The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PG] ポスター発表 PG(01-76)

Mon. Sep 17, 2018 10:00 AM - 12:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PG47] キャリア志向及び「母性愛」信奉傾向とワーク・ファミリー・コンフリクトとの関連

就業形態による検討

江上園子 (愛媛大学)

Keywords:キャリア志向, 「母性愛」信奉傾向, ワーク・ファミリー・コンフリクト

問題と目的
 仕事と家庭の両立では双方での役割が相互にぶつかり合うことで葛藤が生じて双方に悪い影響を与えるというワーク・ファミリー・コンフリクト(Kahn et al, 1964)研究が進められてきた。共働き世帯でも女性が依然として家事育児を担っている我が国で,コンフリクトを抑制する要素について見出すことは重要であろう。そこで本研究では個人の仕事や家庭への態度にかかわる側面として「キャリア志向」と「『母性愛』信奉傾向」を取り上げ,これらの心理的な要因がワーク・ファミリー・コンフリクトを抑制し得るのか,分析・検討したい。

方  法
調査時期:2017年8月~2018年2月。調査対象:乳幼児を養育中で職業を持つ(産休・育休・就職活動中も含む)女性615名。項目:仕事と家庭に対する満足感(それぞれ10点満点)・キャリア志向尺度16項目(松井, 1990)・「母性愛」信奉傾向尺度13項目(江上, 2005, 2007)・ワーク・ファミリー・コンフリクト尺度18項目(渡井・錦戸・村嶋, 2006)。手続き:E県M市内の保育園に調査の目的について説明のうえ,質問紙配布の協力を要請し,同意が得られた園に配布・回収を依頼した。

結果と考察
因子分析:全尺度について分析を行った結果,キャリア志向尺度,「母性愛」信奉傾向尺度,ワーク・ファミリー・コンフリクト尺度は一次元として解釈することが妥当であることがわかった。信頼性係数はそれぞれ順にα= .91, .88, .90であった。重回帰分析:フルタイム勤務とパートタイム勤務では労働時間や勤務の融通の利かなさなどの点でコンフリクトの生じ方に違いがあることが想定されるため,フルタイムとパートタイムの女性に分け,ワーク・ファミリー・コンフリクトを目的変数とする重回帰分析を行った。説明変数はそれぞれ仕事満足度・家庭満足度・キャリア志向・「母性愛」信奉傾向である。1.フルタイム:仕事と家庭での満足感を統制変数として投入し,その後でキャリア志向と「母性愛」信奉傾向を投入し,説明率の増加が有意であるかどうかを確認した。その結果,仕事と家庭での満足度を統制した上でも,「母性愛」信奉傾向がワーク・ファミリー・コンフリクトに有意な正の影響を与えていることがわかった。2.パートタイム:仕事と家庭での満足感を統制変数として投入し,その後キャリア志向と「母性愛」信奉傾向を投入して説明率の増加が有意であるかどうかを確認したが,説明率の増加は有意ではなかった。パートタイムの女性では仕事満足度と家庭満足度のみがワーク・ファミリー・コンフリクトに有意な正の影響を与えている。
 ワーク・ファミリー・エンリッチメントにおいては女性のキャリア志向が正の影響を与えるが(江上, 2018),ワーク・ファミリー・コンフリクトではキャリア志向は女性の就業形態によらず作用しないこと,フルタイムの女性の場合は「母性愛」信奉傾向が負の影響を与えるということが本研究から明らかになった。ワーク・ファミリー・エンリッチメントの項目内容を概観すると,両立における疲労や仕事と家庭との断絶を示唆するものが多い。パートタイムの女性では単純に仕事や家庭に満足していることが単純に双方の役割を持つことの疲労やストレスを軽減させるが,フルタイムの女性では単純な満足度だけではなく「母性愛」信奉傾向が両立における疲労やストレスを増大させている。その背後には,「子どものためにそばにいてあげたい」,「手をかけてあげたい」という動機や意欲の高さが,フルタイム勤務のゆえにそれが困難であるという状況下で女性のワーク・ファミリー・コンフリクトを増大させているという経路が推測される。キャリアへの意欲があっても,それは緩和されないということだろう。今後もデータ数を増やし,心理的well-beingとの関連も視野に入れて検討を行っていきたい。

付  記
 本研究は科学研究費若手研究(B)「キャリア志向の女性における母親としての発達―『母性愛』信奉傾向との関連―」(課題:23730616)による助成を受けた。