日本教育心理学会第61回総会

Presentation information

自主企画シンポジウム

[JE06] JE06
教師の授業マネージメントを考える

Sun. Sep 15, 2019 1:30 PM - 3:30 PM 3号館 3階 (3306)

企画・司会:大久保智生(香川大学)
企画・指定討論:有馬道久(香川大学)
話題提供:野中陽一朗(高知大学)
話題提供:町岳(静岡大学)
話題提供:岸俊行(福井大学)
指定討論:富田英司(愛媛大学)

[JE06] 教師の授業マネージメントを考える

大久保智生1, 有馬道久2, 野中陽一朗3, 町岳4, 岸俊行5, 富田英司6 (1.香川大学, 2.香川大学, 3.高知大学, 4.静岡大学, 5.福井大学, 6.愛媛大学)

Keywords:授業マネージメント、教師

企画趣旨
 近年,学校教育における授業の形態は多様化している。授業研究も従来の一斉授業に関する研究からアクティブ・ラーニングに焦点化した研究やICTを用いた授業の効果研究にシフトしてきているが,授業の形態を協働実践型の授業に変え,ICTを活用した授業を行ったとしても,それだけで「主体的・対話的で深い学び」となるとは限らないのは当然である。
 近年の「主体的・対話的で深い学び」にしろ,どのように教師が授業を構成し,子どもと関わるのかを抜きにしてとらえられるものではないといえる。これまでも優れた授業を行う教師は一斉授業の中でも「主体的・対話的で深い学び」を導いていたことからも,これまで行われてきた一斉授業に関する研究にも多くの示唆があると考えられる。また,協働実践型の授業やICTを活用した授業においては,一斉授業と対極のものというよりも,従来の一斉授業と同様に,教師がどのように授業をマネージメントするかという視点が求められるといえる。
 本シンポジウムでは,協働実践型の授業やICTを活用した授業の基礎となる教師の授業の構成や子どもとの関わりも含めた授業マネージメントに焦点を当て議論していきたい。今回は,授業研究を行っている野中氏,協同学習に関する研究を行っている町氏,ICTを用いた授業研究を行っている岸氏という3人の研究者に話題提供を行ってもらい,教師の授業マネージメントについて考えていく。さらに,今後の授業研究のあり方や方向性についてフロアも含めて活発に議論していきたい。

話題提供
授業場面に生起する非言語的行動から授業研究を問いなおす
野中陽一朗
 授業研究は,児童生徒の学びの質を高めるだけでなく,教師の専門性向上に寄与する。藤江(2014)は,日本における授業研究の目的に着目し,授業の諸過程の解明,授業開発,教師の学習契機の創出といった3つに授業研究の枠組みを整理している。一方,野中(2011)は,実際の授業場面において小学校教師が表出する非言語的行動の中でも1秒以上持続する身体各部の相対的位置関係として捉えられる体位を姿勢の基準と位置づけ,小学校教師の姿勢採取,姿勢としての形態と教授活動に関する機能の類似性から分類を行い代表的な50種類の姿勢クラスターを見出すだけでなく,当該姿勢クラスターの出現率が教師の個人属性や指導スタイルと関係することを示している。また,野中(2016a,2016b)は授業中に児童生徒が表出する非言語的行動の重要性に鑑み,河野(1983)が理解状態を予測する手がかりとして提示した6カテゴリー57種類の非言語的行動を刺激材料に位置づけ,児童生徒の理解状態の程度を類似性あるいは測定値の観点から分類を行い,非言語的行動自体の類似性でなく機能の一側面に立脚した類似性から再構築を試みている。これらの研究は,授業を構成する教師と児童生徒間の相互過程を非言語的行動の枠組みから解明し,教師の経験的な観念でなく実証的な研究データとして授業開発や教師の学習契機といった授業研究に寄与する可能性を秘めたものだと考えられる。
 しかし,野中(2016a,2016b)が刺激材料とした河野(1983)は,算数の文章題の式と計算及び答えをノートに記述するという解答場面において正解か誤りかという理解状態を予測する手がかりとしたものである。そのため,授業場面に生起する児童生徒の学習過程の理解状態を捉える非言語的行動としては,測定の妥当性に課題が残る。また,野中(2011)の研究手法は,授業開始時からの1秒という時間軸から教師の姿勢を捉えており,時間という視点から得られた教師の表出する非言語的行動を反映したものであることには疑いの余地がないものの,授業研究に活用するためにはまだまだ課題が考えられる。
 そこで,本発表では,ICTの急速な進展に伴い,授業の捉え方や教師の存在意義が問われる中,授業場面に生起する教師や児童生徒の非言語的行動を授業研究に位置づけるためにはどのように捉えるべきか提案し,野中(2011)の姿勢刺激を活用した機能の実証性や授業文脈での活用に関する結果,児童生徒の理解状態を表出する非言語的行動に関する探索的な研究を紹介する。これらの知見を踏まえ,非言語的行動から授業構成を捉える意義を考えていきたい。

「学び合い」を意味づける・位置づける
町 岳
学習指導要領改訂の授業改善のキーワード「主体的・対話的で深い学び」を受け,グループ学習などの小集団による学び合いに注目が集まっている。しかしグループで話し合いをさせれば,それで子供達の思考が深まるわけでは,もちろんない。学び合いで,質の高い相互作用を生み出すのはそう簡単ではなく,小集団の学び合いを意味のあるものにするためには,授業者は「学び合いで何をねらうのか」,「授業のどの場面で学び合いを取り入れるのか」について,自分なりに腹を決めて授業に臨む必要がある。
 学び合いにおける児童・生徒どうしの相互作用が,なぜ学習成果を促進するのかという点について,例えば Webb(2009)は,3つの思考深化プロセスがあることを用いて説明している。このことは,教師は,学び合いにより生み出される思考深化のプロセスが多様であることを踏まえ,その中から今回の学習課題にふさわしい思考深化のプロセスを設定する必要があることを示している。
 また小集団の学び合いを,授業のどこに位置づけるのかも重要である。例えば日本の算数科教育では,「課題把握」,「自力解決」,「集団検討」,「まとめ・適用問題」という,問題解決型の授業デザインが海外からも注目されている。学習課題に個人で取り組んだ後,それを集団で検討する(練り上げる)というこの授業デザインは,集団検討(学び合い)により,数学的な思考力を育成することが期待されるものの,集団検討場面における解法の検討が,一部の子どもと教師の間で行われるという指摘から,小集団による学び合いを取り入れた実践が多く見られるようになってきた。しかし,小グループの話し合いと学級全体の話し合いの違いを踏まえた上で,授業に位置付けている実践は少なく,よく見かけるのが,小グループの話し合いを,「自力解決」と「集団検討」の間になんとなく入れるというものである。
 本シンポジウムでは,これらの問題に対して,「学び合いを意味づける・位置付ける」をキーワードにした,小学校4年生の算数科,「ドット図」の授業実践(町, 2018)を紹介する。集団検討をグループと学級全体の2つに分けて授業に位置付けるとともに,それぞれの学び合いおいて育てたい数学的思考力を明確にし,段階的に思考が深まるようにした授業マネージメントのあり方について議論したい。

授業内の教師と子どもとの関わりから考える授業の特徴
岸 俊行
 近年,学校現場における授業の形態は多様化している。グループワークの導入や多様な特徴を有する子どもたちに対応するためのTTの導入,更にはICTを用いた実践等,様々な授業が展開されている。このような状況を背景に,学習指導要領が改訂され学校現場において「主体的・対話的で深い学び」が位置づけられるようになった(文部科学省,2017)。このような教育現場の動きに連動するように,授業研究も従来の一斉授業の研究からアクティブ・ラーニングに焦点化した研究やICTを用いた授業実践の効果測定などにシフトしている。しかし小中学校の現場においては依然として一斉授業形式は主流であり,授業の中心をなしている。またアクティブ・ラーニング型の授業などの「新しい形式の授業」において求められる教師の技能が,従来の一斉授業において必要とされる教師の技能とかけ離れたものは言えない。一斉授業において必要とされる技能の延長に「新しい形式の授業」があるといえる。そこで本報告においては,従来型の一斉授業を対象に,授業内の教師と子どもとの関わりを検討した研究結果の報告を行う。具体的には,以下の2点について報告を行う。
1つは,教師の授業内におけるマネージメント行動が子どもおよび授業運営に及ぼす影響についてである。一斉授業のみならずアクティブ・ラーニング型の授業やTTを導入した授業においても,教師の授業マネージメントが重要であることは言を俟たない。何よりも子どもの自主性が中心になるアクティブ・ラーニング型の授業であれば,一斉授業以上に授業マネージメントが重要になってくる。そこで通常学級と荒れている学級を比較することで教師の教授行動と授業マネージメントとの関連について報告する。
 2つは,小学校と中学校においての教師の授業マネージメントの相違についてである。従来の授業研究においては,小学校,中学校それぞれを対象にした研究は多くみられているが,小学校と中学校の教師の教授行動を比較した研究はほとんど見られない。小中一貫教育が推進され,各地で義務教育学校が設置されている現在,小学校,中学校それぞれの教師が授業中にどのような授業マネージメントを行っているのかを比較検討することは,今後の小中一貫免許等を考えるうえでの重要な資料の提示につながると期待される。そこで授業マネージメントという観点で小中学校の教師を比較した研究結果を報告する。