The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PH] ポスター発表 PH(01-73)

Mon. Sep 17, 2018 1:00 PM - 3:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PH14] 人はなぜ「ながら勉強」をおこなうのか

学習習慣と個人内要因に関する検討

八木麻衣子 (関西学院大学大学院)

Keywords:ながら勉強, 学習習慣, 音楽聴取

問題と目的
 「ながら勉強」とは,学習内容とは直接関連のない作業を同時並行的におこないながら学習に取り組むことである。特に,音楽を聞きながらおこなう「ながら勉強」は,今日の音楽聴取の容易さも手伝い,頻繁に目にされるものとなっている。音楽を聞きながらおこなう知的作業に関する研究は数多くなされているが,「ながら勉強」がどの程度おこなわれているか,そして,どのようにおこなわれているかを調査した研究は少ない。そこで,「ながら勉強」の実態を調査することを第一の目的として,本研究を行った。また,なぜ「ながら勉強」をおこなうのかを明らかにするために,学習者の個人内要因と学習習慣との関係について検討をおこなった。

方  法
参加者 関西の私立大学の大学生197名。(男性48名,女性146名,不明3名)。
調査時期 2017年7月
質問紙 筆者の作成した「ながら勉強」に関する4項目,普段の学習に関する7項目、音楽に対するこだわりに関する1項目に,篠原ら(2007)の日常的注意経験質問紙から15項目、Richardson(1977)のVerbalizer-Visualizer Questionnaire(VVQ)を長谷川(1993)が翻訳したもののうち意図の伝わりにくいと判断した1項目を除く14項目を加え,質問紙を作成した。

結  果
 参加者を「ながら勉強」の習慣の有無によって「ながら群」「中間群」「非ながら群」の3群に分けた。「ながら群」が70名(35.53%),「中間群」が48名(24.37%),「非ながら群」が79名(40.10%)であった。また,「ながら勉強」をおこなう学習内容は,「簡単な計算問題」が42.86%,「レポート」が37.06%,「読書」が19.29%,「英文の和訳」が17.77%であった。
 次に,VVQ項目の合計得点によって参加者を「視覚優位群」と「言語優位群」の2群に分けた。「視覚優位群」は96名(48.73%),「言語優位群」は101名(51.27%)であった。そして,認知特性によって「ながら勉強」の習慣に差があるかを調べるためt検定をおこなった結果,有意な差が認められた(t=2.13,df=193.97,p<.05)。
 さらに,日常的注意経験質問紙の下位尺度ごとに平均値を算出し,「ながら勉強」の習慣によって差があるかを調べるために一元配置分散分析をおこなった。その結果,「認知制御能力」に関して有意な差が見られた(Table 1)。平均の差を見ると,「非ながら群」「中間群」と「ながら群」との間に差が認められた。

考  察
 「ながら勉強」を習慣的におこなう人は全体の約35%であることが分かった。そして,「ながら勉強」をおこなう学習内容に関しては,より複雑な知的作業では「ながら勉強」をおこなう人が少なくなると明らかになった。このことから,先行研究同様,より深い思考や複雑な思考を必要とする作業で音楽の妨害効果が大きいことが示唆された。
 また,学習者の認知特性によって「ながら勉強」の習慣に差が見られた。「言語優位群」は「視覚優位群」よりも音楽を聞きながら学習をおこなうとはかどると感じていることが明らかになった。さらに,「ながら勉強」の習慣がある方が注意・集中能力が高いことが示された。
 これらのことから,言語優位群は視覚優位よりも認知制御能力が高いことから,音楽によって集中を妨げられることなく学習に取り組むことができるため,より「ながら勉強」をおこなうと考える。