The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PG] ポスター発表 PG(01-76)

Mon. Sep 17, 2018 10:00 AM - 12:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PG54] 大学における留年・退学防止に向けた一考察

入学時の学力・大学生活への期待に着目して

東平彩亜1, 雪田和人#2, 五島敬史郎#3, 鳥井昭宏#4 (1.愛知工業大学, 2.愛知工業大学, 3.愛知工業大学, 4.愛知工業大学)

Keywords:大学適応

問題と目的
 近年多くの大学において,退学の防止対策が大きな課題となっている。大学の中退者は少なくとも年間6万人以上とみられ,非正規雇用増加の要因になるなど社会的損失が大きいだけでなく,大学進学率が50%を超え,ユニバーサル・アクセスが実現した今日では,多様な入学意思を持つ学生が入学し,大学における修学や生活にうまく適応できない事例が増加するのは当たり前のこととして,退学率の多さは大学が教育機関として果たすべき役割を果たしていないとみなす厳しい意見もある(例えば山本, 2011)。
 このような状況の中,窪内(2009)は多くの大学で実施されている退学防止を目的とした多くの学生支援が学問的根拠に基づくものではないことを指摘し,新入生を対象にした退学防止に関する今までの心理学的研究から得られた知見を基に新入生のニーズにそった効果的な支援の在り方を提案した。具体的には入学後できるだけ早期に授業欠席者や成績不良者を発見するシステムの構築などがある。
 本研究では退学防止に向けて将来の成績不良者を早期に発見することを可能にするために,入学時に得られる学生情報から後々の成績不良を予測できる要因がないか探索的に検討を行った。

方  法
研究協力者:
2017年4月に愛知県の某私立大学に入学した学生138名(男性132名,女性6名)。
実施方法:
2017年4月のオリエンテーションにて入学者を対象に調査を実施した。実施時間は約90分であった。
調査内容:
学生情報の測定には大学生基礎力レポートⅠ(株式会社ベネッセi-キャリア)を利用した。基礎学力,英語運用能力,日本語理解力,判断推理力,職業への興味,進路に対する意識・行動,協調的問題解決力,学びへの意識,学びへの取り組み,力をいれたいこと,履修選択の考え方,学生生活への不安等が測定された。あわせて前期,後期それぞれの時点での単位取得状況を集計した。

結  果
 得られた学生情報についてAMOS Version 22.0(IBM Corp.)を用いてパス解析を行った。その結果,英語運用能力と協調的問題解決の下位尺度である続ける経験から前期の単位数不足に有意なパスが確認され,後期の単位数不足は前期の単位数不足から有意なパスが確認された(Figure 1.参照; χ(3)=4.060, p=.255, RMSEA=.051, GFI=.985, AGFI=.949)。
 また合わせて,入学時の学生情報から留年という結果を予測できるかパス解析を行ったところ,英語運用能力から,学びへの意識の下位尺度である学びへのコミットを媒介して有意なパスが確認された(Figure 2.参照; χ(1)=.385, p=.480, RMSEA=.000, GFI=.996, AGFI=.978)。

考  察
 入学時の英語の運用能力の低さが前期の単位数不足を予測し,後期の単位数不足につながる可能性が示された。更に学びへのコミットの低さが加わると留年の危険性が高まることも示唆された。基礎学力ではなく英語運用能力によって単位数不足が説明されたのは予想外の結果ではあったが,1年次の学生にとって語学の授業の負担は決して軽視できるものではない。更に必修科目で単位を落とすこともできない。大学という新しい環境で初めて経験する困難が英語の授業なのかもしれない。その困難感を軽減する,もしくはその困難を乗り越える高い学びの意識が求められる。