The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PG] ポスター発表 PG(01-76)

Mon. Sep 17, 2018 10:00 AM - 12:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PG64] 「精神的充足・社会的適応力」評価尺度と心理的柔軟性との関連(1)

精神的充足の変化と柔軟性の分析

加藤陽子1, 綿井雅康2 (1.十文字学園女子大学, 2.十文字学園女子大学)

Keywords:精神的充足, 社会的適応力, 心理的柔軟性

問題と目的
 文部科学省は,現行の学習指導要領において子どもたちの「生きる力」を育むことを目指し,「確かな学力」「豊かな人間性」「健康・体力」の3点に注力するよう促している。中でも「豊かな人間性」は「自らを律しつつ,他人とともに協調し,他人を思いやる心」とされ,「目標を達成する力」「他者と協調する力」「情動を制御する力」などに代表されるいわゆる非認知的能力(OECD,2015)といえよう。学校教育においては,知識の獲得と共に非認知的能力をどのように育成していくかが問われている(桂川,2017)。そこで,本研究では,「自らを律しつつ,他人とともに協調し,他人を思いやる心」を心理的柔軟性ととらえ,生徒の「豊かな人間性」を伸長する要因を検討すべく,精神的充足・社会的適応力に着目する。精神的充足・社会的適応力は,これまで登校行動の維持や集団適応,無気力の抑制などと関連することが指摘されている(加藤ら,2008;綿井ら,2006;綿井ら,2005)。そのため,本研究では,精神的充足・社会的適応力と心理的柔軟性との関連について検討する。
 ところで,綿井ら(2016,2017)は,自ら「心の精神的充足や社会的適応力を生徒自身が把握し振り返ることができる自己アセスメント型心理教材(KJQ-M)を開発し,継続的にそれを活用するという実践が,生徒の自律性や心理的柔軟性の継続的な向上に寄与するかを検討した。その結果,自己アセスメント型心理教材の継続的な活用によって,精神的充足・社会的適応力ともに上昇した生徒は,下降した生徒より「問題解決」と「他者理解」が高いことが示された。また,教材の継続的な実践が,教師の学級経営のしやすさに影響を及ぼすことも明らかにされている(たとえば,猪熊ら,2012)。
 そこで本研究では,自己アセスメント型心理教材の継続的な活用による生徒の心の状態,中でも精神的充足の変化が心理的柔軟性とどのように関連するかについて明らかにすることを目的とする。

方  法
調査時期 ①2017年10月,②2018年3月。
調査対象者 首都圏にある公立中学校に通う中学生のうち2時点ともに回答した生徒計155名(男子84名,女子71名)。
調査内容 ①「精神的充足・社会的適応力」評価尺度(菅野ら,2002;57項目4件法),②心理的柔軟性を測定する尺度:レジリエンス・非柔軟性を測定する尺度(石毛,2006;平野,2010)を参考にして再構成した(23項目5件法)。

結果と考察
 はじめに心理的柔軟性を測定する尺度について因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行い,下位構造を確認したところ4下位尺度(「拡張意欲的活動性(α=.90)」「内面共有(α=.89)」「楽観性(α=.65)」「他者理解(α=.73)」)が得られた。
精神的充足の変化と心理的柔軟性との関連 
 次に,精神的充足と心理的柔軟性の関連について検討するため,精神的充足の3特性の変化量と2時点目の心理的柔軟性との間に相関係数を求めた(Table1)。その結果,「安心感」と「楽しい体験」は「内面共有」との間に有意な正の相関がみられた。さらに「認められる体験」も「内面共有」「楽観性」との間に有意な正の相関がみられた。このことから,精神的充足得点,中でも認められる体験が増加すると,生徒は内面共有を図り楽観性が増すことが示唆された。
精神的充足の変化別に見た心理的柔軟性 
 次に,2時点の精神的充足得点を比較し,得点が上昇した者を上昇群,低下した者を低下群,同一の者を無変化群に分類し,3群を独立変数,心理的柔軟性得点を従属変数とする一要因分散分析を行った。その結果,「内面共有」に有意な差がみられ,上昇群は低下群に比べて「内面共有」得点が高いことが示された(F(2,152)=5.56, p<.01)。この結果から,精神的充足が上昇した生徒は低下した生徒に比べて,自分の考えや気持ちを他者と共有しようすることが示唆された。したがって,精神的充足を伸ばす働きかけを行うことが他者との内面共有を促すと考えられた。
  (KATO Akiko,WATAI Masayasu)