[PG56] 子どもの貧困対策としての学習支援に関する研究
心理的な側面に着目して
Keywords:子どもの貧困, 学習支援,
問題と目的
近年,日本各地で子どもの貧困対策として学習支援活動が行われている。しかし,貧困対策における学習支援事業では学習支援のみならず心理的支援が必要であることや,ボランティア確保の問題がある等課題は多い(加瀬, 2014)。また,貧困対策における学習支援の実態や効果,意味ついて心理的側面から調査された研究は少ない。そこで本研究では,学習支援の実態や効果について検討するために保護者への調査を行い(調査Ⅰ),ボランティアの意識を検討するために,家庭教師や塾講師といった一般的な学習支援と貧困対策として行われる学習支援とを比較検討する(調査Ⅱ)。
調査Ⅰ
目的:保護者の学習支援に対するニーズ,保護者が感じている学習支援の効果,学習支援に参加している子どもの適応を明らかにする。
方法:①調査協力者:学習支援事業に参加している子どもの保護者27名(母親26名,祖母1名)。②質問紙の内容:学習支援へのニーズ,子どもの学習面の変化(学習支援の効果),子どもの適応。
結果と考察:保護者の学習支援へのニーズは「高校に進学させたいから」,「基礎的な学力を身につけさせたいから」にあてはまる保護者が74.1%と最も多く,学力の向上が期待されていることが分かった。子どもの学習面の変化(学習支援の効果)については「2. 子どもが,学校の授業がわからないというようになった(逆転項目)」の平均値が3.19と一番高く,「8. 子どもが,宿題をきちんとやるようになった」の平均値が2.93と続いた。低所得世帯では保護者が子どもの教育について考える余裕がないと指摘があることから (小澤・小池・石本・島崎・沼野・大桃, 2012),保護者の学習面の負担や心配が減ることになると思われ,学習支援は意味が大きいといえる。子どもの適応について,保護者は子どもの友人領域,社会領域,健康領域における適応を良いと評定していることが示された。
調査Ⅱ
目的:貧困対策として行われている学習支援の特徴を明らかとし,学習支援ボランティアの実際や心理的支援について考察し,学習支援をより良いものとするためのヒントを得ることである。
方法:①調査協力者:学習支援ボランティア35名(大学生15名,大学院生15名,その他5名)と,一般的な学習支援(家庭教師・塾講師)の経験のある学生75名(大学生48名,大学院生27名)。②質問紙の内容:学習支援を始めたきっかけ,難しさや悩み,達成感,学んだこと。
結果と考察:学習支援ボランティアに参加したきっかけとして最も多かったのは「アルバイトをしたかったから(48.6%)」であった。学習支援における悩みについてt検定を行った結果,学習支援ボランティアよりも家庭教師・塾講師の方が悩みを感じていることが示された。一方で,子どもと関わる中で自分の役割については悩みを持ちやすいことが示唆された。また学習支援における達成感についてt検定を行った結果,いくつかの項目において学習支援ボランティアよりも家庭教師・塾講師の方が有意に得点が高かった。学習支援ボランティアは一般の学習支援よりも達成感を得にくいことが示された。学習支援で学んだこととして,学習支援ボランティアでは「教えることの難しさの学び」,「自分自身についての学び」,「貧困という視点からの学び」が挙げられた。このことから,学習支援ボランティアには,定期的な研修やスーパービジョンを受ける機会が必要だといえる。
今後の課題
今後,保護者へ尋ねた学習領域の変化をより学習支援の取り組みに合わせた内容にすること,子どもへの調査を行うことが課題である。
付 記
本研究は,平成29年度鳴門教育大学大学院学校教育研究に提出した修士論文を加筆修正したものである。
近年,日本各地で子どもの貧困対策として学習支援活動が行われている。しかし,貧困対策における学習支援事業では学習支援のみならず心理的支援が必要であることや,ボランティア確保の問題がある等課題は多い(加瀬, 2014)。また,貧困対策における学習支援の実態や効果,意味ついて心理的側面から調査された研究は少ない。そこで本研究では,学習支援の実態や効果について検討するために保護者への調査を行い(調査Ⅰ),ボランティアの意識を検討するために,家庭教師や塾講師といった一般的な学習支援と貧困対策として行われる学習支援とを比較検討する(調査Ⅱ)。
調査Ⅰ
目的:保護者の学習支援に対するニーズ,保護者が感じている学習支援の効果,学習支援に参加している子どもの適応を明らかにする。
方法:①調査協力者:学習支援事業に参加している子どもの保護者27名(母親26名,祖母1名)。②質問紙の内容:学習支援へのニーズ,子どもの学習面の変化(学習支援の効果),子どもの適応。
結果と考察:保護者の学習支援へのニーズは「高校に進学させたいから」,「基礎的な学力を身につけさせたいから」にあてはまる保護者が74.1%と最も多く,学力の向上が期待されていることが分かった。子どもの学習面の変化(学習支援の効果)については「2. 子どもが,学校の授業がわからないというようになった(逆転項目)」の平均値が3.19と一番高く,「8. 子どもが,宿題をきちんとやるようになった」の平均値が2.93と続いた。低所得世帯では保護者が子どもの教育について考える余裕がないと指摘があることから (小澤・小池・石本・島崎・沼野・大桃, 2012),保護者の学習面の負担や心配が減ることになると思われ,学習支援は意味が大きいといえる。子どもの適応について,保護者は子どもの友人領域,社会領域,健康領域における適応を良いと評定していることが示された。
調査Ⅱ
目的:貧困対策として行われている学習支援の特徴を明らかとし,学習支援ボランティアの実際や心理的支援について考察し,学習支援をより良いものとするためのヒントを得ることである。
方法:①調査協力者:学習支援ボランティア35名(大学生15名,大学院生15名,その他5名)と,一般的な学習支援(家庭教師・塾講師)の経験のある学生75名(大学生48名,大学院生27名)。②質問紙の内容:学習支援を始めたきっかけ,難しさや悩み,達成感,学んだこと。
結果と考察:学習支援ボランティアに参加したきっかけとして最も多かったのは「アルバイトをしたかったから(48.6%)」であった。学習支援における悩みについてt検定を行った結果,学習支援ボランティアよりも家庭教師・塾講師の方が悩みを感じていることが示された。一方で,子どもと関わる中で自分の役割については悩みを持ちやすいことが示唆された。また学習支援における達成感についてt検定を行った結果,いくつかの項目において学習支援ボランティアよりも家庭教師・塾講師の方が有意に得点が高かった。学習支援ボランティアは一般の学習支援よりも達成感を得にくいことが示された。学習支援で学んだこととして,学習支援ボランティアでは「教えることの難しさの学び」,「自分自身についての学び」,「貧困という視点からの学び」が挙げられた。このことから,学習支援ボランティアには,定期的な研修やスーパービジョンを受ける機会が必要だといえる。
今後の課題
今後,保護者へ尋ねた学習領域の変化をより学習支援の取り組みに合わせた内容にすること,子どもへの調査を行うことが課題である。
付 記
本研究は,平成29年度鳴門教育大学大学院学校教育研究に提出した修士論文を加筆修正したものである。