[PH19] フィードバックの種類・頻度と一年間の学力偏差値の推移
Keywords:学習評価, フィードバック, パネル調査
問題と目的
学習評価の結果の戻し(フィードバック)が学力に与える効果は高く,様々なメタ分析の結果から,その大きさはd=0.40から0.70の範囲であることが知られている(Black & Wiliam, 1998)。しかし,メタ分析の対象となった研究群の間での効果量のばらつきは大きく,フィードバックの種類や内容によってその効果は異なる(Kluger & DeNisi, 1996など)。中でも,正誤や点数のフィードバックの効果はほぼなく(Bangert-Drowns, et al. 1991など),達成目標や達成目標に対する実現状況のフィードバックの効果が高いことが明らかとなっている(Hattie & Timperley, 2007; Neubert, 1998)。ただし,これらの研究の多くは短期的な介入の効果を扱っており,年単位の長期的な介入の学力に対する効果は明らかではない。
本研究では,ある県の小学校の4割,児童数の6割が含まれる,小学校第4, 5, 6学年の学年始の学力偏差値のパネルデータに,第4, 5学年の各1年度間の各学級の指導の実施状況を結合したデータを用い,1年間に行われたフィードバックの種類と頻度による,第4-5学年及び第5-6学年の学力偏差値の推移の違いを検討する。
方 法
対象:上記パネルデータに含まれる学校のうち,社会で少人数指導等を実施していない学校。第4-5学年は64校,97学級,児童数2,132人。第5-6学年は65校,100学級,児童数2,285人。
フィードバックの種類と頻度:学級担任による1年間の社会の指導状況に関する調査の結果から(1)単元開始時の達成目標の提示と単元テスト返却時の達成目標に対する実現状況の個別提示の頻度が1年間で半分くらい以上の学級と,それ以外の学級(達成目標提示と達成目標に対する実現状況提示頻度の高低),(2)単元テスト返却時の達成目標に対する実現状況の個別提示の頻度が1年間でときどき行った以下,児童が個別に課題に取り組んでいる際に正誤を指摘する机間指導と,小テスト返却時に正誤の指摘や得点のフィードバックの頻度が1年間で半分くらい以上の学級と,それ以外の学級(達成目標提示頻度低・正誤フィードバック頻度高とそれ以外)の2分類で各学級を分けた。
分析:児童個人ごと,及び学級ごとの学力偏差値の1年間の変動を変量効果として,学級ごとに実施されたフィードバックの種類と頻度が学力偏差値の1年間の変動に与える影響を説明する線形混合モデルをベイズ推定した。Rのbrmsパッケージを用い,連鎖構成数を4とし,各連鎖について長さ10,000個のマルコフ連鎖を発生させ,最初の2,000個をバーンイン期間として破棄し,残りの8,000個にもとづいて母数を推定した。なお,教職経験年数を共変量としてモデルに投入した。
結果と考察
学級ごとに実施されたフィードバックの種類と頻度が学力偏差値の1年間の変動に与える影響は,達成目標提示と達成目標に対する実現状況提示頻度の高低で比較すると,第5-6学年間で学力偏差値の推移に対する影響が正であった(95% CI[1.02, 0.32])。達成目標提示頻度低・正誤フィードバック頻度高とそれ以外で比較すると,第4-5,5-6の各学年間で学力偏差値の推移に対する影響が負であった(95% CI[-2.38, -0.15], [-3.36, -1.13])。第5-6学年間の結果を図示するとFigure 1, 2の通りとなる。
以上の結果,1年間の授業での達成目標の提示と達成目標に対する実現状況のフィードバックの頻度が高いことが,長期的な学力の推移に正の効果を与えることが示された。さらに,正誤フィードバックの頻度が高くても実現状況のフィードバックの頻度が低い場合には,学力の推移に負の効果を与えることも示された。
付 記
本研究はJSPS科研費(基盤研究A:17H01012)の助成を受けた。
学習評価の結果の戻し(フィードバック)が学力に与える効果は高く,様々なメタ分析の結果から,その大きさはd=0.40から0.70の範囲であることが知られている(Black & Wiliam, 1998)。しかし,メタ分析の対象となった研究群の間での効果量のばらつきは大きく,フィードバックの種類や内容によってその効果は異なる(Kluger & DeNisi, 1996など)。中でも,正誤や点数のフィードバックの効果はほぼなく(Bangert-Drowns, et al. 1991など),達成目標や達成目標に対する実現状況のフィードバックの効果が高いことが明らかとなっている(Hattie & Timperley, 2007; Neubert, 1998)。ただし,これらの研究の多くは短期的な介入の効果を扱っており,年単位の長期的な介入の学力に対する効果は明らかではない。
本研究では,ある県の小学校の4割,児童数の6割が含まれる,小学校第4, 5, 6学年の学年始の学力偏差値のパネルデータに,第4, 5学年の各1年度間の各学級の指導の実施状況を結合したデータを用い,1年間に行われたフィードバックの種類と頻度による,第4-5学年及び第5-6学年の学力偏差値の推移の違いを検討する。
方 法
対象:上記パネルデータに含まれる学校のうち,社会で少人数指導等を実施していない学校。第4-5学年は64校,97学級,児童数2,132人。第5-6学年は65校,100学級,児童数2,285人。
フィードバックの種類と頻度:学級担任による1年間の社会の指導状況に関する調査の結果から(1)単元開始時の達成目標の提示と単元テスト返却時の達成目標に対する実現状況の個別提示の頻度が1年間で半分くらい以上の学級と,それ以外の学級(達成目標提示と達成目標に対する実現状況提示頻度の高低),(2)単元テスト返却時の達成目標に対する実現状況の個別提示の頻度が1年間でときどき行った以下,児童が個別に課題に取り組んでいる際に正誤を指摘する机間指導と,小テスト返却時に正誤の指摘や得点のフィードバックの頻度が1年間で半分くらい以上の学級と,それ以外の学級(達成目標提示頻度低・正誤フィードバック頻度高とそれ以外)の2分類で各学級を分けた。
分析:児童個人ごと,及び学級ごとの学力偏差値の1年間の変動を変量効果として,学級ごとに実施されたフィードバックの種類と頻度が学力偏差値の1年間の変動に与える影響を説明する線形混合モデルをベイズ推定した。Rのbrmsパッケージを用い,連鎖構成数を4とし,各連鎖について長さ10,000個のマルコフ連鎖を発生させ,最初の2,000個をバーンイン期間として破棄し,残りの8,000個にもとづいて母数を推定した。なお,教職経験年数を共変量としてモデルに投入した。
結果と考察
学級ごとに実施されたフィードバックの種類と頻度が学力偏差値の1年間の変動に与える影響は,達成目標提示と達成目標に対する実現状況提示頻度の高低で比較すると,第5-6学年間で学力偏差値の推移に対する影響が正であった(95% CI[1.02, 0.32])。達成目標提示頻度低・正誤フィードバック頻度高とそれ以外で比較すると,第4-5,5-6の各学年間で学力偏差値の推移に対する影響が負であった(95% CI[-2.38, -0.15], [-3.36, -1.13])。第5-6学年間の結果を図示するとFigure 1, 2の通りとなる。
以上の結果,1年間の授業での達成目標の提示と達成目標に対する実現状況のフィードバックの頻度が高いことが,長期的な学力の推移に正の効果を与えることが示された。さらに,正誤フィードバックの頻度が高くても実現状況のフィードバックの頻度が低い場合には,学力の推移に負の効果を与えることも示された。
付 記
本研究はJSPS科研費(基盤研究A:17H01012)の助成を受けた。