The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PH] ポスター発表 PH(01-73)

Mon. Sep 17, 2018 1:00 PM - 3:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PH10] 攻撃行動に対する道徳的判断と共感性との関連

中学生と非行少年の比較から

金綱祐香1, 濱口佳和2 (1.筑波大学大学院, 2.筑波大学)

Keywords:道徳的判断, 攻撃行動, 共感性

目  的
 非行少年は一般少年と比べて道徳性の発達が遅れているというが(e.g.Stams et al., 2006),それに反する報告もあり(e.g.Leenders & Brugman, 2005),知見は一致しない。そこで本研究では,Turiel(1983)の社会的領域理論をもとに,攻撃行動に対する中学生と非行少年の道徳的判断を比較する。また,共感性は望ましい道徳性の発達を促すとされていることから(Hoffman, 2000),共感性が道徳判断に与える影響も併せて検討する。

方  法
調査協力者 男子中学生750名(1年235名,2年246名,3年269名;共感性はそのうち117名が対象)非行少年75名(児童自立支援施設入所者及び少年院在院者,10-18歳,M15.5,SD1.64;共感性はそのうち49名が対象)
攻撃場面 仕返し場面(貸したマンガを被害者になくされたので攻撃する)と,利己的場面(先生の前で特に真面目に振る舞う被害者が気に入らないので攻撃する)の2場面が設定された。
質問項目 各場面について加害者の悪さの程度(1項目5件法),被害者の悪さの程度(1項目5件法),加害者を悪いと判断した理由(28項目5件法),子ども用認知・感情共感性尺度(CEES-C;村上他,2014)の「他者のネガティブな感情への同情」,「他者のポジティブな感情への好感」,「視点取得」(計12項目,5件法)
倫理的配慮 調査協力者には回答した内容が他者に知られることはないこと,回答しないことによりいかなる不利益も被らないことが説明された。

結果と考察
判断理由尺度の因子分析 多母集団因子分析の結果,中学生,非行少年ともに同様の6因子構造が確認された。道徳領域からは「他者の福祉(被害者が悲しむから)」,「不公平性(一方的だから)」,慣習領域からは「集団秩序・人間関係(クラスの雰囲気が悪くなるから);以下,秩序・人間」,「被害者の非への帰属(原因は被害者にあるから)」,個人領域からは「個人の自由(攻撃は加害者の自由だから)」が抽出されたほか,いずれの領域にも含まれない因子として「不適切な手段(加害者のやり方では解決しないから)」が抽出された。
中学生と非行少年の道徳的判断の比較 判断理由の各下位尺度を独立変数,加害者の悪さを従属変数とする多母集団パス解析を場面ごとに行った。その結果,仕返し場面では,中学生は「他者の福祉(β=.22,p<.001)」,「不公平性(β=.16,p<.001)」,「不適切な手段(β=.22,p<.001)」から正のパス,「被害者の非への帰属(β=-.15,p<.001)」と「個人の自由(β=-.07,p<.10)」から負のパスが見られたのに対し,非行少年は,「不公平性(β=.29,p<.01)」と「不適切な手段(β=.50,p<.001)」から正のパスが見られたのみであり,非行少年の方が短絡的な判断に陥りやすいことが示唆された。
一方,利己的場面では,中学生は「他者の福祉(β=.15,p<.01)」,「不適切な手段(β=.21,p<.001)」,「不公平性(β=.15,p<.01)」から正のパスが見られたのに対し,非行少年は,「他者の福祉(β=.27,p<.05)」,「不適切な手段(β=.35,p<.01)」のほか,「秩序・人間(β=.14,p<.10)」,から正のパスが見られた。したがって,善悪判断の際に着目する理由が,中学生は攻撃の一方向性であるのに対して,非行少年は集団の秩序という点で異なっていた。
共感性が道徳的判断に与える影響 共感性が道徳的判断に与える影響を両群で比較するため,第1水準をCEES-C,第2水準を判断理由,第3水準を被・加害者の悪さとする多母集団パス解析を場面ごとに行った。その結果,仕返し場面では,中学生は「ネガティブな感情への同情」が「他者の福祉」からの判断を促進したのに対し(β=.22,p<.05),非行少年は「視点取得」が「他者の福祉」からの判断を抑制した(β=-.29,p<.05)。一方,利己的場面では,中学生,非行少年ともに「ネガティブな感情への同情」が「他者の福祉」に正のパスを示したが,非行少年はそれに加えて,「不適切な手段」や「秩序・人間」へも正のパスを示した(Figure1)。したがって,中学生は両場面で,共感性が「他者の福祉」からの判断を促すのに対して,非行少年は仕返し場面ではそうした傾向が見られなかった。