[PH50] 性同一性障害当事者が必要とする学校場面での支援
違和感を感じた場面からの検討
Keywords:LGBT, FTM, 支援
問題および目的
文部科学省では,平成27年4月30日に「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」を通知した。その通知では「学校においては,性同一性障害に係る児童生徒への配慮と,他の児童生徒への配慮との均衡を取りながら支援を進めることが重要であること」とし,表1のような支援事例をあげている。
本研究では,5名の性同一性障害当事者(FTM=Female to male)へのインタビュー結果から,支援事例の妥当性と必要な支援について考える。
方 法
1.調査協力者 性同一性障害当事者5名。
2.調査時期 2015年12月~2016年2月。
3.調査方法 「学校生活で性別違和感を持った内容」と,「今改めて学校にしてほしいこと・思っていること」の質問を中心に半構造化面接を行った。
結 果
1.文部科学省の支援事例の検討
表1に支援事例と実際に当事者が経験した困難さを示す。支援事例に挙げている場面と当事者の困難さがおおよそ一致しているため,支援の方向性はニーズと一致していると言える。5名全員が制服の着用で不快な想いをしている。また,Dは制服にズボンの選択肢のある学校に通っていたが,着用できていない。制服については,他の服装を認めるだけでは支援として不十分だと言える。
周囲の目を気にして服装やトイレで意思に反した行動を取った者がいる。表1にある支援事例は,本人のカミングアウトと周囲の理解が得られて始めて可能となるものである。5名ともFTMを一部の人のみに公表している。このようなケースの場合,事例に示されている配慮では不十分である。LGBTを授業で取り上げるなどの正しい知識の教育によって偏見と誤解のない社会を作ることが不可欠であり,さらにカミングアウトできていない(もしくははっきりと自認できない)者への対応を検討していかなくてはならない。
また,健康診断や身体測定で身体をみられることへの苦痛があることがわかった。生物学的な性が関係する場面であり,対応が難しいが,養護教諭を中心に検討すべき点である。
2.当事者が学校に求めること
当事者が学校に求めることは何かを表3にまとめた。73.0%が教育の必要性を感じながらも実際に授業でLGBTを取り上げた教員が少ない(13.7%)という現状からも(日高,2011)、教員が学ぶ機会が必要である。また,5名とも信頼できる人のみにカミングアウトしている様子から,SCのような専門的知識がある者の活躍が期待される。この他,「更衣室の中の個室」,「女性らしさ男性らしさを求めない教育」,「カミングアウトできない子どもたちへの支援方法」,「男女別の授業の見直し」などの必要性が挙げられている。このような,当事者の意見を反映した支援方法や,教育の時期も含めた知識の普及方法の検討が必要である。
付 記
この研究の一部は笠井瑞紀さんの平成28年度修了研究に基づいている。)
文部科学省では,平成27年4月30日に「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」を通知した。その通知では「学校においては,性同一性障害に係る児童生徒への配慮と,他の児童生徒への配慮との均衡を取りながら支援を進めることが重要であること」とし,表1のような支援事例をあげている。
本研究では,5名の性同一性障害当事者(FTM=Female to male)へのインタビュー結果から,支援事例の妥当性と必要な支援について考える。
方 法
1.調査協力者 性同一性障害当事者5名。
2.調査時期 2015年12月~2016年2月。
3.調査方法 「学校生活で性別違和感を持った内容」と,「今改めて学校にしてほしいこと・思っていること」の質問を中心に半構造化面接を行った。
結 果
1.文部科学省の支援事例の検討
表1に支援事例と実際に当事者が経験した困難さを示す。支援事例に挙げている場面と当事者の困難さがおおよそ一致しているため,支援の方向性はニーズと一致していると言える。5名全員が制服の着用で不快な想いをしている。また,Dは制服にズボンの選択肢のある学校に通っていたが,着用できていない。制服については,他の服装を認めるだけでは支援として不十分だと言える。
周囲の目を気にして服装やトイレで意思に反した行動を取った者がいる。表1にある支援事例は,本人のカミングアウトと周囲の理解が得られて始めて可能となるものである。5名ともFTMを一部の人のみに公表している。このようなケースの場合,事例に示されている配慮では不十分である。LGBTを授業で取り上げるなどの正しい知識の教育によって偏見と誤解のない社会を作ることが不可欠であり,さらにカミングアウトできていない(もしくははっきりと自認できない)者への対応を検討していかなくてはならない。
また,健康診断や身体測定で身体をみられることへの苦痛があることがわかった。生物学的な性が関係する場面であり,対応が難しいが,養護教諭を中心に検討すべき点である。
2.当事者が学校に求めること
当事者が学校に求めることは何かを表3にまとめた。73.0%が教育の必要性を感じながらも実際に授業でLGBTを取り上げた教員が少ない(13.7%)という現状からも(日高,2011)、教員が学ぶ機会が必要である。また,5名とも信頼できる人のみにカミングアウトしている様子から,SCのような専門的知識がある者の活躍が期待される。この他,「更衣室の中の個室」,「女性らしさ男性らしさを求めない教育」,「カミングアウトできない子どもたちへの支援方法」,「男女別の授業の見直し」などの必要性が挙げられている。このような,当事者の意見を反映した支援方法や,教育の時期も含めた知識の普及方法の検討が必要である。
付 記
この研究の一部は笠井瑞紀さんの平成28年度修了研究に基づいている。)