[PG50] 幼児期の父親と母親の育児不安に関連する個人・家庭・園要因の検討
Keywords:パーソナリティ, Big 5, SDQ
問 題
子ども・子育て支援新制度がスタートし,幼稚園・保育所・認定こども園における子育て支援への取り組みの重要性が指摘されている。育児不安を説明する要因についての知見は,保育教育施設が子育て支援を行ううえでも必要と考えられる。
我が国では1980年代以降養育者の育児不安や育児ストレスを扱った研究が増加し関連要因が明らかにされてきた(吉田,2012)。しかし,乳児期の母親のみの調査が多く,幼児期における父親と母親を対象とした研究は少ない。本研究は,生態学的な立場(Bronfenbrenner, 1994)から,親の個人要因・家庭要因・園要因を同時に検討する。
方 法
調査方法:調査会社のモニター登録者に対するWEBアンケート調査(2017年7月実施)
調査対象者:日本全国の幼児保育教育施設3歳・4歳クラスに通う子どもを持つ父親400名(M = 39.78; SD = 4.92 )・母親400名(M = 34.73; SD = 4.65)
質問内容:①育児不安感(4項目4件法),②親のパーソナリティは,Big 5理論に基づくMINI(村上・村上,1997)より,知的好奇心,良識性,外向性,協調性,情緒安定性を使用(各10項目2件法),③暮らし向き(1項目6件法),④就労状況(就労・非就労),⑤配偶者の有無,⑥子どもの困難は,「子どもの強さと困難さアンケート(SDQ; Goodman, 2000)」より親評価による主観的困難を使用(1項目4件法),⑦親の保育者園満足感(12項目4件法)。本研究は本学の倫理委員会の承認を受けた後,研究協力者への説明をWEBアンケート上で行い同意を得たうえで実施した。
結果と考察
調査対象者の属性は,就労有り72.4%(専業主婦(夫)27.6%),配偶者有り家庭98.1%(一人親家庭1.9%)であった。母親は,育児不安,外向性,協調性の値が有意に高く,父親は,開放性,良識性,情緒安定性,就労状況の値が有意に高かった(Table 1)。
引き続き,育児不安を目的変数として,階層的重回帰分析を行った。統制変数として,Step1では親の性別と年齢を投入した。Step2ではパーソナリティ要因(知的好奇心,良識性,外向性,協調性,情緒安定性)を投入した。
Step3では家庭要因(就労状況,配偶者の有無,暮らし向き,主観的困難)を投入した。さらに,Step4では園要因として保育者園満足感を投入した。分析の結果,Step1において性別の偏回帰係数は有意な正の値,年齢は有意な負の値を示していた。Step2では,開放性,協調性,情緒安定性の偏回帰係数は有意な負の値を示した。Step3では,配偶者の有無と暮らし向きの偏回帰係数は有意な負の値,主観的困難の偏回帰係数が有意な正の値を示した。Step4では,保育者園満足感,性別,年齢は有意とならなかった。Step1からStep3まで分散説明率の増分は有意であり,開放性,協調性,情緒安定性,配偶者の有無,暮らし向き,主観的困難により育児不安の分散の37%を説明していた(adjR2 = .37)
分析の結果,幼児期の育児不安は母親のほうが強いものの,育児不安を予測する因子として,パーソナリティの偏り,サポートの少なさ,経済的問題,子どもの問題など多領域にわたる要因が存在すること,これらの効果を投入すると性差や年齢の効果が消えることが示された。今後は,各要因から育児不安につながるプロセスの違いに関する検証が必要と考えられる。
付 記
本研究は平成27年度科学研究費基盤研究(C)15K01750の助成を受けた。
子ども・子育て支援新制度がスタートし,幼稚園・保育所・認定こども園における子育て支援への取り組みの重要性が指摘されている。育児不安を説明する要因についての知見は,保育教育施設が子育て支援を行ううえでも必要と考えられる。
我が国では1980年代以降養育者の育児不安や育児ストレスを扱った研究が増加し関連要因が明らかにされてきた(吉田,2012)。しかし,乳児期の母親のみの調査が多く,幼児期における父親と母親を対象とした研究は少ない。本研究は,生態学的な立場(Bronfenbrenner, 1994)から,親の個人要因・家庭要因・園要因を同時に検討する。
方 法
調査方法:調査会社のモニター登録者に対するWEBアンケート調査(2017年7月実施)
調査対象者:日本全国の幼児保育教育施設3歳・4歳クラスに通う子どもを持つ父親400名(M = 39.78; SD = 4.92 )・母親400名(M = 34.73; SD = 4.65)
質問内容:①育児不安感(4項目4件法),②親のパーソナリティは,Big 5理論に基づくMINI(村上・村上,1997)より,知的好奇心,良識性,外向性,協調性,情緒安定性を使用(各10項目2件法),③暮らし向き(1項目6件法),④就労状況(就労・非就労),⑤配偶者の有無,⑥子どもの困難は,「子どもの強さと困難さアンケート(SDQ; Goodman, 2000)」より親評価による主観的困難を使用(1項目4件法),⑦親の保育者園満足感(12項目4件法)。本研究は本学の倫理委員会の承認を受けた後,研究協力者への説明をWEBアンケート上で行い同意を得たうえで実施した。
結果と考察
調査対象者の属性は,就労有り72.4%(専業主婦(夫)27.6%),配偶者有り家庭98.1%(一人親家庭1.9%)であった。母親は,育児不安,外向性,協調性の値が有意に高く,父親は,開放性,良識性,情緒安定性,就労状況の値が有意に高かった(Table 1)。
引き続き,育児不安を目的変数として,階層的重回帰分析を行った。統制変数として,Step1では親の性別と年齢を投入した。Step2ではパーソナリティ要因(知的好奇心,良識性,外向性,協調性,情緒安定性)を投入した。
Step3では家庭要因(就労状況,配偶者の有無,暮らし向き,主観的困難)を投入した。さらに,Step4では園要因として保育者園満足感を投入した。分析の結果,Step1において性別の偏回帰係数は有意な正の値,年齢は有意な負の値を示していた。Step2では,開放性,協調性,情緒安定性の偏回帰係数は有意な負の値を示した。Step3では,配偶者の有無と暮らし向きの偏回帰係数は有意な負の値,主観的困難の偏回帰係数が有意な正の値を示した。Step4では,保育者園満足感,性別,年齢は有意とならなかった。Step1からStep3まで分散説明率の増分は有意であり,開放性,協調性,情緒安定性,配偶者の有無,暮らし向き,主観的困難により育児不安の分散の37%を説明していた(adjR2 = .37)
分析の結果,幼児期の育児不安は母親のほうが強いものの,育児不安を予測する因子として,パーソナリティの偏り,サポートの少なさ,経済的問題,子どもの問題など多領域にわたる要因が存在すること,これらの効果を投入すると性差や年齢の効果が消えることが示された。今後は,各要因から育児不安につながるプロセスの違いに関する検証が必要と考えられる。
付 記
本研究は平成27年度科学研究費基盤研究(C)15K01750の助成を受けた。