The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表

[PG] ポスター発表 PG(01-76)

Mon. Sep 17, 2018 10:00 AM - 12:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PG51] 児童における思考態度の類型

鈴木茜1, 伊與田万実#2, 今井正司3 (1.名古屋学芸大学大学院, 2.名古屋学芸大学, 3.名古屋学芸大学)

Keywords:児童, マインドセット, 動機付け

研究の背景と目的
 近年,欧米を中心とした教育先進国においては,学習能力の促進とともに「マインドセット(mindset:思考態度)」に関する研究が教育分野において盛んになっている。マインドセットと呼ばれる思考態度は,「固定的思考態度(fixed mindset)」と「成長的思考態度(growth mindset)」から構成されていることが明らかにされている(Dweck, 2012)。固定的思考態度とは,能力とは固定的で変えられないものであると信じ,自分の能力を繰り返し証明せずにはいられない思考様式だとされている。一方の成長的思考態度は,人間の基本的資質は努力次第で伸ばすことができると信じるような思考様式である。固定的思考態度が強い場合は,失敗を恐れるために挑戦を避ける傾向が強く,その結果として能力が伸び悩んでしまうことが教育的観察により明らかにされている。反対に,成長的思考態度が強い場合は,挑戦したいという気持ちが向上することから,優れた成果をあげることが確認されている。しかしながら,これらの研究は欧米を中心に実施されたものであり,日本で研究を実施する際には,文化差の影響性について確認しておく必要がある。また,日本においては,成人の思考態度を測定した翻訳版は存在するが,児童を対象とした尺度は存在しないのが現状である。本研究では,日本の児童における思考態度を測定する尺度をオリジナルで作成することを通して,日本児童における思考態度の特徴について探索的に検討することを目的とした。

方  法
1. 児童版思考態度尺度における原項目の作成
児童臨床心理学を専門とする大学教員と養護教諭の免許を有する大学院生を含めた3名によって,児童における思考態度を測定する児童版思考態度尺度(Mindset Scale for Children:MSC)の原項目を作成した(54項目4件法)。
2. 調査対象者
東海圏の公立小学校3校に在学する5年生および6年生173名を対象に,MSCを用いた一斉調査を実施した。調査にあたっては,「任意であること」「成績には影響しないこと」「プライバシーは保護されること」などについて十分に説明した後,調査用紙を配布した。未回答と記入漏れを除いた144名分を有効回答として分析の対象とした。なお,本研究は名古屋学芸大学研究倫理委員会の審査・承認を受けて行われた(倫理番号:225)。

結  果
 MSCにおける各原項目の記述統計量を算出し,得点分布に偏りがある項目と天井効果・床効果を示した項目を確認した。それらに該当する27項目分を削除し,残りの原項目を対象に回転のない最尤法による因子分析を実施した。その結果,スクリープロットの推移を参考にし,2因子構造が妥当であることを確認した。それらの結果をもとに,2因子に固定した因子分析(最尤法・プロマックス回転)を実施した。その結果,因子負荷量が0.40以下の項目と0.35以上の多重負荷を示した項目(12項目分)が認められたため,それらの項目を削除したうえで,再び因子分析を実施した(その結果,削除該当項目が示されなかった)。第1因子においては,「失敗はとても恥ずかしいので,他の人には見られたくないと思う」「失敗をした時には,自分には無理だったと考える」などの項目によって構成されていることから,先行研究を参考にし,「固定的思考態度(10項目:α=.85)」と命名した。第2因子は,「失敗をしても,方法を変えて何度も挑戦をする」「目標は高ければ高いほどやる気がでる」などの項目によって構成されていることから「成長的思考態度(5項目:α=.73)」と命名した。因子間の相関を検討した結果,有意な負の相関が示された(r=-.462, p<.001)。

考  察
 本研究の結果から,日本の児童における思考態度も「固定的思考態度」と「成長的思考態度」に類型されることが明らかにされた。これらの類型は,先行研究と同様の構成概念であることから,文化の影響を受けにくい概念であることが考えられる。しかしながら,本研究の知見は思考態度の「類型」であり,それぞれの因子の概念を測定しているとは現段階では言い難い。今後はMSCの信頼性と妥当性を高めながら,児童における思考態度の形成メカニズムやその影響力について検討することが求められる。