The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PG] ポスター発表 PG(01-76)

Mon. Sep 17, 2018 10:00 AM - 12:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PG48] 父親の育児家事参加と母親の育児不安の検討

家庭内ゲートキーパーに着目して

今村三千代 (聖徳大学)

Keywords:育児不安, 父親の育児家事参加, ゲートキーパー

問題と目的
 日本の親研究は,父親の子育て関与が母親の精神的健康や子どもの発達に対してよい影響があることを繰り返し報告してきたが,母親自身が父親の関与を封じてしまう可能性についてはほとんど検討されてこなかった(加藤,黒澤,神谷,2012)。
 アメリカの研究で報告されているMaternal Gatekeepingという現象は,この「母親自身が父親の関与を封じてしまう可能性」について検討したものである。
 日本では中川(2010)が,伝統的な性別役割分業観やMaternal Gatekeeping(S.M.Allen et al.1999)の意識によって,夫への働きかけという行動が抑えられていることを示唆している。中川はS.M.Allen et al.のMaternal Gatekeepingを,妻の育児・家事への責任意識(家庭責任意識)とし,妻の家庭責任意識と育児家事遂行が夫の育児家事行動を制約することを示した。
 母親の子育てのストレスを軽減するもっとも重要な要因は夫である(ハロウェイ,2014)。にも拘わらずこの最も頼るべき父親の育児家事参加への抵抗を示すという母親は,どのような状態におかれているのであろうか。育児家事関与が先進国のなかで最も少ない(OECD)といわれる日本の父親たちは,この母親にどう影響を与えているのであろうか。そして父親の育児家事参加を抑制するという母親は,中川のいう「家庭責任意識」をもって積極的に家事を引き受け,生き生きと過ごしているのであろうか。
 本研究では,アメリカを中心に研究され,中川が「家庭責任意識」としたMaternal Gatekeepingという概念を著者なりに捉えなおし,その実情について踏み込んだ分析を試みた。
 父親の育児家事行動を抑制または促進する母親の信念と行動を家庭内ゲートキーパーと定義し,父親の育児家事参加,母親自身の育児不安との関連を調べるため,家庭内ゲートキーパー尺度と家庭生活感尺度を作成することを目的とする。

方  法
 A県内の幼稚園に通う3歳から5歳の子をもつ母親270名を対象に質問紙調査を行った。209名から回答があり,回収率は77%であった。調査時期は2014年12月であった。
家庭内ゲートキーパー尺度(自作)
 父親の育児家事参加を抑制または促進する母親の心理,行動傾向を測定する尺度は日本では見当たらなかったため,新たに作成した。作成にあたっては,S.M.Allen et al.(1999)のMaternal Gatekeeping Dimensionと,Jay Fagan and Marina Barnett(2003)のMaternal Gatekeeping Scaleを参考に項目を収集し,4件法で回答を求めた。
家庭生活感尺度(自作)
予備調査で得られた「子どもを育てる過程で得られる肯定的・否定的感情」と,育児不安尺度の作成に関する研究(吉田・山中・巷野・太田・山口・牛島,2013)を参考に,家庭生活の満足度に関する質問紙を作成し,就学前の子供を育てる母親の肯定的・あるいは否定的な心理状態について回答を求めた。

結  果
家庭内ゲートキーパー尺度の因子構造
 主因子法プロマックス回転による因子分析の結果,「配慮と支援」「家事否定」「諦め」「縄張り意識」の4因子が抽出された。
家庭生活感尺度の因子構造
 主因子法プロマックス回転による因子分析の結果,「家庭満足感」「不平等感」「育児不安」「家庭責任感」の4因子が抽出された。

考  察
 家庭内ゲートキーパー尺度で抽出された4因子は,S.M.Allen et al.のMaternal Gatekeeping Dimensionの3次元構造とは一部異なっていた。「諦め」と「縄張り意識」は先行研究において指摘されておらず,アメリカにおける先行研究とは異なる因子構造が認められ,日本の独自性があらわれた結果となった。なかでも「縄張り意識」は,ゲートキーパーという言葉自体があらわす「門番」という概念と共通の,ある種の囲い込みともいえる母親の心理状態を表すものである。家庭内で重要な位置を占める育児家事という領域に母親自身が固執し,父親にその領域を明け渡すことに抵抗を感じる母親の心理状態を示すものといえる。

文  献
Sarah M. Allen and Alan J. Howkins(1999). Maternal Gatekeeping : Mothers’Beliefs and Behaviors That Inhibit Grater Father Involvement in Family Work Journal of Marriage and the Family 61 199-212