The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PH] ポスター発表 PH(01-73)

Mon. Sep 17, 2018 1:00 PM - 3:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PH71] 幼児教育職務実践力尺度を精査する

現職の幼稚園教諭は実習生に何を期待するのか

秋山真奈美 (佐野日本大学短期大学)

Keywords:保育者志望学生, 幼稚園教育実習, 幼児教育職務実践力

目  的
 子どもと実際に関わる以上,保育者を志す実習生に幼児教育職務実践力は必要である。そこで秋山 (2011;2012;2013;2017)は現職の保育者に“現場で必要な幼児教育職務実践力”を問う方法で,「幼児教育職務実践力尺度」(42項目,10点評価法:以下「本尺度」)を作成した。しかし実習場面において,現職職員と同様の経験をする機会が与えられるとは限らない。実習生本人の振り返りを促すための用具における,未経験による欠損値の増加は,結果の信頼性を低めることになる。そこで,本尺度項目の精度を上げることを企図し,現職の幼稚園教諭に“実習生にはあまり体験機会の無い内容”の抽出を依頼する。また,本尺度の各項目に関し,実習生の自己評価と,実際に実習現場で指導に当たった幼稚園教諭の評価とを対照する。さらに,実習成績評価と相関の高い項目に着目することにより,現職の幼稚園教諭が実習生の活動に何を期待しているのかを探索し,今後の実習生指導の参考にすることをねらう。

方  法
 栃木県下S短期大学保育者養成課程の2年次学生に対して,1年次より保育・教育実習が終了する度にパネル調査している本尺度を,3週間の教育実習完遂直後の平成29年7月に実施した。また同時期に,彼らが赴いた幼稚園教育実習先で,実際に対象学生の指導を行った幼稚園教諭に対し,郵送法質問紙調査を実施した。情報の取扱方針を事前に学生・幼稚園教諭双方に明示し,後者のフェイスシートには予め評価対象となる実習生の氏名を入れ,回答者氏名は無記名式で,属性として性別と幼児教育(保育)経験年数を訊いた。幼稚園教諭に対しても本尺度を使用し,実習生がその内容をどの程度実行できていたかを10点満点で評価して貰った。また「実習生が経験するのは難しい」と思われる項目に対しては,項目番号前に示された欄に「難=×」「やや難=△」を記入して貰った。また用紙末尾には自由記述を請うた。この結果に加え,学生の自己評点,欠損値データ,及び実習成績との相関の高低も,項目の取捨選択検討の際の材料とした。

結果と考察
 実習生97名に対し,実習園は73園で,うち43園60名分の返送があった(回収率60.6%)。実習生が資格取得を放棄し一連の調査手続きが完遂しなかった事例を除き,学生,幼稚園教諭共に59名分のデータを分析対象とした。なお,同一園実習で同じ指導幼稚園教諭が複数の学生のデータを記入していると思われる事例,及び複数の指導教諭が単一学生の評価を相談して行っていると思われる事例については,それぞれ有効とした(後者の場合の経験年数値は中央値を採用。性別は同一)。これらのデータを用いた項目カットオフポイントの検討基準は,×印が全回答の6分の1にあたる10以上あるか,△印が全回答の3分の1にあたる20以上あるか,あるいは×印を2点,△印を1点で換算した「不要性得点」が30点以上であるかのいずれかとした。幼稚園教諭回答者(のべ)の性別は男性1名,女性56名,不明2名,経験年数は1~36年の範囲(M=12.0,SD=7.9)であった。学生データの内訳は,男性3名,女性56名で,教育実習時の平均年齢は19.2歳であった。
 実習園から送付される5段階総合評価と有意な正の相関を持つ項目は,実習指導教諭が実習生の評価をする際に着眼している要素である可能性が高い。そこで,総合評価と幼稚園教諭からのデータの各項目との間に,スピアマンの相関分析(両側検定)を行った。その結果,「個と集団の関係性に留意して園児の活動を予想」した上で「園児が自分で活動を展開し,ねらいを達成していけるような援助を工夫して考える」等『Ⅰ.園児と集団の実態を把握した上で環境を整える技能』(10項目[y]中8項目[x]が有意正相関:以下x/y項目で表記)や,「園児が情緒の安定した生活を送れるよう,園児との信頼関係の構築に努める」等『Ⅱ.関係性・信頼性に関する技能』(2/4項目),「園児が主体的に取り組んでいるかを見極め,その姿を励ます」等の『Ⅲ.園児の主体性や潜在能力を引き出す力』(6/9項目),「友達との間で引き起こされた対立や葛藤からの立ち直りを励ます」等の『Ⅳ.対人感情や対人技術を育てるための働きかけ』(4/4項目)に関する項目に,実習評価との有意な正の相関が確認された(p<.01,.05)。しかし一方で『Ⅴ.情報・衛生・安全管理に関する注意』や『Ⅵ.園児のコンディションへの関心』はそれぞれ6項目中1項目,9項目中1項目しか有意な正の相関を示さず,また「実習生には経験するのが難しい」と判断される不要性得点に関し高い値を示す項目も多かった。この不要性得点の高いもののうち5項目は,いずれも保護者との交流や,家庭の食育への働きかけを検める項目で,自由記述においても,その重要性に触れる添え書きはあるものの「保護者や家庭環境に関与するのは,実習生では難しい」「実習時に家庭のことまで把握して保育を行うのは難しい」との記載があり,また学生の欠損値も多かった。そこで,より安定した尺度構造を得るためにも,今後の「教育職務実践能力」評価項目からは除くことにした。この他,常態的に学生の欠損値が多く,不要性得点が高い「散歩中等に自然の美しさに着目させる」項目を削除することにした(不要の理由記述例:「口頭では敢えてしないことが多い」)。これに対し「クラス内の人間関係の把握」及び「園児の生活リズムの把握」は,いずれも不要性得点が30点を超えたが,学生の欠損値は然程多くない上,実習成績と指導教諭評価が有意な正の相関を示したり,学生の自己評価と指導教諭評価が有意な正の相関を示したり,1年次より実習を重ねるにつれ欠損値が減少する傾向があったりすることから,今回の削除は保留とし,今後の経過を観測することにした。
 以上の過程を経て,実習生に期待される活動が,園児との短期間での関わりや眼前の課題を意識したものが中心であること等を確認するとともに,より高い精度を持つ用具となることをねらい,幼児教育職務実践力尺度項目の取捨選択を検討した。