The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表

[PH] ポスター発表 PH(01-73)

Mon. Sep 17, 2018 1:00 PM - 3:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PH54] 幼少期の親の養育態度と夫婦関係が青年期の潜在的特権意識に与える影響

石原夕夏1, 工藤浩二2 (1.東京学芸大学大学院, 2.東京学芸大学)

Keywords:潜在的特権意識, 養育態度, 夫婦関係

問題と目的
 特権意識は,その概念定義から,社会的に望ましいとは言い難いパーソナリティ特性の一つであると言える。下司・小塩(2016)によると,特権意識は,誇大型特権意識,過敏型特権意識,心理的特権意識の3つに分類され,それぞれ特徴の異なる側面を持つことが示されている。中でも過敏型特権意識は,神経症傾向などとの関連も強く,最も不適応的な側面を持つと考えられる。
 過敏型特権意識とは,上地・宮下(2005,2009)の自己愛的脆弱性尺度における下位尺度「潜在的特権意識」に相当し,これまでの研究では,その傾向を強める要因として,幼少期の親の養育態度が検討されてきた。
 しかし,坂西(1990)は,家族の人間関係を理解するためには,夫婦関係・母子関係・父子関係といった関係全体の力動である「家族ダイナミックス」を捉える視点が重要であると指摘しており,家族の関係性を扱う際には,母子関係・父子関係といった親子関係だけではなく,両親の夫婦関係も交えて関係性の検討を行う必要があると言える。   
 また,家族ダイナミックスとは家族関係全体の力動を重視する理論である。そのため,親の養育態度と両親の夫婦関係それぞれの影響のみならず,その両者の関連が与える影響についても併せて検討することは,潜在的特権意識を検討する上でも有意義であると考えられる。
 そこで本研究では,幼少期の親の養育態度と両親の夫婦関係のそれぞれ,またはその関連が,子どもの潜在的特権意識に与える影響を検討することを目的とした。

方  法
調査方法:質問紙調査
調査協力者:大学生男女172名(男子41名,女子131名,平均年齢19.45歳(SD=0.90))
質問紙構成:
(1)フェイスシート(学年,年齢,性別)
(2)自己愛的脆弱性尺度短縮版(上地・宮下,2009)のうち,潜在的特権意識に関する項目
(3)PBI日本版(小川,1991)(親の養育態度を測定する尺度。母親と父親それぞれについて回答を求めた)
(4)FM尺度(飛田・狩谷,1992)(両親の夫婦関係を測定する尺度)

結  果
 子どもの潜在的特権意識と親の養育態度との関連を検討するために相関を求めたところ,男子において,「母親の養育態度CA」及び「父親の養育態度CA」と有意な負の相関が示され(r=-.316,p<.05;r=-.506,p<.01),「父親の養育態度OP」とは有意な正の相関が示された(r=.316,p<.05)。
一方,女子において,有意な相関は示されなかった。
 子どもの潜在的特権意識と両親の夫婦関係との関連を検討するために相関を求めたところ,男子において,有意な負の相関が示された(r=-.343,p<.05)。
一方,女子において,有意な相関は示されなかった。
 親の養育態度と両親の夫婦関係との関連が子どもの潜在的特権意識に与える影響(交互作用)を検討するために二要因分散分析を行ったところ,男子において,母親の養育態度CAと両親の夫婦関係との交互作用が有意であり(F(1,37)=5.22,p<.05),親の養育態度CA高群において,両親の夫婦関係の単純主効果が有意であった(F(1,37)=11.16,p<.01)。一方,女子において,有意な交互作用は示されなかった。

考  察
 本研究の結果,男子において,幼少期の親の養育態度と両親の夫婦関係のそれぞれと,幼少期の親の養育態度と両親の夫婦関係との関連が,子どもの潜在的特権意識に影響を与えていることが示唆された。
 そのため,養育態度のような親から子どもへの直接的な関わりだけでなく,両親の夫婦関係も関連して,子どものパーソナリティに影響を与えている可能性が示唆され,親が子どもに対してあたたかい態度で接することは勿論,配偶者と良好な関係を保つことの重要性も示されたと考えられる。
 一方,女子においては,有意な相関や交互作用は示されなかった。娘は母親との情緒的結合が非常に強いことや,母親を同一視し,強く影響を受けながら成長することが示唆されている(渡邊,1994;今井,1981)。したがって,女子においては,潜在的特権意識についても母親からの影響を強く受けていることが予想されるが,本研究ではそれは示されなかった。この点について引き続き検討していくことが必要である。

付  記
本研究は第一著者が平成29年度に東京学芸大学に卒業論文として提出したものの一部を加筆修正したものである。