The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表

[PH] ポスター発表 PH(01-73)

Mon. Sep 17, 2018 1:00 PM - 3:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PH07] 放課後児童クラブの支援員は,子どもをどのように褒めているのか?

松嶋秀明 (滋賀県立大学)

Keywords:放課後児童クラブ, ほめ

問題・目的
近年,政府の女性の社会進出を推進する動きとあいまって,子育て支援の充実の必要性がますます言われるようになってきた。放課後児童クラブ(学童保育)もこうした子育て支援のひとつであるが,「待機児童」の問題など,需要に制度がおいつかない現状が指摘されている(厚生労働省,2017)。一方で,子どもの立場にたったとき,提供される場の「質」がどのようであるのかを考える必要もある。池本(2016)は,放課後児童クラブの拡充事業の多くは,「女性の就労促進」の観点から,子どもを「預ける場所」を整備するという発想の域を出ておらず,子どもの立場から,放課後,ないし長期休暇中をどのように過ごすのがよいのか,子どもの成長・発達に相応しい環境となっているか,といった本来より重要であるはずの視点が希薄になっていると指摘している。
 さて,こうした質を考えていくうえで,支援員の日々の「指導」的場面に注目することは有用であろう。指導場面とは,集団での生活をしていることにともない,しつけや集団生活上のルールをまもらせる場面である。こうした場面には,児童とのあいだに葛藤がうまれることも考えられる。
では,支援員らはどのようなかたちで,しつけを行おうとしているのだろうか。今回は,支援員が指導のなかのツールのひとつとしてとらえる「ほめる」指導方法をどのように行なっているのかを質的な分析から明らかにすることを目的とする。

方  法
対象クラブと,支援員の属性
 滋賀県内の2つの市が運営する4つの放課後児童クラブで参与観察をおこなった。参与観察は201x年に年間合計12回おこなった(時間帯は13時~18時まで5時間。一部は夏休み期間中に10時~18時まで8時間おこなった)。
調査内容
 参与観察 参与観察では,放課後児童クラブにおける支援員と子どもとの関わりの観察を中心におこなった。放課後児童クラブにおける子どもの生活の様子や,そこでの支援員の動きに注目し,ほめ指導がうまく働くとき,働かない時を中心にしつつ,当日の観察終了後,記憶をたどりながらメモ記録を作成した。 
 支援員へのインタビュー 気になる場面については各クラブの支援員にその場でたずねた他,観察終了後に1対1でのインタビュー調査(30分程度)もおこなった。インタビューの主な内容は,子どもをほめる際,声をかける際に意識していることについてききつつ,具体的にどのような場面であって,どのような達成感や困難さがあったのかについて自由に語ってもらった。
倫理的配慮
上記の観察のすべては当該市の管理者からの調査承諾をうけた上で行なった。

結果と考察
 調査の結果,以下のことがわかった。まず,支援員は「ほめる」ことを児童と関わっていくうえでの重要な手段と認識していた。「ほめ」は以下の3つに類型化できた。すなわち,①支援員としてあらかじめもっていた基準に達したことをほめること,②「結果」ではなく「判断」をほめたり,できない気持ちに共感したりするなど,支援員としては,児童のふるまいは不十分ないし注意したくなるものだが,将来的に①に近づけることを意図してほめること,そして③としてほめられるように工夫することがあった。①では,子どもに具体的にどこがよかったのかを示すことや,集団のなかで間接的にほめたり,結果的にほめられるような状況にもっていくことがあった。③については,できたときにほめる,できている人をほめる,わざとほめるチャンスをつくりだしてほめるといった行動をとるものがこれに含まれると判断できた。
 総じて,こうした「ほめ」を可能にしているのは,以下の2つの要因が影響していると思われた。すなわち,①放課後児童クラブでは支援員と子どもは1日かぎりの出会いではなく,年単位での関わりであることだと思われた。というのも,放課後児童クラブでは年間をとおして子どもと支援員が交流を深めていくため,大人からすれば継続的に子どもの変化をみられたり,現在の姿が将来どのようになっていくのかを想像しつつ,現在の子どもに重ね合わせながら接することができる。続いて②として,クラブが集団生活を送るものであることから,その特性うまくつかえるということである。当日は,いくつかの実際のエピソードを示しつつ,ほめて指導することの難しさについて議論したい。