The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表

[PH] ポスター発表 PH(01-73)

Mon. Sep 17, 2018 1:00 PM - 3:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PH21] 能動的先延ばし概念の再検討

長柄明1, 森田愛子2 (1.広島大学大学院, 2.広島大学大学院)

Keywords:先延ばし, 能動的先延ばし, 時間管理

 先延ばしは,「何らかの達成すべき課題を遅らせる非合理的な傾向 (Lay , 1986) 」と定義されてきた。しかし近年,そのような不適応的な先延ばしを行う受動的先延ばし者とは異なる,適応的な先延ばしを行う能動的先延ばし者の存在が指摘され,注目を集めている (Chu & Choi, 2005)。一方で,能動的先延ばしは本来の先延ばしの概念とは違う側面を持つという指摘もあり (Klingsieck, 2013),この概念は定着しているとは言い難い。また,能動的先延ばしの程度の測定に用いられている能動的先延ばし尺度 (APS: Active Procrastination Scale; Choi & Moran , 2009) は,複数の下位概念を含んでいるにもかかわらず,それらを総合した全体得点で能動的先延ばしの程度を表すという方法をとっているという問題もある。そこで本研究では,改めて,先延ばしの概念の再検討を試みる。能動的先延ばしの概念を整理するために,能動的先延ばし研究において一般的な分類法によって,能動的先延ばし者,受動的先延ばし者,非先延ばし者に分類した場合のそれぞれのAPS下位因子得点を比較検討する。下位概念の中には,能動的先延ばしの特徴というよりは,先延ばしにあたらないものが含まれている可能性があるためである。

方  法
参加者 大学生76名。
調査内容と手続き 大学の試験期間直前に実施した。調査は,下の3つから構成された。(1)と(2)は,参加者を,その特性により,3つの先延ばしタイプに分類するために用いた尺度である。(1) GPS (General Procrastination Scale) 日本語版 (林, 2007),13項目5件法。日常的にみられる先延ばし行動をどの程度行うかを測定する尺度である (項目例: いつも「明日からやる」といっている)。(2) APS日本語版 (米本・大蔵, 2013),16項目7件法。「プレッシャー」「意図的決定」「時間管理」の3因子から成る (項目例: なにかをするとき,たびたび遅れる (時間管理因子,逆転項目))。(3) 学業的延引行動尺度 (APSI: Academic Procrastination Scale Inventory )。龍・小川内・橋元 (2006) の邦訳時に除外された3項目を追加した13項目5件法。実際にどの程度学業的な先延ばしを行ったかを測定する尺度である。本研究では,試験期間の行動について尋ねた (項目例: 課題を完成させるのを後回しにしてしまった)。

結果と考察
 Choi & Moran (2009) に従い,参加者をGPSの理論的中央値である3点で2群に分け,高群を先延ばし群,低群を非先延ばし群とした。さらに,先延ばし群を,APS日本語版の平均値で2群に分け,高群を能動的先延ばし群,低群を受動的先延ばし群とした。
 APSの3つの下位因子の得点を群ごとに算出した (Table 1) 。いずれも,得点が高いほど,能動的先延ばし傾向が強いことを表す。各群の平均得点について1要因分散分析を行ったところ,いずれの下位因子得点についても有意差がみられた。プレッシャー因子については,能動的先延ばし群,非先延ばし群,受動的先延ばし群の順に得点が高かったが,非先延ばし群と受動的先延ばし群の差は有意傾向であった。意図的決定因子については,能動的先延ばし群が受動的先延ばし群より有意に得点が高かった。時間管理因子については,能動的先延ばし群・受動的先延ばし群よりも非先延ばし群において有意に得点が高かった。
 次に,能動的先延ばし特性を有する人が実際に先延ばしを行ったかを検討するために,APSI得点とAPSの下位因子の相関分析を行ったところ,時間管理因子得点とAPSI得点には有意な負の相関がみられた (Table 2)。時間管理因子の得点が高い人は,先延ばし行動が少ないことを示している。
 すなわち,APSの下位因子得点について,群間の比較,実際の学業的延引行動の程度との関連という観点から検討した結果,APSで測定される能動的先延ばしの概念には,先延ばしにはあたらない「時間管理」という下位概念が含まれている可能性があることが明らかになった。