[JC04] 多職種連携を促進する校内体制とは
校内コーディネーター,管理職,スクールカウンセラー,スクールソーシャルワーカーの実践から
Keywords:多職種連携、校内体制、専門家活用
学校では不登校の問題やいじめ・暴力行為の低年齢化など,生徒指導の問題が深刻な状況が続いている。その背景に,発達障害など子どもの特性が関係している場合や,うつ病や不安障害などのメンタルヘルスの問題が関係している場合もある。また近年,子どもを取り巻く環境も厳しく,経済的な困窮や,虐待的な養育など,家庭の福祉的なニーズが高い場合もある。こうした多様な背景が,不登校やいじめなどの生徒指導上の問題に関わっている場合も多く,これらの問題状況に対して,教員の役割を中心とする対応に加えて,心理の専門家であるスクールカウンセラーの配置(平成13年度より)や,福祉の専門家であるスクールソーシャルワーカー(平成20年度より)の配置が行われた。これにより,学校では子どもの援助に関わる専門職が複数配置されつつあり,“多職種連携”が現実のものになりつつある。一方,OECDの調査から教員以外の専門職の配置の割合について,米国44%,英国49%に対して,日本は18%という数値も示されており(文部科学省,2013),日本の学校は海外の多職種連携が盛んな国々と比べて多職種連携に慣れていない文化的背景もある。
その中で,SCが最初に配置されてから,SCと教員との関係性に関連する研究も複数行われており(吉村,2012;山本,2015),今後はSSWと教員との関係,SCとSSWの関係など,多職種間の連携の難しさは多様な形ででてくることが予想される。また,学校でのチーム援助の要となり,多職種の専門家や校内の教員をつなぐ役割として,“校内コーディネーター”があるが,その業務は多岐に渡っており(瀬戸・石隈,2002.2003),「役割過重」「役割葛藤」「役割曖昧」などの役割ストレスがあることが示されている(長谷部・阿部・中村,2012)。
子どもの問題状況が複雑化・深刻化するなかで,それぞれの専門家が自らの専門性を発揮し,子どもを中心として役割を果たすことは欠かせないことであり,それは学校の援助機能を高めることにつながる。本シンポジウムでは,効果的な多職種連携の実現のために,それぞれの立場の専門家がどのようなことができるのか,各自の実践から発表していただく。それを踏まえて,多職種連携の研究や実践をされており,海外の事情にも精通されている西山久子先生からコメントをいただき,フロアーも交えて学校における効果的な多職種連携のポイントについて考えたい。
話題提供
校内コーディネーターの実践から
桑原千恵子
児童生徒,保護者,教員とSC,SSWを繋ぐ役割はコーディネーター役の教師が担っており,その立場は各学校によってさまざまである。援助ニーズの高い子どもの援助のために学校内外の援助資源を連携・調整するコーディネーター(以下,CO)は,事前の準備,校内の行事との調整,関係者の負担の少ない時間や場所の調整などの役割を担う(家近,2013)。COの関わりの在り方が援助に大きく影響するため,COには高い資質とスキルが求められる(瀬戸・石隈,2003;田村,2013)。月に1~4回と非常勤勤務であるSCと常勤勤務であるCOが効果的に連携することで,児童生徒の学校生活の適応の促進が期待できる。筆者は,学校心理学の三段階の心理教育的援助サービスの枠組みに基づいて,SCとの連携を重視した実践を行ってきた。一次的援助サービスでは,①生徒指導・特別支援教育の校内研修,②児童・生徒主催のいじめ防止集会,③新入生保護者説明会など,二次的・三次的援助サービスでは,①個別相談のコーディネーション,②チーム援助会議のコンサルテーション,③うまく機能しない学級への対処,④心的外傷への対処,⑤援助要請が得られない場合などでSCと連携を図っている。本シンポジウムでは,これらの実践を紹介し,こうした連携によって学校にどのような効果がもたらされたか,COがどのような役割を果たしたか考察したい。
管理職の実践から
川崎知已
特別な教育的ニーズのある児童を適切に支援していくためには,専門家(機関)との連携・協働体制を構築していくことは必須条件である。そして,その連携・協働体制を円滑に機能させるためには,教職員はもとより,専門機関,保護者全体への理解啓発等を図り,学校関係者すべてを支援のリソースとしていくことが重要である。しかし,このような組織体制構築を,校内コーディネーター教員の職務にするのは非常に負担が大きい。そこで,構築して,体制が軌道に乗るまでの期間,まず校長が,校内・校外コーディネート機能を担った,多職種連携を促進する体制づくりの実践を述べる。具体的には,大学教員との協働である「子ども生き生きプロジェクト」を立ち上げ,それを軸に,教職員,保護者,専門家への理解啓発を図り,試行錯誤しつつ連携・協働体制構築を行った。この実践を通して,教職員,保護者に,児童の支援当事者としてどのような変容・成長が見られたのか,当該児童及び学校全体の児童にどのような変容がみられたのか等についての成果と課題を述べる。
スクールカウンセラーの実践から
山崎沙織
現在,教育委員会の教育相談員(常勤)として,県立高校5校をSCとして担当している。日々のSC活動は,アセスメン トやカウンセリング,コンサルテーションに加え,昨今では校内会議等への参加,研修や心理教育の実施,予防的対応,事件・事故などの緊急対応における心のケアを行うなど活動は多岐にわたっている。これまでSCとして,“できることは何でもやろう”というスタンスで仕事をしてきたが,SCだけでは時間や専門性の限界を感じていた。
現在の職場では,高校5校を同一のSC (教育委員会所属)と SSW(高校所属)が協働で担当する仕組みになっている。SCとSSWの協働を可能にするため,勤務日を合わせるなど両者が顔を合わせて学校で勤務するなどの工夫をいくつか行った。その結果,ケースに対して初期のアセスメント段階から,SCとSSWの両者の視点に基づいた多面的なアセスメントが可能となり,支援の幅も広がった。また,SCとSSWの協働により,教員との協働関係の構築や教育相談体制にも様々な肯定的な変化が見られた(山崎・清水・飯田,2018)。以上のような実践から,専門家がそれぞれの専門性を発揮しチームとして機能することで,学校の援助機能を高め,子どもへの最善の支援になると感じている。本シンポジウムでは,SCの専門性として日々の業務を紹介するとともに,前述のSCとSSWが協働で構築したシステムに基づく実践をいくつか紹介する。
スクールソーシャルワーカーの実践から
岡安朋子
SSWの職務は,文部科学省(2009)によると,①問題を抱える児童生徒が置かれた環境への働き掛け,②関係機関等とのネットワークの構築,連携・調整,③学校内におけるチーム体制の構築,支援,④保護者,教職員等に対する支援・相談・情報提供,⑤教職員等への研修活動等があげられる。今回は,③のチーム体制の構築の実践について述べる。SSWが配置された学校において,校内コーディネーター(以下,CO)とSSWが連携し,多職種連携を促進する校内システムの構築を試みた。具体的には,校内システムの構築のプロセスとして,①SSWの導入時の準備,②COとSSWの相互コンサルテーションによる校内システムの構築,③校内システムの運用,そして,④校内システムの見直し,評価,定着の4段階で進んでいった。③の段階で,校内システムで対応した主なケースには,SSWとCOの協働で支援したケース,SSWあるいはSCが単独で支援したケース,SSWあるいはSCが教員へコンサルテーションしたケースが見られた。SSWが配置され,校内システムが構築された結果,COに校内情報が集約され,COがSCやSSWの専門性に合わせてケースを割り振り,SCやSSWの専門性が活かされ,多職種を必要とするケースの改善が見られたことについて報告する。
その中で,SCが最初に配置されてから,SCと教員との関係性に関連する研究も複数行われており(吉村,2012;山本,2015),今後はSSWと教員との関係,SCとSSWの関係など,多職種間の連携の難しさは多様な形ででてくることが予想される。また,学校でのチーム援助の要となり,多職種の専門家や校内の教員をつなぐ役割として,“校内コーディネーター”があるが,その業務は多岐に渡っており(瀬戸・石隈,2002.2003),「役割過重」「役割葛藤」「役割曖昧」などの役割ストレスがあることが示されている(長谷部・阿部・中村,2012)。
子どもの問題状況が複雑化・深刻化するなかで,それぞれの専門家が自らの専門性を発揮し,子どもを中心として役割を果たすことは欠かせないことであり,それは学校の援助機能を高めることにつながる。本シンポジウムでは,効果的な多職種連携の実現のために,それぞれの立場の専門家がどのようなことができるのか,各自の実践から発表していただく。それを踏まえて,多職種連携の研究や実践をされており,海外の事情にも精通されている西山久子先生からコメントをいただき,フロアーも交えて学校における効果的な多職種連携のポイントについて考えたい。
話題提供
校内コーディネーターの実践から
桑原千恵子
児童生徒,保護者,教員とSC,SSWを繋ぐ役割はコーディネーター役の教師が担っており,その立場は各学校によってさまざまである。援助ニーズの高い子どもの援助のために学校内外の援助資源を連携・調整するコーディネーター(以下,CO)は,事前の準備,校内の行事との調整,関係者の負担の少ない時間や場所の調整などの役割を担う(家近,2013)。COの関わりの在り方が援助に大きく影響するため,COには高い資質とスキルが求められる(瀬戸・石隈,2003;田村,2013)。月に1~4回と非常勤勤務であるSCと常勤勤務であるCOが効果的に連携することで,児童生徒の学校生活の適応の促進が期待できる。筆者は,学校心理学の三段階の心理教育的援助サービスの枠組みに基づいて,SCとの連携を重視した実践を行ってきた。一次的援助サービスでは,①生徒指導・特別支援教育の校内研修,②児童・生徒主催のいじめ防止集会,③新入生保護者説明会など,二次的・三次的援助サービスでは,①個別相談のコーディネーション,②チーム援助会議のコンサルテーション,③うまく機能しない学級への対処,④心的外傷への対処,⑤援助要請が得られない場合などでSCと連携を図っている。本シンポジウムでは,これらの実践を紹介し,こうした連携によって学校にどのような効果がもたらされたか,COがどのような役割を果たしたか考察したい。
管理職の実践から
川崎知已
特別な教育的ニーズのある児童を適切に支援していくためには,専門家(機関)との連携・協働体制を構築していくことは必須条件である。そして,その連携・協働体制を円滑に機能させるためには,教職員はもとより,専門機関,保護者全体への理解啓発等を図り,学校関係者すべてを支援のリソースとしていくことが重要である。しかし,このような組織体制構築を,校内コーディネーター教員の職務にするのは非常に負担が大きい。そこで,構築して,体制が軌道に乗るまでの期間,まず校長が,校内・校外コーディネート機能を担った,多職種連携を促進する体制づくりの実践を述べる。具体的には,大学教員との協働である「子ども生き生きプロジェクト」を立ち上げ,それを軸に,教職員,保護者,専門家への理解啓発を図り,試行錯誤しつつ連携・協働体制構築を行った。この実践を通して,教職員,保護者に,児童の支援当事者としてどのような変容・成長が見られたのか,当該児童及び学校全体の児童にどのような変容がみられたのか等についての成果と課題を述べる。
スクールカウンセラーの実践から
山崎沙織
現在,教育委員会の教育相談員(常勤)として,県立高校5校をSCとして担当している。日々のSC活動は,アセスメン トやカウンセリング,コンサルテーションに加え,昨今では校内会議等への参加,研修や心理教育の実施,予防的対応,事件・事故などの緊急対応における心のケアを行うなど活動は多岐にわたっている。これまでSCとして,“できることは何でもやろう”というスタンスで仕事をしてきたが,SCだけでは時間や専門性の限界を感じていた。
現在の職場では,高校5校を同一のSC (教育委員会所属)と SSW(高校所属)が協働で担当する仕組みになっている。SCとSSWの協働を可能にするため,勤務日を合わせるなど両者が顔を合わせて学校で勤務するなどの工夫をいくつか行った。その結果,ケースに対して初期のアセスメント段階から,SCとSSWの両者の視点に基づいた多面的なアセスメントが可能となり,支援の幅も広がった。また,SCとSSWの協働により,教員との協働関係の構築や教育相談体制にも様々な肯定的な変化が見られた(山崎・清水・飯田,2018)。以上のような実践から,専門家がそれぞれの専門性を発揮しチームとして機能することで,学校の援助機能を高め,子どもへの最善の支援になると感じている。本シンポジウムでは,SCの専門性として日々の業務を紹介するとともに,前述のSCとSSWが協働で構築したシステムに基づく実践をいくつか紹介する。
スクールソーシャルワーカーの実践から
岡安朋子
SSWの職務は,文部科学省(2009)によると,①問題を抱える児童生徒が置かれた環境への働き掛け,②関係機関等とのネットワークの構築,連携・調整,③学校内におけるチーム体制の構築,支援,④保護者,教職員等に対する支援・相談・情報提供,⑤教職員等への研修活動等があげられる。今回は,③のチーム体制の構築の実践について述べる。SSWが配置された学校において,校内コーディネーター(以下,CO)とSSWが連携し,多職種連携を促進する校内システムの構築を試みた。具体的には,校内システムの構築のプロセスとして,①SSWの導入時の準備,②COとSSWの相互コンサルテーションによる校内システムの構築,③校内システムの運用,そして,④校内システムの見直し,評価,定着の4段階で進んでいった。③の段階で,校内システムで対応した主なケースには,SSWとCOの協働で支援したケース,SSWあるいはSCが単独で支援したケース,SSWあるいはSCが教員へコンサルテーションしたケースが見られた。SSWが配置され,校内システムが構築された結果,COに校内情報が集約され,COがSCやSSWの専門性に合わせてケースを割り振り,SCやSSWの専門性が活かされ,多職種を必要とするケースの改善が見られたことについて報告する。