[JD01] チーム学校を活かしたソーシャル・エモーショナル・ラーニング(SEL)実践
スクールカウンセラーが関わる実践に焦点をあてて
Keywords:SEL、スクールカウンセラー、チーム学校
企画趣旨
石本雄真
不登校やいじめなど日本における子どもたちの不適応問題が改善する兆しはみられない。学齢期の不適応問題に対して,諸外国では予防的介入を含めさまざまな心理教育が実施されており(Bore, Hendricks, & Womack,2013)、特に学校での介入については,広がりをみせるとともに効果も確認されている(Polanin, Espelage, & Pigott,2012など)。
そのような中,日本においても学校を始めとする集団場面において徐々に心理教育実践が拡がっている。心理教育実践にはさまざまなものがあるが,効果に対して客観的証拠を伴うことや学力向上にもつながる(Durlak et al., 2011)ことが示されたこともあり,Social and Emotional Learning(SEL)が世界的に注目を集めている。
日本では,学校においてSELを実施する際,心理専門職であるスクールカウンセラー(SC)や担任教員が実施することが多い。しかしながら,SCや担任教員が単独で行う実践では十分な効果につながらないことが懸念される。効果的なSEL実践の条件としてはさまざまなものが指摘されているが(Newman & Dusenbury, 2015),その中に学校・学級文化との統合や実施に対する支援の充実が挙げられている。SCのみで実施する場合,SELで学ぶスキルと日常の学校・学級文化との統合が十分に行いにくい。一方で担任教員のみで実施する場合では,専門性の違いゆえに忠実な実施ができなかったり,全体への支援だけでは不十分な個別の児童生徒のフォローアップにつなげにくかったりすることが懸念される。このことから,SCや担任教員を含む複数のメンバーで連携しながら実施することが効果的なSEL実践のためには必要であると考えられる。
本シンポジウムでは,SCや担任教員がお互いに,または他の専門職とどのように連携しながらSEL実践を行うことができるのか,実践事例からその効果や課題を検証し,効果的なSEL実践を行うためにチーム学校としてどのように連携を行うことが有効なのかについて検討することを目的とする。
中学校におけるスクールカウンセラーの予防教育への取り組み―SELの実践と効果―
小高佐友里
本実践では,感情への理解を深め適切に対処するスキルの獲得を目標とし,中学2年生4クラス129名(男子68名,女子61名)を対象としたSELプログラムを実施した。特別活動の授業時間を用い,主な授業者をスクールカウンセラー(以下SC)とした上で,担任や学年付きの先生方と協働し,全3回の授業をクラスごとに実施した。内容は,「感情を理解する(第1回)」「感情をコントロールする(第2回)」「感情を適切に表現する(第3回)」というテーマを通し,感情についての知識と適切な表現方法について学ぶプログラムであった。効果の検討は,中学生用J―WLEIS尺度(豊田・桜井,2007)を用い,SEL実施前後の感情知能得点の変化について分析を行った。その結果,プログラム実施前に自己評価の低かった生徒は実施後プラスの方向に変化した一方で,高かった生徒はマイナス方向への変化が見られた。このことは,授業を受けて感情への付き合い方に自信をつけた低群と,自分はできていると安易に捉えていた感情への取り組みが,良い意味で慎重になった高群といったように,個々の生徒がそれぞれに授業の内容を受け取り,感情知能の評価に変化をもたらしたものと思われる。中間群の生徒にも概ねプラスの変化が見られたことから,本研究におけるSELの実践は,生徒の感情との付き合い方に多くの示唆を与える有効な取り組みであったと考える。
本実践では,指導案の作成や主たる授業者としての役割をSCが担い,先生方の負担を軽減することで,複数回の授業を全クラスで行うことができたことは成果であった。また,指導案の作成や授業実施前後の打ち合わせを通して,各クラスの雰囲気や先生方の生徒への思い,実際の声かけや関わりの様子について,細やかに状況を把握することができたことで,授業中の生徒への声かけへの配慮や,授業後のSC活動においても折に触れて,生徒のニーズを踏まえた対応をすることができ,SCとしての活動の幅が広がった。いじめや不登校への対応が注目され,個別対応の印象が強いSCであるが,ユニバーサルな視点による予防教育実践の意義は大きいと実感した。その際,子ども達の感情への気づきを促し,適応的な表現方法の獲得を支えるSELは有効な実践方法であると考える。一方で,非常勤という限られた勤務形態の中で,複数回に渡る授業を行う取り組みは,スケジュール調整等の課題も多く,定着を促していくためには検討が必要である。
中学校におけるSCと協働したSEL-8Sでのストレスマネジメント教育
佐竹真由子
実践テーマを「不登校の未然防止の取組」とし,2年生(5学級,計203名)でSEL-8Sプログラムを8回実施した。その中でストレスマネジメントに関する授業を,SC(スクールカウンセラー)とのTT(ティームティーチング)を,福岡県教育委員会の取組である「生徒の困難・ストレスへの対処方法等に資する教育プログラム」として3回実施した。実施した内容は次の3つである。①「短所を乗り超える!」B2 ②「ストレスマネジメントⅡ」E2 ③「ポジティブに考えよう」F3(英数字は,SEL-8Sプログラムのユニットを表す)。
実施の手続きは,テーマ選びからSCと話し合いを重ね,授業の準備は報告者が行った。資料などはSCが作成し,授業実践は学級担任がT1で行った。授業の実施1週間前に学年職員(10名)と報告者,SCで指導案検討を行った。学級担任とのTTということで,少人数グループでの話し合いでは担任が主導し,リラックスのための呼吸法や,ストレスから起こる身体症状など専門的な話はSCが行った。
実践により,3つの効果が得られたと考えられる。一つ目は,一次支援から二次支援へとつなぐ機会となったことである。SCの学校での業務は基本的に対個人で行われるので,学校に通うすべての生徒が対象となる授業で顔を合わせる機会を設けたことは,生徒がSCについて知る機会となった。学級担任から,SCとのTT授業を機に,カウンセリングを受ける生徒もいたとの報告があった。
二つ目は,自分の性格の傾向を知ることで生徒の自己理解が深まることとなったことである。授業で取り扱ったリラックスのための呼吸法を,生徒が授業後に実際にやっている姿が見られた。また,生徒の感想からは,「私はストレスを感じやすいので,部活の大会など,とても緊張してストレスを感じてしまうのでこれから生かしていこうと思いました。」との意見が得られた。SCからは,「『こころの健康についての勉強なんか自分には関係ない』『ストレスといわれても実感がない』と感じている生徒たちが自分の日々の状況を振り返り内省する時間を持つことで,自己理解が深まったりしていた。」との報告があった。
三つ目は,周りの状況について理解しようとする態度の育成にもつながったことである。生徒の感想から,「この学習はとても大事なもので,学校に来れてない人や,教室に入れない人は何かのストレスやいやなことがあって,そのストレスがたまっていったんじゃないかと思いました。」との意見が得られた。
以上のことから,SCとの協働によるSEL-8S学習プログラムの実践は,教師のみで行う実践以上の効果があったと考えられる。
学校図書館司書との協働によるSEL実践
石本志穂
ここでは,学校図書館司書とスクールカウンセラー(以下SC)が協働してSELを行った実践について取り上げる。
一つ目は発表者がSCとして勤務する国立大学附属小学校2年(計33名)を対象とした実践である。「図書の時間(学校図書館を使って行われる読書教育の時間)」45分に,PEACE(Ishimoto, Matsumoto, & Yamane, 2017)のセッション1「気持ちに種類があることを知る」とセッション3「気持ちの大きさ小ささ」を著者が実施し,司書と養護教諭がTTとして授業に参加した。授業の最後に,司書が気持ちに関する図書の紹介と読み聞かせを行った。実施後,児童から「どんなきもちもだいじなんだということがわかりました」「今の自分のきもちはどうかな?と考えたことがなかったので考えられてよかったです」などの感想が得られた。二つ目は,著者がSCとして勤務する公立中学校の生徒(自主参加者)を対象とした実践である。図書館のイベントの時間15分を用い,PEACEのセッション1と2「体に表れる気持ちのサイン」を実施(時間の関係でワークは未実施)した。実施後,学校図書館司書が「気持ちに耳をすまそう」の関連書籍を置くコーナーを設置した。
SELを含む心理教育の実践は,鳥取県の各学校に根付いているとはいいがたい印象を受けている。そのため,時間数の確保が難しい場合が多く,教職員からは「SEL実施のイメージがわかない」という意見を受けることがある。そこで,たとえ単回であっても機会を見つけてSELを実施し,内容について教職員と意見交換をすることで,教職員はSELとはどのようなものなのかについての知見を得ることができ,SCは学校現場でSELを実践するにあたってスムーズに行うための知見を得ることができるといった効果を感じた。また,学校図書館司書と連携することで,実施と併せて関連書籍を紹介することができた。それだけではなく,学校図書館は,教室に入り難い児童生徒にとっての一時的な居場所となっていることがあり,学校図書館司書はそういった児童生徒の気持ちを理解している場合も多いため,SEL実施への意欲が高かったように感じた。加えて,図書委員会等,児童生徒と活動する時間枠を持っている場合もあり,実施につながりやすかったと感じた。児童生徒にとっては,単にSELを学ぶ以外にも,実施を通して児童生徒とSCが顔見知りになったことで,その後お互いに話しかけやすくなり,SCは児童生徒と「気持ち」について話題に取り上げやすくなったと感じている。ただし,この活動は単回であり,効果についてはSCの所感であるという限界を意識しておく必要がある。
石本雄真
不登校やいじめなど日本における子どもたちの不適応問題が改善する兆しはみられない。学齢期の不適応問題に対して,諸外国では予防的介入を含めさまざまな心理教育が実施されており(Bore, Hendricks, & Womack,2013)、特に学校での介入については,広がりをみせるとともに効果も確認されている(Polanin, Espelage, & Pigott,2012など)。
そのような中,日本においても学校を始めとする集団場面において徐々に心理教育実践が拡がっている。心理教育実践にはさまざまなものがあるが,効果に対して客観的証拠を伴うことや学力向上にもつながる(Durlak et al., 2011)ことが示されたこともあり,Social and Emotional Learning(SEL)が世界的に注目を集めている。
日本では,学校においてSELを実施する際,心理専門職であるスクールカウンセラー(SC)や担任教員が実施することが多い。しかしながら,SCや担任教員が単独で行う実践では十分な効果につながらないことが懸念される。効果的なSEL実践の条件としてはさまざまなものが指摘されているが(Newman & Dusenbury, 2015),その中に学校・学級文化との統合や実施に対する支援の充実が挙げられている。SCのみで実施する場合,SELで学ぶスキルと日常の学校・学級文化との統合が十分に行いにくい。一方で担任教員のみで実施する場合では,専門性の違いゆえに忠実な実施ができなかったり,全体への支援だけでは不十分な個別の児童生徒のフォローアップにつなげにくかったりすることが懸念される。このことから,SCや担任教員を含む複数のメンバーで連携しながら実施することが効果的なSEL実践のためには必要であると考えられる。
本シンポジウムでは,SCや担任教員がお互いに,または他の専門職とどのように連携しながらSEL実践を行うことができるのか,実践事例からその効果や課題を検証し,効果的なSEL実践を行うためにチーム学校としてどのように連携を行うことが有効なのかについて検討することを目的とする。
中学校におけるスクールカウンセラーの予防教育への取り組み―SELの実践と効果―
小高佐友里
本実践では,感情への理解を深め適切に対処するスキルの獲得を目標とし,中学2年生4クラス129名(男子68名,女子61名)を対象としたSELプログラムを実施した。特別活動の授業時間を用い,主な授業者をスクールカウンセラー(以下SC)とした上で,担任や学年付きの先生方と協働し,全3回の授業をクラスごとに実施した。内容は,「感情を理解する(第1回)」「感情をコントロールする(第2回)」「感情を適切に表現する(第3回)」というテーマを通し,感情についての知識と適切な表現方法について学ぶプログラムであった。効果の検討は,中学生用J―WLEIS尺度(豊田・桜井,2007)を用い,SEL実施前後の感情知能得点の変化について分析を行った。その結果,プログラム実施前に自己評価の低かった生徒は実施後プラスの方向に変化した一方で,高かった生徒はマイナス方向への変化が見られた。このことは,授業を受けて感情への付き合い方に自信をつけた低群と,自分はできていると安易に捉えていた感情への取り組みが,良い意味で慎重になった高群といったように,個々の生徒がそれぞれに授業の内容を受け取り,感情知能の評価に変化をもたらしたものと思われる。中間群の生徒にも概ねプラスの変化が見られたことから,本研究におけるSELの実践は,生徒の感情との付き合い方に多くの示唆を与える有効な取り組みであったと考える。
本実践では,指導案の作成や主たる授業者としての役割をSCが担い,先生方の負担を軽減することで,複数回の授業を全クラスで行うことができたことは成果であった。また,指導案の作成や授業実施前後の打ち合わせを通して,各クラスの雰囲気や先生方の生徒への思い,実際の声かけや関わりの様子について,細やかに状況を把握することができたことで,授業中の生徒への声かけへの配慮や,授業後のSC活動においても折に触れて,生徒のニーズを踏まえた対応をすることができ,SCとしての活動の幅が広がった。いじめや不登校への対応が注目され,個別対応の印象が強いSCであるが,ユニバーサルな視点による予防教育実践の意義は大きいと実感した。その際,子ども達の感情への気づきを促し,適応的な表現方法の獲得を支えるSELは有効な実践方法であると考える。一方で,非常勤という限られた勤務形態の中で,複数回に渡る授業を行う取り組みは,スケジュール調整等の課題も多く,定着を促していくためには検討が必要である。
中学校におけるSCと協働したSEL-8Sでのストレスマネジメント教育
佐竹真由子
実践テーマを「不登校の未然防止の取組」とし,2年生(5学級,計203名)でSEL-8Sプログラムを8回実施した。その中でストレスマネジメントに関する授業を,SC(スクールカウンセラー)とのTT(ティームティーチング)を,福岡県教育委員会の取組である「生徒の困難・ストレスへの対処方法等に資する教育プログラム」として3回実施した。実施した内容は次の3つである。①「短所を乗り超える!」B2 ②「ストレスマネジメントⅡ」E2 ③「ポジティブに考えよう」F3(英数字は,SEL-8Sプログラムのユニットを表す)。
実施の手続きは,テーマ選びからSCと話し合いを重ね,授業の準備は報告者が行った。資料などはSCが作成し,授業実践は学級担任がT1で行った。授業の実施1週間前に学年職員(10名)と報告者,SCで指導案検討を行った。学級担任とのTTということで,少人数グループでの話し合いでは担任が主導し,リラックスのための呼吸法や,ストレスから起こる身体症状など専門的な話はSCが行った。
実践により,3つの効果が得られたと考えられる。一つ目は,一次支援から二次支援へとつなぐ機会となったことである。SCの学校での業務は基本的に対個人で行われるので,学校に通うすべての生徒が対象となる授業で顔を合わせる機会を設けたことは,生徒がSCについて知る機会となった。学級担任から,SCとのTT授業を機に,カウンセリングを受ける生徒もいたとの報告があった。
二つ目は,自分の性格の傾向を知ることで生徒の自己理解が深まることとなったことである。授業で取り扱ったリラックスのための呼吸法を,生徒が授業後に実際にやっている姿が見られた。また,生徒の感想からは,「私はストレスを感じやすいので,部活の大会など,とても緊張してストレスを感じてしまうのでこれから生かしていこうと思いました。」との意見が得られた。SCからは,「『こころの健康についての勉強なんか自分には関係ない』『ストレスといわれても実感がない』と感じている生徒たちが自分の日々の状況を振り返り内省する時間を持つことで,自己理解が深まったりしていた。」との報告があった。
三つ目は,周りの状況について理解しようとする態度の育成にもつながったことである。生徒の感想から,「この学習はとても大事なもので,学校に来れてない人や,教室に入れない人は何かのストレスやいやなことがあって,そのストレスがたまっていったんじゃないかと思いました。」との意見が得られた。
以上のことから,SCとの協働によるSEL-8S学習プログラムの実践は,教師のみで行う実践以上の効果があったと考えられる。
学校図書館司書との協働によるSEL実践
石本志穂
ここでは,学校図書館司書とスクールカウンセラー(以下SC)が協働してSELを行った実践について取り上げる。
一つ目は発表者がSCとして勤務する国立大学附属小学校2年(計33名)を対象とした実践である。「図書の時間(学校図書館を使って行われる読書教育の時間)」45分に,PEACE(Ishimoto, Matsumoto, & Yamane, 2017)のセッション1「気持ちに種類があることを知る」とセッション3「気持ちの大きさ小ささ」を著者が実施し,司書と養護教諭がTTとして授業に参加した。授業の最後に,司書が気持ちに関する図書の紹介と読み聞かせを行った。実施後,児童から「どんなきもちもだいじなんだということがわかりました」「今の自分のきもちはどうかな?と考えたことがなかったので考えられてよかったです」などの感想が得られた。二つ目は,著者がSCとして勤務する公立中学校の生徒(自主参加者)を対象とした実践である。図書館のイベントの時間15分を用い,PEACEのセッション1と2「体に表れる気持ちのサイン」を実施(時間の関係でワークは未実施)した。実施後,学校図書館司書が「気持ちに耳をすまそう」の関連書籍を置くコーナーを設置した。
SELを含む心理教育の実践は,鳥取県の各学校に根付いているとはいいがたい印象を受けている。そのため,時間数の確保が難しい場合が多く,教職員からは「SEL実施のイメージがわかない」という意見を受けることがある。そこで,たとえ単回であっても機会を見つけてSELを実施し,内容について教職員と意見交換をすることで,教職員はSELとはどのようなものなのかについての知見を得ることができ,SCは学校現場でSELを実践するにあたってスムーズに行うための知見を得ることができるといった効果を感じた。また,学校図書館司書と連携することで,実施と併せて関連書籍を紹介することができた。それだけではなく,学校図書館は,教室に入り難い児童生徒にとっての一時的な居場所となっていることがあり,学校図書館司書はそういった児童生徒の気持ちを理解している場合も多いため,SEL実施への意欲が高かったように感じた。加えて,図書委員会等,児童生徒と活動する時間枠を持っている場合もあり,実施につながりやすかったと感じた。児童生徒にとっては,単にSELを学ぶ以外にも,実施を通して児童生徒とSCが顔見知りになったことで,その後お互いに話しかけやすくなり,SCは児童生徒と「気持ち」について話題に取り上げやすくなったと感じている。ただし,この活動は単回であり,効果についてはSCの所感であるという限界を意識しておく必要がある。