The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PH] ポスター発表 PH(01-73)

Mon. Sep 17, 2018 1:00 PM - 3:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PH62] 限局性学習障害傾向のある子どもに対する通常学級における教師の関わり

角南なおみ (東京大学大学院)

Keywords:限局性学習障害, 通常学級, 関わり

問題と目的
 近年,発達障害傾向を持つ子どもは増加している。発達障害には,自閉症スペクトラム障害,注意欠如多動性障害とともに限局性学習障害(以下,LD)がある。これまでLD研究は多数行われているが,通常学級における指導に関しては,特殊音韻の指導である多層指導モデルの実施とその効果の 
検討(海津・田村・平木・伊藤・Vaughn,2008),教師の教育的対応を含めた質問紙調査(加藤・石坂・佐々木,2000)等がある。しかし,前者は専門家との協同により実施が可能であり,後者は質問項目への回答数による検討であった。そのため,今後,実践可能性を考慮したLD傾向を持つ子どもに対する通常学級における教師の関わりの内実を検討する必要があるだろう。ただし,診断を受けていない子どもの割合が受けている子どもより多い現状があり(井上・窪島,2009),教師は診断の有無にかかわらず子どもの特性に応じた支援が求められている(文部科学省,2017)。そこで,本研究ではLDの診断を受けた子どもとその疑いのみられる子ども(以下,LD児)を対象に教師は通常学級でどのような困難感を持ちながら関わっているのかを教師の語りにより明らかにすることを目的とする。

方  法
 調査対象:学校長の許可を得た後,個別に依頼し同意を得られた9小学校の通常学級担任教師13名(男性5 名,女性8 名,平均年齢39.9 歳)。インタビューによる半構造化面接により1 名の教師から1-2事例が語られ,全14事例であった。
 調査内容:通常学級において,LDの診断を受けている,及び疑いのある子どもを挙げてもらった。その後,学級での様子,指導困難な場面や困難感,それに伴う配慮や関わりについて尋ねた。
分析方法:質的分析の中でも手順が明確なグラウンデッド・セオリー・アプローチ(Strauss & Corbin,1998)を援用した。

結果と考察
 分析の結果,13カテゴリーグループ(以下,CG),39カテゴリー,75概念が導出された。以下,CGを【】,カテゴリーを『』,概念を〈〉で表記する。 
 【事前情報】 教師はLD児との関わりにおいて,最初に【事前情報】として前担任や保育園からこれまでの様子を引き継ぎ新たな学年をスタートとさせていた。
 【指導困難場面】 一斉指導等の通常の指導を行っている過程で【指導困難場面】が生起していた。その内容は『学習場面』が中心で,〈書く活動の困難さ〉〈漢字が書けない〉〈計算ができない〉以外にも,学力全般にわたる〈学業不振〉や,〈学習に取り組めない〉ことが語られた。
 【教師の困難感】 このような子どもの状態に日々関わる中で【教師の困難感】が生じていた。『書けない時の支援の難しさ』に代表されるカテゴリーにとして,一斉授業を行う教師が〈1人では対応しきれない〉ことが語られた。更に,個別支援の方法がわかっている場合は物理的制約により〈十分対応できていない〉という悩みが,何度指導してもなかなか学習が定着しないことに対しは〈対応がわからない〉という悩みも生じていた。
 【状態分析】 通常の指導ではうまくいかない場合に,教師は子どもの現在の状態を改めて探る【状態分析】を行っていた。最初に『アセスメント』を行い,子どもができる部分と課題とを分析していた(「算数は比較的彼は好きなんですけどでも内容にもよっていて,図形はすごい好きで。でも計算は本当に厳しいですね(B先生)〈計算はできる〉等)。更に,〈生育歴〉〈特性的要因〉を含む『要因分析』を行っていた。その後,それらを踏まえて〈現状の課題〉を抽出し今後の方向性を見出す『課題設定』がなされていた。

総合考察
 教師の「わりとおとなしく過ごしてるけど,ちゃんと聞いてないですね(H先生)」という語りにあるように,LD児は知的能力に問題がないため(APA,2013/2014),問題行動等が表出しな状況では通常学級で目立たないことも多い。そのような場合,高学年や進学にあたり学習の遅れが目立つことにより課題が顕在化する可能性がある。しかし,本研究により教師は通常学級における多様な子どもたちの中でもLD傾向のみられる子どもを普段から気にかけていた。そして授業の中で,学習の遅れや苦手さが発達特性によるものか,学習の理解不足や練習不足によるものかを慎重にアセスメントし,それに基づき子どもの課題を設定していた。一方,通常学級における教師の悩みとして『担任1人での対応の限界』等が生じていた。今後このような教育実践での教師の困難感とそのプロセスを詳細に分析し,LD児に対する教師の実践知や教育的示唆を提示することが求められる。