[PH60] 教師にとっての異動の意味と異動に伴う変容プロセス2
小学校・高校におけるナラティヴおよび学校文化という観点から
Keywords:教員の異動, ナラティヴ, 学校文化
問 題
本発表は,教師にとっての異動の意味と異動に伴う変容プロセスについて,学校文化・学校ナラティヴという観点から探索的に検討しようとするものである。検討の素材は,異動初年度における小学校教師1名,高校教師2名に対する一年間にわたるインタビューおよび授業観察の記録である。体験の意味づけが主な検討課題であるためナラティヴの変容を分析していくが,同時に,より実践的な関心にこたえるため,授業における教師の語り方や生徒とのやり取りの仕方についてもその変容を見ていく。なお,東海林・小田(2018)では,第一発表者が高校教師である第二発表者に対する一年間にわたるインタビューおよび授業観察を行い,その記録を分析した。このケースにおいて異動は,教師および個人としての成長につながるものであったが,これは①異動先と異動時期が希望に沿ったものであり,②支援の手が差し出される職場環境にあり,③自身で戦略を考え講じるための知識を持っていた,というように活用できるリソースが多かったことによるものではないかと結論づけた。また,ナラティヴの変容と授業における実際の振る舞いややり取りの変容は必ずしも連動しておらず,後者の変容の方が遅れて起こるというプロセスが見られた。今回の発表では,同じ高校教師であるが異動先や時期については一般的な異動状況にある,つまり本人の希望や事情に沿ったものではないケースを比較検討のために加え,また高等教育との比較検討のために小学校教師のケースも加えることとした。
教員の異動に関する研究としては,異動に伴う困難の分類,メンタルヘルスへの影響,職業開発・授業改善への影響,といったものがある。本発表の特徴的な点はまず,異動の前から数年に渡って調査協力者の授業を見たり話をしたりする機会が多くあり,そのため,異動後の変容だけでなく,異動前からどのように変わったか,また変わらないのはどのようなことであるかについても検討の射程を広げることができる点である。特徴的な点の2つ目は,現場に出向いて観察するため,異動の当事者の主観的な変容だけでなく,言葉遣いや説明の仕方といった関わり方の変容も検討することができる点である。
異動は最大の研修といわれる。では,異動をどのように経験することが,教師の変容,特に成長につながるのだろうか。本発表ではそのような点を検討していきたい。
方 法
対象:第一発表者が高校教師2名(男女),小学校教師1名(女性),すべて40代である。高校教師のうち,男性は進学校から進路多様校へ,女性は進路多様校から進学校へ異動した。小学校教師は同じ校区内の異動であるが,児童の家庭状況がさらに厳しい学校に異動となった。
手続き:インタビューは「学校」「教師,教えること,勉強させること」「生徒,学ぶこと,勉強すること」「授業以外の学校生活や仕事」「教師にとっての異動の意味」の5点について,話しやすいところから話してもらうという手続きで行った。高校教師に対しては3~5回,小学校教師に対しては1回のインタビューを行い,録音した。なお小学校教師については,勤務校支援のために6月~2月にかけて7回の訪問機会があり,そのつどインフォーマルインタビューを行い,メモを作成した。これも分析の素材とする。加えて授業観察を行った。高校教師は1名(男性)のみであり,5時間(3日間)の観察を行い,そのうち3時間を録画した。小学校教師については6時間(2日間)の観察を行い,録画はせずにメモで記録した。
結果と考察
東海林・小田(2018)と大きく異なるのは,本発表で加えた2ケースでは,組織経営に関する違和感や実際に起こしたアクションについて語られたことである。これは,この2ケースが40代後半,1ケースは40代前半と年齢や経験年数が異なることにより,校務分掌等,校内の立場が異なることによるものかもしれない。当日は異動2年目の状況,授業記録の分析結果も含め,教師にとっての異動の意味と異動に伴う変容プロセスについて報告する。
引用文献
東海林麗香・小田雄仁(2018)教師にとっての異動の意味と異動に伴う変容プロセス:高校における学校文化・学校ナラティヴという観点から 日本発達心理学会第29回大会
本発表は,教師にとっての異動の意味と異動に伴う変容プロセスについて,学校文化・学校ナラティヴという観点から探索的に検討しようとするものである。検討の素材は,異動初年度における小学校教師1名,高校教師2名に対する一年間にわたるインタビューおよび授業観察の記録である。体験の意味づけが主な検討課題であるためナラティヴの変容を分析していくが,同時に,より実践的な関心にこたえるため,授業における教師の語り方や生徒とのやり取りの仕方についてもその変容を見ていく。なお,東海林・小田(2018)では,第一発表者が高校教師である第二発表者に対する一年間にわたるインタビューおよび授業観察を行い,その記録を分析した。このケースにおいて異動は,教師および個人としての成長につながるものであったが,これは①異動先と異動時期が希望に沿ったものであり,②支援の手が差し出される職場環境にあり,③自身で戦略を考え講じるための知識を持っていた,というように活用できるリソースが多かったことによるものではないかと結論づけた。また,ナラティヴの変容と授業における実際の振る舞いややり取りの変容は必ずしも連動しておらず,後者の変容の方が遅れて起こるというプロセスが見られた。今回の発表では,同じ高校教師であるが異動先や時期については一般的な異動状況にある,つまり本人の希望や事情に沿ったものではないケースを比較検討のために加え,また高等教育との比較検討のために小学校教師のケースも加えることとした。
教員の異動に関する研究としては,異動に伴う困難の分類,メンタルヘルスへの影響,職業開発・授業改善への影響,といったものがある。本発表の特徴的な点はまず,異動の前から数年に渡って調査協力者の授業を見たり話をしたりする機会が多くあり,そのため,異動後の変容だけでなく,異動前からどのように変わったか,また変わらないのはどのようなことであるかについても検討の射程を広げることができる点である。特徴的な点の2つ目は,現場に出向いて観察するため,異動の当事者の主観的な変容だけでなく,言葉遣いや説明の仕方といった関わり方の変容も検討することができる点である。
異動は最大の研修といわれる。では,異動をどのように経験することが,教師の変容,特に成長につながるのだろうか。本発表ではそのような点を検討していきたい。
方 法
対象:第一発表者が高校教師2名(男女),小学校教師1名(女性),すべて40代である。高校教師のうち,男性は進学校から進路多様校へ,女性は進路多様校から進学校へ異動した。小学校教師は同じ校区内の異動であるが,児童の家庭状況がさらに厳しい学校に異動となった。
手続き:インタビューは「学校」「教師,教えること,勉強させること」「生徒,学ぶこと,勉強すること」「授業以外の学校生活や仕事」「教師にとっての異動の意味」の5点について,話しやすいところから話してもらうという手続きで行った。高校教師に対しては3~5回,小学校教師に対しては1回のインタビューを行い,録音した。なお小学校教師については,勤務校支援のために6月~2月にかけて7回の訪問機会があり,そのつどインフォーマルインタビューを行い,メモを作成した。これも分析の素材とする。加えて授業観察を行った。高校教師は1名(男性)のみであり,5時間(3日間)の観察を行い,そのうち3時間を録画した。小学校教師については6時間(2日間)の観察を行い,録画はせずにメモで記録した。
結果と考察
東海林・小田(2018)と大きく異なるのは,本発表で加えた2ケースでは,組織経営に関する違和感や実際に起こしたアクションについて語られたことである。これは,この2ケースが40代後半,1ケースは40代前半と年齢や経験年数が異なることにより,校務分掌等,校内の立場が異なることによるものかもしれない。当日は異動2年目の状況,授業記録の分析結果も含め,教師にとっての異動の意味と異動に伴う変容プロセスについて報告する。
引用文献
東海林麗香・小田雄仁(2018)教師にとっての異動の意味と異動に伴う変容プロセス:高校における学校文化・学校ナラティヴという観点から 日本発達心理学会第29回大会