[PG37] 一般化された数学的概念に関する概念的理解の深化を促進する授業の実証的研究
力学領域の事象を手掛かりとした指数の一般化に着目して
Keywords:概念的理解, 数学的概念, 一般化
問題と目的
数学での一般化とは,はじめにあった概念や手法について,その性質のいくつかを保ちつつ,適用範囲を広くなるようにする操作である(中島,2015)。一般化された数学的概念の理解に関する研究は数学教育学の中に存在し(e.g.,岩崎,2007),概念的理解の深化に関する研究も教育心理学の中に存在する(e.g.,藤村,2012)。しかし,関連づける知識の属する領域の差による,概念的理解の深化の差を検討した研究は見当たらない。
以上に基づき本研究では,「数学領域以外の多様な知識の関連づけ」を意図した授業を行う群(実験群)と,「数学領域の多様な知識の関連づけ」を意図した授業を行う群(統制群)の一般化された数学的概念に関する概念的理解の深化の差を検討する。
方 法
対象および実施時期 埼玉県内の私立高等学校の1年生(実験群N=25,統制群N=26)を対象とした。実施時期は2017年9月4日から7日であり,研究協力校のカリキュラムでは単元「指数関数と対数関数」の導入部を行う時期であった。授業者は教職2年目の男性教師であった。
調査課題 事前テスト,事後テストともに,指数関数的減少に関する記述型問題(以下「指数関数的減少問題」)と指数関数的増加に関する記述型問題(以下「指数関数的増加問題」)を実施した。
手続き 事前テスト(20分,2課題),第1時授業(30分,2課題),第2時授業(50分,2課題),事後テスト(20分,2課題)の順に,2群の実施時期を揃えて実施した。授業過程は1台のビデオカメラおよび2台のICレコーダーにより記録した。実施に先立ち,教頭から研究協力許可を得ていた。
結果と考察
本稿では一般化された指数に関する概念的理解の深化の各群の差を報告する。分析では,一般化された指数に関する概念的理解を測定するために,事象が指数関数的変化だと捉えた上で,一般化された指数の本質(増加率一定性)を記述しているかという規準を用いた。Table 1に問題種毎の各群における規準通過人数の変化を示す。問題種毎に,標準得点zによる検定によって,群(実験群,統制群)×テスト(事前,事後)の2要因の比率の差に関する交互作用の検定(岡,1990)を行い,2群の通過率の変化を比較した。その結果を以下に示す。
指数関数的減少問題では群間の交互作用は有意(z=2.370,p=.018)であった。下位検定として,Fisherの直接確率計算法(両側検定)により,事前テストと事後テストにおける2群の通過率の差を分析したところ,両テストとも差は有意でなかった(事前:p=.291,事後:p=.164)。また,二項検定により,2群の事前テストから事後テストにおける通過人数の変化を分析したところ,実験群は通過人数の増加が有意であった(p<.001)が,統制群は通過人数の増加が有意でなかった(p=.344)。
指数関数的増加問題では群間の交互作用は有意傾向であった(z=1.882,p=.060)。下位検定の結果は,事前テストでは2群の増加率の差は有意でなかった(p=.727)が,事後テストでは有意傾向であった(p=.095)。また,通過人数の変化は,実験群は通過人数の増加が有意であった(p=.002)が,統制群は通過人数の増加が有意でなかった(p=.388)。
以上の結果から,実験群の方が統制群よりも,一般化された指数に関する概念的理解の深化が促進されたことが明らかになった。
具体的,日常的な事象を用いた問題についての議論を行うことで,多様な知識の関連づけがより促進され,増加率一定性という一般化された指数の本質の理解がより促進されることが示唆された。
数学での一般化とは,はじめにあった概念や手法について,その性質のいくつかを保ちつつ,適用範囲を広くなるようにする操作である(中島,2015)。一般化された数学的概念の理解に関する研究は数学教育学の中に存在し(e.g.,岩崎,2007),概念的理解の深化に関する研究も教育心理学の中に存在する(e.g.,藤村,2012)。しかし,関連づける知識の属する領域の差による,概念的理解の深化の差を検討した研究は見当たらない。
以上に基づき本研究では,「数学領域以外の多様な知識の関連づけ」を意図した授業を行う群(実験群)と,「数学領域の多様な知識の関連づけ」を意図した授業を行う群(統制群)の一般化された数学的概念に関する概念的理解の深化の差を検討する。
方 法
対象および実施時期 埼玉県内の私立高等学校の1年生(実験群N=25,統制群N=26)を対象とした。実施時期は2017年9月4日から7日であり,研究協力校のカリキュラムでは単元「指数関数と対数関数」の導入部を行う時期であった。授業者は教職2年目の男性教師であった。
調査課題 事前テスト,事後テストともに,指数関数的減少に関する記述型問題(以下「指数関数的減少問題」)と指数関数的増加に関する記述型問題(以下「指数関数的増加問題」)を実施した。
手続き 事前テスト(20分,2課題),第1時授業(30分,2課題),第2時授業(50分,2課題),事後テスト(20分,2課題)の順に,2群の実施時期を揃えて実施した。授業過程は1台のビデオカメラおよび2台のICレコーダーにより記録した。実施に先立ち,教頭から研究協力許可を得ていた。
結果と考察
本稿では一般化された指数に関する概念的理解の深化の各群の差を報告する。分析では,一般化された指数に関する概念的理解を測定するために,事象が指数関数的変化だと捉えた上で,一般化された指数の本質(増加率一定性)を記述しているかという規準を用いた。Table 1に問題種毎の各群における規準通過人数の変化を示す。問題種毎に,標準得点zによる検定によって,群(実験群,統制群)×テスト(事前,事後)の2要因の比率の差に関する交互作用の検定(岡,1990)を行い,2群の通過率の変化を比較した。その結果を以下に示す。
指数関数的減少問題では群間の交互作用は有意(z=2.370,p=.018)であった。下位検定として,Fisherの直接確率計算法(両側検定)により,事前テストと事後テストにおける2群の通過率の差を分析したところ,両テストとも差は有意でなかった(事前:p=.291,事後:p=.164)。また,二項検定により,2群の事前テストから事後テストにおける通過人数の変化を分析したところ,実験群は通過人数の増加が有意であった(p<.001)が,統制群は通過人数の増加が有意でなかった(p=.344)。
指数関数的増加問題では群間の交互作用は有意傾向であった(z=1.882,p=.060)。下位検定の結果は,事前テストでは2群の増加率の差は有意でなかった(p=.727)が,事後テストでは有意傾向であった(p=.095)。また,通過人数の変化は,実験群は通過人数の増加が有意であった(p=.002)が,統制群は通過人数の増加が有意でなかった(p=.388)。
以上の結果から,実験群の方が統制群よりも,一般化された指数に関する概念的理解の深化が促進されたことが明らかになった。
具体的,日常的な事象を用いた問題についての議論を行うことで,多様な知識の関連づけがより促進され,増加率一定性という一般化された指数の本質の理解がより促進されることが示唆された。