The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PH] ポスター発表 PH(01-73)

Mon. Sep 17, 2018 1:00 PM - 3:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PH09] 自閉傾向児における「人間関係」の発達過程

検査結果に基づく保育の一事例

菊池知美 (ルーテル学院大学)

Keywords:人間関係, 保育, 発達

問題と目的
 近年,就学後に友だちとのかかわりが苦手で集団にのれないなどの問題行動が社会問題として挙げられている。一方,就学前の保育所保育指針(厚生労働省,2008)では「教育に関わるねらい及び内容」の「人間関係」の中で「友だちと一緒に活動する中で共通の目的を見いだし,協力して物事をやり遂げようとする気持ちを持つ」など「人とかかわる力を養う」を掲げている。そこで本研究では,報告者が巡回指導員として保育園で接した自閉傾向のある子どもについて特に「人間関係」に注目し,集団の中で築かれる保育士や他の子どもとのかかわりの発達プロセスを報告する。

方  法
対象者 首都圏の保育園にて行う巡回指導にて,特に友だちとかかわれず集団にのれない・指示に従えないなどの問題行動が入園後2カ月以上持続しているAを対象とした。Aは発達検査を受けた結果,自閉傾向ゆえ週1回療育施設に通うこととなった。
調査期間 201x年5月から201x+3年3月までで,1年に10回,合計30回,午前10時から午後3時まで観察を行った。
調査方法 観察にはエスノグラフィーを用い保育時間中は保育室,園庭の隅に立ちAと周りの子どもとの様子を観察しながら記録をとった。

結  果
第Ⅰ期(201x年5月~201x+1年5月)“他者とのかかわりは拒否” トイレが間に合わず漏らしてしまってもそのままがまんして最後に泣き出すなど「泣いて」悪い状況を知らせることが続いた。視線は合うが泳いでしまい落ち着きがない。保育園では遊びの時間は積木やブロックでひとり遊びを上手にするが友だちとかかわったり友だちの遊びに興味を持ったり誘いに乗ることはなかった。一方,「ハンカチ落とし」やリトミックダンスなど集団で活動をする時は集団には入らず隣の部屋で椅子をひっくり返したり座りなおして友だちの活動に興味を持つことなく過ごした。保育士は懸命にAを誘ったり抱っこをしながら「○○してるね」「○○楽しそうだね」などと活動内容を説明しつつ誘導したが泣いて拒否する姿が見られた。1回目の発達検査(Table1)は暦年齢よりも全ての領域において1年以上低いレベルであった。
第Ⅱ期(201x+1年6月~201x+2年9月)“保育士を通じて外界とかかわる” 保育士の指示や話の理解はまだ曖昧のようだが話を聞く姿勢は身につく様子が見られた。また,自ら友だちに話しかけたりテンポ良く相互作用はできないが,言いたいことは保育士を通して意思表示をするようになった。2回目の検査結果(Table 1)では言語より認知的適応面での発達をうかがわせることから言語面でのフォローを優先し,保育士がAと他児の仲裁やAが苦手とする子どもにAの行動状況を説明し両児をつなぐ役割を果たした。
第Ⅲ期(201x+2年10月~201x+3年3月)“友だちの近くにいることが常態化” グループで活動をする際,お揃いのタオルを一人,二人と持ってくるとAも状況を見てロッカーから取り出してくる。友だちと同じものを持っているということを確認しあい喜ぶ姿が見られる。遊びは周りの友だちの言いなりになってしまう面も見られるが周りに友だちがいないときょろきょろするような不安な様子も見られた。

考  察
 Aの発達検査結果(Table 1)は言語領域の伸びに比べて認知適応面での上昇が見られた。よって,保育士を介することが状況への慣れや友だちとのかかわりを増やすことにつながり,友だちとの良好なかかわりを築くこととなった。保育士をはじめとする周りのおとなの本児と他児を結ぶようなかかわりが重要であることが示唆された。*個人情報は自治体と母親の許可を得ている。