The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表

[PH] ポスター発表 PH(01-73)

Mon. Sep 17, 2018 1:00 PM - 3:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PH66] リーダーシップ力がピア・メディエーション能力に与える影響

人間関係づくりを効果的に取り組むための一考察

冨田幸子1, 赤井悟2 (1.大阪府寝屋川市立第六中学校, 2.甲南女子大学)

Keywords:リーダーシップ力, ピア・メディエーション, 総合的な学習の時間

問題と目的
 小学6年生を対象に実施した,中学校へのイメージについてのアンケートによると,中学校入学に対してポジティブな意見と共に,学習,部活動,新しい環境下での人間関係など中学校生活に対する不安が一部みられる。人間関係がうまく構築できない不安や学校内で起きる些細なトラブルは,中学校入学後も,不登校問題やいじめへと深刻化していくケースも少なくない。
 中学校現場では,そうした問題を早い段階からどう予防するかが課題として今まさに問われている。そこで,総合的な学習の時間などを活用し,いじめ防止の予防的なプログラム,あるいは人間関係づくりに有効なトレーニングの導入が検討されるようになってきた。そのうちの一つである,ピア・メディエーションプログラムは,身近なトラブルが起こった際に,子ども間でのメディエーション能力,すなわち「仲裁能力」を育成することを目ざすものである(池島,竹内,2011)。
 本研究では,「学級や学年をまとめ,自分たちで学校を動かそうとする」場面で力を発揮するリーダーシップ力という概念(澤田,2016)に着目し,ピア・メディエーション能力獲得への影響について明らかにすることを目的とする。

方  法
 平成29年度A市B中学校のピア・メディエーションプログラムの授業を受けた1年生5クラスの生徒を対象に,プログラム実施の事前事後に,佐賀県教育センターで開発されたトラブル場面での声かけの意識調査を実施した。事後には国立妙高青少年自然の家が作成したリーダーシップ測定調査も併せて実施した。有効回答数は161名であった。

結果と考察
 リーダーシップ力の全体の平均値は73.0となった。リーダーシップ力のクラス平均値が73.0より高い2クラスは,プログラム実施後,トラブル場面での声かけの意識調査29項目中,26項目の平均値が上がっていた。一方,リーダーシップ力のクラス平均値が73.0より低い3クラスは,29項目中17項目ではあがっていたものの,3項目が横並びで,下がる項目が9項目あった。
 次に,個々にリーダーシップ力とメディエーション能力の関係を検討した。73.0以上の生徒をA群とし,それより低い生徒をB群とした結果,A群は76名,B群は85名となった。プログラム実施前のメディエーション能力の個人の総合点の平均値は66.0で,メディエーション能力の個人の総合点が66.0より高いものを「高」,低いものを「低」とし,プログラム実践前後のメディエーション能力の変化を「高→高」,「高→低」,「低→高」,「低→低」の4群の分類とした。その結果,χ2乗値は,17.24,自由度3,p値<0.00063となり,リーダーシップ力得点の高いA群,低いB群におけるプログラム実施後のメディエーション能力の変化を表す「高→高」,「高→低」,「低→高」,「低→低」には,有意な差がある(有意水準1%)と判定された。さらに,調整済み残差判定を行い,メディエーション能力変化の「高→高」とメディエーション能力変化の「高→低」群におけるリーダーシップ力の高いA群,低いB群には有意な差があり(有意水準1%),メディエーション能力変化の「低→低」という結果についても,リーダーシップの高いA群,低いB群の間に有意な差があった(有意水準5%)(Table1)。
 このように,学年全体で同じプログラムを実施しても,個人によってプログラムから身につけるメディエーション能力には差異が見られた。すなわち,リーダーシップ力が高い生徒は,トラブルがあった際に,トラブルを起こしている他者に関わっていこうとする姿勢がより強くなったり,元々堅持している他者への関わりが強まる傾向がみられる一方で,リーダーシップ力が低い生徒は,プログラムを実施後,メディエーション能力が低くなったり,低いまま変化がないケースがみられ,ピア・メディエーションプログラムの効果が充分みられないことが示唆された。また,プログラム実施後,リーダーシップ力の平均値が高いクラスは,低いクラスよりもトラブル場面での他者への関わりを行うケースが増える傾向もみられた。したがって,ピア・メディエーションのような人間関係づくりのプログラムからの学びを効果的に身につけさせるには,日常的に個々にリーダーシップ力を育成するという視点を持ち,学級内のリーダ育成を積極的にしていく必要があると考えられる。