The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表

[PG] ポスター発表 PG(01-76)

Mon. Sep 17, 2018 10:00 AM - 12:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PG75] 内発的・外発的目標に着目した学習意欲の質の簡便な測定方法の開発

クラスター分析による類型化と高校1・2年次の縦断的検討から

伊田勝憲 (静岡大学)

Keywords:目標内容理論, 動機づけ, アイデンティティ

問題と目的
 伊田(2017,2018発心発表)では,高校生の学習意欲の質を少ない項目数で捉えるために, Vansteenkiste, Lens, & Deci(2006)などの目標内容理論(goal contents theory)及びOyserman(2015)などのアイデンティティに基づく動機づけ(identity-based motivation)の考え方を参考に,<タイプ1:外発的目標> 有名大学,経済的成功等を重視する生徒像,<タイプ2:内発的目標> 自己の成長,社会的貢献等を重視する生徒像,<タイプ3:自由>高校生活の自由を重視する生徒像,そして<タイプ4:模索>目標の不明確さや学習方法等の不安を抱えつつも将来を模索している生徒像を描いた計4つの刺激文(各180文字前後)の開発を試みた。それぞれの生徒像が自分にどの程度当てはまるかの5段階評定をもとに,生徒の学習意欲の質の個人差についてクラスター分析による類型化を試み,6つの類型とアイデンティティ等の変数との関連が見られている。本研究では,高校1年次と2年次の縦断的データから,2年分を同じ基準で類型化し,各生徒の属する類型の安定性あるいは変容の傾向について探索的に検討する。

方  法
(1)調査時期:2016年6月・2017年6月。(2)対象:都市部の全日制高校(普通科と専門学科の併置校)において2016年度に1年次に在籍していた生徒323名のうち,2017年度に2年次に在籍し,かつ2回ともに回答に不備のなかった306名。(3)調査内容:学習意欲の質に関する4つの生徒像の記述について自分があてはまる程度の5段階評定と,自分に最も近いものの強制選択を求めた(同点のタイプが複数ある場合は直感で1つだけ選ぶよう教示文で指示した)。なお,今回の分析には強制選択の回答は用いていない。また,アイデンティティや学習行動等に関する19項目 (谷,2001他,調査対象校の教諭から提案のあった独自項目を含む)及び対象校の教育プログラムへの期待等を尋ねる47項目について5段階評定を求めたが,今回の分析には用いていない。

結果と考察
 4つの刺激文への評定に基づくクラスター分析により,伊田(2017)とほぼ同様の6類型が得られ,1年次と2年次での分類結果の対応ごとに人数をまとめた(Table)。カイ二乗検定を行い,調整済み残差を求めた結果,6つ全ての類型(志向)において,同じ志向が維持されやすいことが示された。内発模索志向を除く5つの志向では,それぞれ4割前後(33.8%~48.6%)の生徒が1年後にも同じ志向に分類された。内発模索志向については同じ志向に分類された生徒が2割余(43名中10名)であったが,その分,内発模索志向から両目標模索志向への移行(13名)が生じやすいことが示され,模索が継続しつつも,内発的目標に加えて外発的目標も高まった生徒が一定数いることを示している。
 一方,内発目標志向から両目標模索志向,自由模索志向から内発目標志向への類型移行,内発模索志向と両目標追求志向の相互の類型移行は生じにくいことが示された。このことは,類型移行がランダムに生じているのではないことを示していると考えられ,類型移行の生起しやすさに一定程度のパタンがあると推測される。
 これらのことから,学習意欲の質を示す類型については,一定程度の安定性がありつつも,1年間の学習活動への取組等によって生じると思われる学習意欲の質の変容を類型移行という形で捉えることができているものと考えられる。今後の課題としては,さらなる縦断データの蓄積(3年間及び異なる入学年)によるコホート比較や多様な学校のデータによる検討,また,具体的にどのような学習経験がどの類型移行パタンと関連しているのか,さらには類型移行に伴ってアイデンティティやキャリア発達においても変容が認められるのか等について検討することが挙げられる。

付  記
本研究は JSPS 科研費16K04298の助成を受けたものである。