象者に半構造化面接を行った。調査協力者には学歴,職歴,同居家族,出産時の状況などの他に,(1)妊娠・出産によって社会との関係がどのように変化したか,(2)自身の経験から,今は実現していないが今後社会に求める変化について尋ねた。
結果と考察
つながり方の変化
(1) 産後初期のつながり
産後初期では「(出産後に外出が難しくなり)他の人と,ただ,ちょっと切り離された感じ」といった社会と自分とが切り離された感覚や,身体的負担が語られた。この語りと同時に,夫の育児休暇中の過ごし方や残業を減らすなど夫の帰宅時間に関する工夫が言及された。子どもが生まれたことによる「家族」の変化に対する夫婦間での関心の向け方が,切り離された感覚や身体的負担に対する意味づけに影響を与えていると推察される。
(2) 移動を伴うつながり
育児を行なう場が家庭内から家庭外の場へと拡がると,他者とのつながり方に関する新たな意味づけが行なわれる。たとえば子育て広場への参加があげられる(Table 1)。
ここでの交流は子育ての悩みの共有だけでなく子どもの成長を共に喜ぶなどの情動的交換が含まれていた。ただし,職場復帰や再就職,保育所への入園後のつながりの変化も同時に見通しており,子育て広場への参加が継続的なものではないとも考えられていた。
(3) つながりを通した「未来の自分」
また,これまで挨拶しかしなかった同じマンションの人と何気ない会話が生まれるなど,これまでと異なる社会とのつながり方への言及があった。「(何気ない会話であっても)うれしいし…私も年取ったら,こういうふうに話し掛けられるとすごい助かるなと思ったんで,優しくしてもらえるといいなっていうふうに思うようになりました」など,なろうとする未来の自分が語られていた。
経験から描き出される今後実現してほしい社会とのつながり方
社会に実現してほしい変化として,待機児童の解消や両親との関係改善などが挙げられた。特に待機児童の問題については,職場復帰もしくは職探しと保育園探しの厳しさがあるという。また自分1人の解決ではなく,同じ境遇の仲間で集まるいわば「サード・プレイス」として,年齢が近い子どもを育てる家族が住めるシェアハウスや子連れで行ける職場などの場が描きだされた。
以上より,第一子出産後の女性は,出産前のつながりの一部は希薄化する一方で,以前とは異なる場で子育てを契機として構築したつながりによって,未来への見通しを持ち,情動的な結びつきを形成する可能性が示唆された。