[PG19] 有用性を感得させる算数教育のあり方に関する研究
算数はどのようなときに役に立つと考えられているか
Keywords:算数教育, 有用性, 道具的動機付け
問題と目的
日本は,2015年に実施された国際学習到達度調査(PISA)の平均得点が参加国・地域72カ国の中で5位,2015年に実施された国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)においては,小学校4年生で調査に参加した49カ国中で5位,中学校2年生で39カ国中5位の結果で上位である。しかし,PISA 2012の生徒の学習における動機づけ及び自己信念に関する質問紙調査の結果の中の「数学における道具的動機付け」の割合では,65カ国中64位と低い位置にある(PISA2015では,道具的動機付けの順位が発表されていない)。「数学における道具的動機付け」とは,「将来の仕事に役立ちそうだから頑張る価値がある。」,「将来の仕事の可能性を広げてくれるから学びがいがある。」等といった内容である。また,「数学における自己効力感」の質問項目には,「○○の問題等を解く自信があるか。」があり,日本の子どもは,日常生活に結びつくような問題を解く場合においての自信が,他の代数的な問題を解くときに比べ,低いという傾向もある。この傾向は,TIMSS 2015の数学・算数への意識に関する質問紙調査の結果においても同様であり,「将来,自分が望む仕事につくために数学で良い成績をとる必要がある。」や「数学を使うことが含まれる職業につきたいか。」の質問に「強くそう思う。」と回答した生徒の割合は,国際平均を下回っている。
また,2017年12月に中央教育審議会が発表した「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」を受け,新学習指導要領が3月に告示された。新学習指導要領では,予測困難な時代に対して,子ども一人ひとりが柔軟に対応できる「生きる力」を育むために,「主体的・対話的で深い学び」の実現が大きなテーマとして掲げられている。
これらのことから,筆者は,日本の算数・数学
教育の課題のひとつは,子どもたちが有用性を感得していない,すなわち,算数・数学は,日常生活や将来の生活に役立つと思えていないことであると捉えた。そこで本研究は,まず,算数がどのような場面で役に立つと考えられているかを調査し,「有用性」の定義を明らかにすることを目的とする。
方 法
調査方法:質問紙調査 調査日時:2018年3月
調査協力者:女子大学生203名
調査内容:50通りの日常生活の場面を挙げ,「次のような場面で,算数がどの程度役に立つと感じていますか。」という設問に対して,「全く役に立たない」から「非常に役に立つ」の4件法で回答を求めた。
結 果
算数の有用性に関する50項目の回答結果に対して,因子分析(主因子法・Promax回転)を行った。十分な因子負荷量を示さなかった2項目を除外した48項目で再度同じ手法の因子分析を行い,さらに十分な因子負荷量を示さなかった4項目と,複数の因子に高い負荷量を示した7項目は除外した。その結果,5因子が抽出された。第1因子は,新聞を読むときや歴史を覚えるとき等の項目から構成されていることから「知的作業」と命名した。第2因子は,考え事をするときや問題の原因や理由を考えるとき等の項目から構成されていることから「物事を論理的に考えるとき」と命名した。第3因子は,手芸をするときや絵を描くとき等の項目から構成されていることから「創作活動をするとき」と命名した。第4因子は,買い物をするときや1枚のピザを何人かで分けるとき等の項目から構成されていることから「日常生活場面」と命名した。第5因子は,実験をするときや高校受験のときの項目から構成されていることから「受験勉強のとき」と命名した。
日本は,2015年に実施された国際学習到達度調査(PISA)の平均得点が参加国・地域72カ国の中で5位,2015年に実施された国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)においては,小学校4年生で調査に参加した49カ国中で5位,中学校2年生で39カ国中5位の結果で上位である。しかし,PISA 2012の生徒の学習における動機づけ及び自己信念に関する質問紙調査の結果の中の「数学における道具的動機付け」の割合では,65カ国中64位と低い位置にある(PISA2015では,道具的動機付けの順位が発表されていない)。「数学における道具的動機付け」とは,「将来の仕事に役立ちそうだから頑張る価値がある。」,「将来の仕事の可能性を広げてくれるから学びがいがある。」等といった内容である。また,「数学における自己効力感」の質問項目には,「○○の問題等を解く自信があるか。」があり,日本の子どもは,日常生活に結びつくような問題を解く場合においての自信が,他の代数的な問題を解くときに比べ,低いという傾向もある。この傾向は,TIMSS 2015の数学・算数への意識に関する質問紙調査の結果においても同様であり,「将来,自分が望む仕事につくために数学で良い成績をとる必要がある。」や「数学を使うことが含まれる職業につきたいか。」の質問に「強くそう思う。」と回答した生徒の割合は,国際平均を下回っている。
また,2017年12月に中央教育審議会が発表した「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」を受け,新学習指導要領が3月に告示された。新学習指導要領では,予測困難な時代に対して,子ども一人ひとりが柔軟に対応できる「生きる力」を育むために,「主体的・対話的で深い学び」の実現が大きなテーマとして掲げられている。
これらのことから,筆者は,日本の算数・数学
教育の課題のひとつは,子どもたちが有用性を感得していない,すなわち,算数・数学は,日常生活や将来の生活に役立つと思えていないことであると捉えた。そこで本研究は,まず,算数がどのような場面で役に立つと考えられているかを調査し,「有用性」の定義を明らかにすることを目的とする。
方 法
調査方法:質問紙調査 調査日時:2018年3月
調査協力者:女子大学生203名
調査内容:50通りの日常生活の場面を挙げ,「次のような場面で,算数がどの程度役に立つと感じていますか。」という設問に対して,「全く役に立たない」から「非常に役に立つ」の4件法で回答を求めた。
結 果
算数の有用性に関する50項目の回答結果に対して,因子分析(主因子法・Promax回転)を行った。十分な因子負荷量を示さなかった2項目を除外した48項目で再度同じ手法の因子分析を行い,さらに十分な因子負荷量を示さなかった4項目と,複数の因子に高い負荷量を示した7項目は除外した。その結果,5因子が抽出された。第1因子は,新聞を読むときや歴史を覚えるとき等の項目から構成されていることから「知的作業」と命名した。第2因子は,考え事をするときや問題の原因や理由を考えるとき等の項目から構成されていることから「物事を論理的に考えるとき」と命名した。第3因子は,手芸をするときや絵を描くとき等の項目から構成されていることから「創作活動をするとき」と命名した。第4因子は,買い物をするときや1枚のピザを何人かで分けるとき等の項目から構成されていることから「日常生活場面」と命名した。第5因子は,実験をするときや高校受験のときの項目から構成されていることから「受験勉強のとき」と命名した。