[PH02] 中学・高校生女子のコンピテンスと抑うつ
2コホートの縦断研究から
Keywords:中学生, 高校生, コンピテンス
問 題
自尊心や自己受容などの自己評価は,女子中学生において低下することが指摘されている(e.g,真栄城,2005)。相良・鈴木(2017)も縦断的データを用いて,中2でコンピテンスの一つである自己価値が有意に低下することを示している。本研究では,2コホートの3年間の縦断データを用いて,この点を確認する。さらに,自己価値との強い関連が報告されている社会コンピテンスに加え,思春期に生起する場合の多い抑うつ傾向について,高校生も対象にしてその推移を検討し,変数間の関連も検討する。
方 法
調査対象 201X年に入学した私立女子中学生92名と高校の入学者178名,翌年に入学した中学生76名と高校の入学者160名を対象とし,3年間追跡調査した。中,高校それぞれ2コホートの縦断データである。
手続き 質問紙調査法。コンピテンスと抑うつ傾向については毎年7月に調査をした。調査票は担任を通じて配布,回収された。
調査内容 コンピテンス:児童用コンピテンス尺度(桜井,1992)の自己価値,および社会コンピテンスを使用した。各10項目,4件法(1点~4点)による回答。抑うつ傾向:日本版DSRS-C(18項目,3件法)。
本研究は,第一著者の所属する大学の「ヒューマンスタディに関する倫理審査委員会」の承認を得て実施した。
結 果
1.コンピテンスの3年間の推移
中学生の自己価値について,コホート別に3年間の変化をFigure1に示した。分散分析の結果,学年の効果が有意(F(2,174)=8.44,p<.001,η2=.088)であり,多重比較(Bonferroni法)の結果,1年生と2年生,1年生と3年生の間で有意に低下していた。コホートの効果も有意(F(1,87)=4.21,p<.05,η2=.046)であった。社会コンピテンスについては,分散分析の結果,学年の効果が有意(F(2,166)=5.64,p <.01,η2=.064 )であり,多重比較の結果,1年生と2年生,1年生と3年生の間で有意に低下していた。コホートの効果は有意ではなかった。
高校生については,自己価値および,社会コンピテンスにおいて学年間もコホート間も有意な差異は認められなかった。
2.抑うつ傾向の3年間の推移
中学生の抑うつ傾向については,分散分析の結果,学年の効果が有意(F(2,186)=5.49,p<.01,η2=.056)であった。多重比較の結果,1年生と2年生,1年生と3年生の間で有意(p<.05)に上昇していた。コホートの効果は有意ではなかった。高校生の抑うつ傾向については,学年の効果が有意(F(2,504)=3.35,p<.05, η2=.01)であり,多重比較の結果,1年生と2年生の間で有意(p<.05)に得点が増加していた。
3.コンピテンスと抑うつ傾向の関連
自己価値と抑うつ傾向の相関係数は,中学生は,-.628 ~ -.677,高校生は,-.562~-.652の高い値が得られた。社会コンピテンスと抑うつ傾向の間にも,中学生は-.633~-.680,高校生は-.608~-.610という高い負の相関係数が得られた。
考 察
女子中学生において,1年生から2年生の間に自己価値は低下することが,2つのコホートから明らかにされた。また,女子中学,高校生共通して自己価値の低下は抑うつ傾向の増加と関連することが示された。自己価値が社会コンピテンスと強い関連があることから,中学生前半時期の対人関係の自信の喪失が自己価値を低下させ,抑うつ傾向を高めることが推察される。今後,思春期の女子の社会コンピテンスの精神的健康への影響のあり方を検討することが必要とされる。
付 記
本研究は科研費(26380949)の助成を受けた。
自尊心や自己受容などの自己評価は,女子中学生において低下することが指摘されている(e.g,真栄城,2005)。相良・鈴木(2017)も縦断的データを用いて,中2でコンピテンスの一つである自己価値が有意に低下することを示している。本研究では,2コホートの3年間の縦断データを用いて,この点を確認する。さらに,自己価値との強い関連が報告されている社会コンピテンスに加え,思春期に生起する場合の多い抑うつ傾向について,高校生も対象にしてその推移を検討し,変数間の関連も検討する。
方 法
調査対象 201X年に入学した私立女子中学生92名と高校の入学者178名,翌年に入学した中学生76名と高校の入学者160名を対象とし,3年間追跡調査した。中,高校それぞれ2コホートの縦断データである。
手続き 質問紙調査法。コンピテンスと抑うつ傾向については毎年7月に調査をした。調査票は担任を通じて配布,回収された。
調査内容 コンピテンス:児童用コンピテンス尺度(桜井,1992)の自己価値,および社会コンピテンスを使用した。各10項目,4件法(1点~4点)による回答。抑うつ傾向:日本版DSRS-C(18項目,3件法)。
本研究は,第一著者の所属する大学の「ヒューマンスタディに関する倫理審査委員会」の承認を得て実施した。
結 果
1.コンピテンスの3年間の推移
中学生の自己価値について,コホート別に3年間の変化をFigure1に示した。分散分析の結果,学年の効果が有意(F(2,174)=8.44,p<.001,η2=.088)であり,多重比較(Bonferroni法)の結果,1年生と2年生,1年生と3年生の間で有意に低下していた。コホートの効果も有意(F(1,87)=4.21,p<.05,η2=.046)であった。社会コンピテンスについては,分散分析の結果,学年の効果が有意(F(2,166)=5.64,p <.01,η2=.064 )であり,多重比較の結果,1年生と2年生,1年生と3年生の間で有意に低下していた。コホートの効果は有意ではなかった。
高校生については,自己価値および,社会コンピテンスにおいて学年間もコホート間も有意な差異は認められなかった。
2.抑うつ傾向の3年間の推移
中学生の抑うつ傾向については,分散分析の結果,学年の効果が有意(F(2,186)=5.49,p<.01,η2=.056)であった。多重比較の結果,1年生と2年生,1年生と3年生の間で有意(p<.05)に上昇していた。コホートの効果は有意ではなかった。高校生の抑うつ傾向については,学年の効果が有意(F(2,504)=3.35,p<.05, η2=.01)であり,多重比較の結果,1年生と2年生の間で有意(p<.05)に得点が増加していた。
3.コンピテンスと抑うつ傾向の関連
自己価値と抑うつ傾向の相関係数は,中学生は,-.628 ~ -.677,高校生は,-.562~-.652の高い値が得られた。社会コンピテンスと抑うつ傾向の間にも,中学生は-.633~-.680,高校生は-.608~-.610という高い負の相関係数が得られた。
考 察
女子中学生において,1年生から2年生の間に自己価値は低下することが,2つのコホートから明らかにされた。また,女子中学,高校生共通して自己価値の低下は抑うつ傾向の増加と関連することが示された。自己価値が社会コンピテンスと強い関連があることから,中学生前半時期の対人関係の自信の喪失が自己価値を低下させ,抑うつ傾向を高めることが推察される。今後,思春期の女子の社会コンピテンスの精神的健康への影響のあり方を検討することが必要とされる。
付 記
本研究は科研費(26380949)の助成を受けた。