The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表

[PG] ポスター発表 PG(01-76)

Mon. Sep 17, 2018 10:00 AM - 12:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PG41] 道徳ジレンマ課題における「価値」の分類

早坂太志1, 高橋知己2 (1.上越教育大学大学院, 2.上越教育大学)

Keywords:道徳ジレンマ課題, 価値判断

問題と目的
 多種多様な価値の混在する社会において,道徳は必要不可欠である。ここでは,いくつかの価値の中で一つの価値を優先して判断することを道徳判断と指す。筆者らはそうした道徳判断を状況によらず判断することが道徳的であると考える。そこで,本研究では道徳ジレンマ(道徳的な葛藤をもたらす状況)課題を調査対象に与え,回答してもらった。その回答をもとに,個人が優先する価値を分類し,どのような価値判断基準を持っているのかを明らかにするのが目的である。

方  法
調査対象:J大学大学院の大学院生17名(男子11名,女子6名)。
調査時期:2018年2月上旬に実施。
調査手続き:以下の道徳ジレンマ課題に対して,自由記述で回答を求めた。「ある朝,満員電車で立ちながら大きな荷物を持っているおばあさん(おじいさん)がいました。あなたはおばあさん(おじいさん)の前の席に座っていました。あなたは座るために始発に乗っていました。」,「あなたならどうしますか,また理由も回答してください。」とした。その結果収集された「応答」と「理由」の計34文,2569文字について分析対象とした。

結  果
 自由記述の回答から6つの概念「内的自己」「外的自己」「内的他者」「外的他者」「社会的調整」「社会的決定」が抽出された。それらは,「利己的価値」「利他的価値」「公利的価値」の3つの上位カテゴリーにまとめることができた(Table 1)。6つの概念に類型化された価値に対しては,6人の大学院生に分類をそれぞれ個別に実施し,その後Cronbachのα係数による評定者間の一致率を検討した結果α=.84であり,信頼性は十分であると判断した。よって,どのような価値判断基準があるのか確認できた。
本研究結果では道徳ジレンマ課題に遭遇したとき,優先している価値の多くは自他の感情・欲求であることが示された。

考  察
 人間は発達することで高次な価値を優先するようになるのだろうか。本研究では,自他の感情・欲求のような低次な価値に分類される記述が多いことから道徳性は発達していないと考えられる。コールバーグの認知的発達理論では,判断の内容(価値)ではなく,判断の理由によって発達段階を分けている。筆者らは,道徳は経験をもとにして,子どもが自ら築き上げていくものではなく,教育することで,学習するものだと考えている。そのためには,価値観が混乱している社会において,価値を精緻化し「次元」を設けることが道徳教育の一助となるであろう。また,年齢による道徳性の発達段階ではなく,価値による発達段階があると推察する。そこで,バンデューラの社会的認知理論の立場から,道徳性の発達を人間の内部からではなく,外部からの価値判断基準を用いた教育によってとらえられるのではないだろうか。