[JC02] 学習支援としての説明は本当に有効なのか(4)
探究学習の成立を支援する説明の要件
Keywords:学習支援、説明、探究学習
児童生徒の学習に対して説明活動は支援的な役割を果たす言語活動だが,様々な問題がつきまとう。これまでのシンポにおいても,例えば2016年には「説明の無効性問題」に着目し,学習支援の説明が必ずしも有効にならない点を指摘し,背後にあるメカニズムを検討した。2017年には「子どもの教え合い」に焦点を当てて,説き手である児童生徒が果たすべき役割について検討し,聞き手にあわせた説明の有り様が議論された。さらに,2018年には,説き手となる児童生徒には説明対象についての豊かな既有知識があるため,それが影響して受け手の理解を捏造し,「わかりやすい説明」を押しつける傾向が示された。
以上のように議論を重ねてきたが,理念的な議論に割く時間はもう残されていない。実は独りよがりな言語活動が「説明」と称して教室の中に入り込んでいる流れは止めようもないからである。そこで今回は,具体的に探究学習における説明活動に焦点を当てたい。中教審答申 (2008) 以降,探究的な学習活動を充実する方向が進んでおり,また「主体的・対話的で深い学び」が展開する中で探究学習が中核を担うためでもある。この中での説明活動が果たして学習支援としての要件にかなうかどうかを見極めていく必要がある。
よく知られているように,児童生徒にとって探究学習は不振に陥りやすい学習活動である。大学生や大学院生の卒論や修論を持ち出すまでもなく,探究プロセスに潜む困難さが自覚できるためである。探究学習が問題発見,問題解決,検証から成立すると考えてみると,第一ステップである問題発見が重要だと科学哲学者は主張し続けてきたが (Polanyi, 1966),ここでいう「問題」とは実は個人の「思いつき」程度の「疑問」ではなかったはずである。Polanyi (1966) は「正当な問題」と呼ぶが,単純化して言えば,理論構築に資する「問題」の発見がいかに重要かを言うのである。my question とour questionsの峻別とも言い換え得るが,前者が必ずしも後者に繋がるとは言えず,この時点で探究学習は萎むことも余儀なくされてしまうのである。要するに探究学習は不振に陥りやすい面を持つとの主張だが,だからこそ学習支援のニーズがあるとも言える。
それでは,児童生徒がすすめる探究学習の成立において,その支援に用いる説明活動にはどのような要件が必要なのであろうか。つまり,問題発見,問題解決,検証のステップが探究学習を成立させると考えた場合に,それぞれのステップに資する説明の要件を考える事ができるかもしれない。中でも,第一ステップである問題発見時の説明の要件は以降のステップの成立により資するかもしれない
本シンポジウムでは,過去のシンポジウムで議論されてきた「説いて明らかにする」という説明の原義に基づきつつも,探究学習の成立に焦点を当てて,その不振を改善するための支援的な説明活動の要件についての検討に挑みたい。
実践における意味と「探究」
松尾 剛
探究においては問題発見,問題解決,検証のサイクルを不断にくり返すことになる。子どもたちにとっては探究の開始時点から理論構築に資する問題を発見することは困難であり,初期の問いは個人の「思いつき」程度のものであることが一般的なのではないだろうか。最初は「思いつき」程度の問いかもしれないが,まずは,その問いに取り組み,何らかの知識や解を得る。重要なことは,そこで探究を終えずに,得られた知見「によって」もしくは「について」探究のサイクルを展開させていくことだろう。この段階においてこそ,理論構築に資するような問題の発見が強く求められ,教師の学習支援の必要性が高まると考える。
探究は常に何らかの実践として行われる。したがって,そこで学ばれる知識や技術には常にその実践の文脈における意味が付随している。このことが,上述した探究サイクルの展開につながる問題発見において重要であるという点を指摘したい。特に,本シンポジウムのテーマである支援的な説明活動については,各教科における探究という営みがいかなるものであるのか,また,その中で知識がどのような意味を持つのか,といった点を日々の授業の中で教師がいかにして子どもに「説いて明らかに」しているのかを検討したい。
協同的な問題解決における効果的な説明と支援の可能性
田中瑛津子
科学技術が高度化する中,それぞれのもつ知識を持ち寄り,協同的に難しい問題に取り組むスキルが必要とされている。しかし,単に協同的に取り組む環境を与えるだけでは,「協同」の良さが十分発揮されず,効果的な問題解決に至らないことも指摘されている。
本発表では,大学生のペア学習中の発話や動機づけの変化について分析した研究を紹介したい。本研究の目的は大きく二つある。
一つは,協同学習の目標を変えることの効果を検討することである。授業中のほとんどのペア学習やグループ学習では,協力して「正解を導くこと」「課題を完成させること」を目標として設定されることが多いが,「お互いの理解を深めること」を目標とすることで,内容理解に重点を置いた深い発話が促されるのではないかと考えられる。
二つ目は,協同学習中の発話が,協同中の動機づけや問題解決に影響を与えるプロセスを明らかにすることである。動機づけは協同学習中に刻一刻と変化する。したがって,本研究では協同学習中に5分毎に動機づけを測定することで,その変化のプロセスを検討する。
本発表では,研究結果について紹介した上で,協同学習における効果的な説明と支援の可能性について議論したい。
思考の表現としての科学的説明を育てるガイド原則
坂本美紀
実験データや科学的原理を用いた論証としての科学的説明は,探究の核となる活動であり,科学的思考と並ぶ,理科の重要な教育目標である。我々は,科学的原理を発見する協調学習に,論証構造を意識した科学的説明の練習を組み込んだ,小学校高学年向けのカリキュラムを開発し,実証研究を行ってきた。科学的説明の育成には反復と継続が必要であり,説明のレベルを上げつつ,複数の単元に渡る指導を展開した。
各単元における科学的説明の練習は,McNeillら(2012)による12の教授方略―論証構造の説明,例示と批評,相互評価,フィードバック等―を理論的基盤とした。しかしこれらは,包括的な教授方略として提案されており,実際の理科授業での学習活動として具体化するには,教授方略と授業を結びつける具体的なガイドが必要であった。学習科学の領域で重視されるpragmatic pedagogical principleに相当するものである。我々が明確化したガイド原則は,今後,様々な現場の異なる単元で,この育成カリキュラムが実践されるために不可欠な情報である。本発表では,支援的な説明活動の要件としてのガイド原則と学習活動の実際を詳しく紹介する。
以上のように議論を重ねてきたが,理念的な議論に割く時間はもう残されていない。実は独りよがりな言語活動が「説明」と称して教室の中に入り込んでいる流れは止めようもないからである。そこで今回は,具体的に探究学習における説明活動に焦点を当てたい。中教審答申 (2008) 以降,探究的な学習活動を充実する方向が進んでおり,また「主体的・対話的で深い学び」が展開する中で探究学習が中核を担うためでもある。この中での説明活動が果たして学習支援としての要件にかなうかどうかを見極めていく必要がある。
よく知られているように,児童生徒にとって探究学習は不振に陥りやすい学習活動である。大学生や大学院生の卒論や修論を持ち出すまでもなく,探究プロセスに潜む困難さが自覚できるためである。探究学習が問題発見,問題解決,検証から成立すると考えてみると,第一ステップである問題発見が重要だと科学哲学者は主張し続けてきたが (Polanyi, 1966),ここでいう「問題」とは実は個人の「思いつき」程度の「疑問」ではなかったはずである。Polanyi (1966) は「正当な問題」と呼ぶが,単純化して言えば,理論構築に資する「問題」の発見がいかに重要かを言うのである。my question とour questionsの峻別とも言い換え得るが,前者が必ずしも後者に繋がるとは言えず,この時点で探究学習は萎むことも余儀なくされてしまうのである。要するに探究学習は不振に陥りやすい面を持つとの主張だが,だからこそ学習支援のニーズがあるとも言える。
それでは,児童生徒がすすめる探究学習の成立において,その支援に用いる説明活動にはどのような要件が必要なのであろうか。つまり,問題発見,問題解決,検証のステップが探究学習を成立させると考えた場合に,それぞれのステップに資する説明の要件を考える事ができるかもしれない。中でも,第一ステップである問題発見時の説明の要件は以降のステップの成立により資するかもしれない
本シンポジウムでは,過去のシンポジウムで議論されてきた「説いて明らかにする」という説明の原義に基づきつつも,探究学習の成立に焦点を当てて,その不振を改善するための支援的な説明活動の要件についての検討に挑みたい。
実践における意味と「探究」
松尾 剛
探究においては問題発見,問題解決,検証のサイクルを不断にくり返すことになる。子どもたちにとっては探究の開始時点から理論構築に資する問題を発見することは困難であり,初期の問いは個人の「思いつき」程度のものであることが一般的なのではないだろうか。最初は「思いつき」程度の問いかもしれないが,まずは,その問いに取り組み,何らかの知識や解を得る。重要なことは,そこで探究を終えずに,得られた知見「によって」もしくは「について」探究のサイクルを展開させていくことだろう。この段階においてこそ,理論構築に資するような問題の発見が強く求められ,教師の学習支援の必要性が高まると考える。
探究は常に何らかの実践として行われる。したがって,そこで学ばれる知識や技術には常にその実践の文脈における意味が付随している。このことが,上述した探究サイクルの展開につながる問題発見において重要であるという点を指摘したい。特に,本シンポジウムのテーマである支援的な説明活動については,各教科における探究という営みがいかなるものであるのか,また,その中で知識がどのような意味を持つのか,といった点を日々の授業の中で教師がいかにして子どもに「説いて明らかに」しているのかを検討したい。
協同的な問題解決における効果的な説明と支援の可能性
田中瑛津子
科学技術が高度化する中,それぞれのもつ知識を持ち寄り,協同的に難しい問題に取り組むスキルが必要とされている。しかし,単に協同的に取り組む環境を与えるだけでは,「協同」の良さが十分発揮されず,効果的な問題解決に至らないことも指摘されている。
本発表では,大学生のペア学習中の発話や動機づけの変化について分析した研究を紹介したい。本研究の目的は大きく二つある。
一つは,協同学習の目標を変えることの効果を検討することである。授業中のほとんどのペア学習やグループ学習では,協力して「正解を導くこと」「課題を完成させること」を目標として設定されることが多いが,「お互いの理解を深めること」を目標とすることで,内容理解に重点を置いた深い発話が促されるのではないかと考えられる。
二つ目は,協同学習中の発話が,協同中の動機づけや問題解決に影響を与えるプロセスを明らかにすることである。動機づけは協同学習中に刻一刻と変化する。したがって,本研究では協同学習中に5分毎に動機づけを測定することで,その変化のプロセスを検討する。
本発表では,研究結果について紹介した上で,協同学習における効果的な説明と支援の可能性について議論したい。
思考の表現としての科学的説明を育てるガイド原則
坂本美紀
実験データや科学的原理を用いた論証としての科学的説明は,探究の核となる活動であり,科学的思考と並ぶ,理科の重要な教育目標である。我々は,科学的原理を発見する協調学習に,論証構造を意識した科学的説明の練習を組み込んだ,小学校高学年向けのカリキュラムを開発し,実証研究を行ってきた。科学的説明の育成には反復と継続が必要であり,説明のレベルを上げつつ,複数の単元に渡る指導を展開した。
各単元における科学的説明の練習は,McNeillら(2012)による12の教授方略―論証構造の説明,例示と批評,相互評価,フィードバック等―を理論的基盤とした。しかしこれらは,包括的な教授方略として提案されており,実際の理科授業での学習活動として具体化するには,教授方略と授業を結びつける具体的なガイドが必要であった。学習科学の領域で重視されるpragmatic pedagogical principleに相当するものである。我々が明確化したガイド原則は,今後,様々な現場の異なる単元で,この育成カリキュラムが実践されるために不可欠な情報である。本発表では,支援的な説明活動の要件としてのガイド原則と学習活動の実際を詳しく紹介する。