[JF02] 学校適応はどのようにとらえられるのか(11)
高等学校における生徒の学校適応と学校の多様性
Keywords:学校適応、高等学校
企画趣旨
近年,不登校やいじめ,非行など様々な学校適応に関する問題が大きく取り上げられるようになってきた。現代の学校適応に関する問題を理解・援助する際には,学校という文脈における適応という概念について誰にとっての何への適応なのかなどを検討していく必要があるといえる。こうした問題意識から,一連の学校適応に関するシンポジウムを企画し,様々な視点から学校適応に関する問題を議論してきた。一昨年は小学校での学級への適応と教師の影響,昨年は中学校での学校への適応と友人関係といったように各学校段階での適応に固有の特徴を踏まえた議論を行ってきた。
今回のシンポジウムでは,高等学校段階における学校の多様性に焦点を当て,各学校の特徴や学校経営の方針と生徒の学校への適応について検討したい。高等学校には多様な特徴をもつ学校が存在しており,どの学校を選択するかによって,適応が変わることは容易に推測できる。その一方で,学校適応研究ではこうした学校の特徴については,捨象して研究が行われてきたといえる(大久保, 2005)。したがって,今回は高校で研究を行っている研究者に対象としている学校の特徴を踏まえた話題提供を行ってもらい,高校生の学校適応について理解を深めていきたい。
話題提供者としては,定時制高校の教師でもある北海道大学大学院の渡邉仁先生に「全日制高校と定時制高校の中退問題からみた学校適応」というタイトルで発表していただく。また,通信制高校でのフィールドワークを行っている立命館グローバル・イノベーション研究機構の神崎真実先生に「社会適応と接続した学校適応のかたち―通信制高校での事例をもとに」というタイトルで発表していただく。そして,多くの学校でフィールドワークを行っている北海道教育大学の川俣智路先生に「「良い環境」は生徒の成長を促すのか,阻害するのか?」というタイトルで発表していただく。指定討論者としては,近畿大学の大対香奈子先生と福岡教育大学の小泉令三先生にお願いすることとした。今回のテーマである高等学校における生徒の学校適応だけでなく,今後の学校適応に関する研究の方向性や課題も含めてフロアと活発に議論していきたい。
話題提供
全日制高校と定時制高校の中退問題からみた学校適応
渡邉 仁
近年,高校現場では様々な問題があり,中学校にはない高校特有の中途退学(以下中退)問題を抱えている。特に,定時制高校(以下定時制)の中退率は9.5%(文部科学省,2016)と深刻である。一方,全日制高校(以下全日制)の中退率は普通学科が0.8%,専門学科が1.1%(文部科学省,2016)と定時制に比べて低いが,古賀(1999)が学校によって中退率が0%から10%と幅があると指摘しているように,学校によって中退問題は深刻である。
中退理由については,対人関係や学習活動がうまくいかなかったというような学校不適応が最も多い(文部科学省,2015)ことから,中退する理由の多くに学校適応が影響していると考えられる。
しかし,どの学校も学校適応と中退は同じように関連しているのだろうか。杉江・村上・石田・清水(2011)が,中退者の友人関係が非中退者と差異がないことを示しているように,全日制に通っている生徒が,友人との関係がうまくいかないが大学進学のために中退せずに学校へ通い続けている生徒がいることが考えられる。また,杉山(2011)が学力不足に関係なく中退の予防が可能であることを示唆しているように,定時制において学力不足で成績不振となった生徒に対して,手厚い補習等で成績不振が解消して,中退せずに進級する生徒もいることが考えられる。逆に対人関係が良好である一方で中退してしまうこともある。例えば,友人との関係が良好な生徒が,むしろ仲間との存在が問題行動を促進させてしまい,中退に至ってしまう(杉山,2007)ことも考えられる。
このように,学校によって学校へ適応する要因や中退する要因が様々であり,特に全日制と定時制では大きく異なることが考えられる。しかし,高校を対象とした学校適応や中退に関する研究の対象校はほとんどが全日制で,中退問題が深刻である定時制を対象とした研究は少ない。
そこで,実証研究が少ない定時制も含めて,高校における学校適応の現状と実態を明らかにした結果,学校へ適応しているという感じ方が学校によって異なり,特に定時制は全日制と比べて生徒が学校へ適応していないと感じており,学校適応感に有意な課程差があった。また,学校適応要因には全日制と定時制で共通なものと異なるものがあった。よって,本発表では学校適応と中退の要因,学校適応と中退の関係性を学校間で比較検討した研究結果を用いて議論を深めていきたい。
社会適応と接続した学校適応のかたち―通信制高校での事例をもとに
神崎真実
本報告は,通信制高校での実践事例をもとに,社会適応と接続した学校適応のかたちについて考えるものである。報告者は,不登校経験者等を受け入れる学校(以下,受け入れ校)である通信制高校と全日制単位制高校で参与観察を行い,教師たちの視点と支援方法を探ってきた。受け入れ校には,不登校経験者や中途退学者,発達障害者や外国につながりのある者など,様々な背景をもった生徒が在籍している。また,受け入れ校に入学する生徒は,中学校や前籍校で何かしらの不適応・不適合を経験していることが多い。
受け入れ校では,前籍校に適応できなかった/しなかった生徒たちを包摂することが目指される。それゆえ,制度として,学校組織として,あるいはローカルな慣習・規則として,従来とは異なる学び方や学校生活が形づくられる(学級単位で生活しない,授業への出席ではなくレポートを中心として学習を進める,生徒の服装や身だしなみにルールを設けない等)。受け入れ校によってその内容は様々であるが,朝から夕方まで同じ集団の中で過ごさなければならないという前提が取っ払われていることもあり,どのような状態・生徒が学校適応的/学校不適応的なのかについても,一枚岩ではない。
では,受け入れ校の教員が何を問題視しているのかというと,他者と関わることができない,朝から起きられない,スケジュール管理ができないといった,生徒の生活全般に関わる事柄である。例えば,生徒のスクーリング(面接指導)日数が足りていないことを問題視した通信制高校の教員が,当該の生徒に電話をかけて理由を聞くと,たいていの場合は学校外の文脈から理由が説明される。学校で毎日過ごすことが前提になっていない分,生徒は自らの生活の(学校外の)文脈から欠席理由を説明せざるを得ないのかもしれない。いずれにせよ,教員は学校での生徒のつまずきを,生徒の生活の文脈とともに理解していくことになる。こうして,学校での躓き(学校適応の問題)は,社会適応の問題と接続されてゆく。
本報告では,通信制高校での事例をもとに,生徒がいかなる社会適応・学校適応の問題に直面し,教員が生徒の適応課題をどこまで・どのように扱おうとしたのかを検討する。そして,社会適応と接続した学校適応のかたちについて考察を行う。
「良い環境」は生徒の成長を促すのか,阻害するのか?
川俣智路
学校適応のためにできる取り組みとして,最も重要なものの1つが環境の調整である。しかし,実際の取り組みの際には「環境調整をしたものの,その環境を生徒自身が活かそうとしなかったため,効果的ではなかった」,「調整された環境には身を置くことができたが,そこから生徒自身の変化が見られず,本人の学校生活の改善の効果が感じられなかった」といったような場合も少なからず見られる。またこうした例を理由に,「『快適すぎる』環境は生徒の成長を促さない」と環境調整に対して否定的な見解を持つ場合も見られる。
ここで重要な点は,学校が一方的に期待される適応に生徒を落とし込むために環境を調整しても,生徒にとっては必要なサポートにもならないことである。学校には,生徒のニーズを把握し環境調整するだけではなく,生徒自身がなぜその環境調整がありそれが何に役立つのかを理解して,積極的に環境を活用できるような支援が求められているのではないだろうか。
本報告で紹介するA高校は,通信制高校サポート校として「発達障がいを抱えた人」「不登校を経験した人」「学校という環境に違和感を感じ馴染めなかった人」「勉強に苦手意識をもっている人」などの受け入れを積極的に実施している。また,自立訓練事業所とも連携している。その取り組みはきめ細やかで,個別の支援ニーズへの対応,個人にあった進路指導の結果,入学者の95%以上が卒業することができている。その中で,特徴的な取り組みとして,学習の目的(Goal)となぜ学習するのか(Why)を明確に示し,それにそって生徒自身が学習の方法,進度,順序,評価のタイミングなどを自分に合わせた形で選択し進めることができる,学習支援の取り組みが挙げられる。例えば,数学の時間では,現状にあわせた習熟度別の課題が選択でき,課題の問題数なども自分で必要に応じてアレンジでき,課題を解く際には教員の説明を聞く,ヒントを見る,動画による解説を参考にするなどの方法から,その都度自分に合った学び方を選ぶことができる。こうした環境の中で,生徒は「支援を受ける」立場から「環境を利用すれば学習に自分で取り組むことができる」立場へと成長していくのである。
当日はA高校の学校方針,実践の紹介,生徒の事例の紹介を通して,A高校の方針がどのように生徒に影響を与えており,A高校における生徒の適応がどう考えられるかについて検討したい。
近年,不登校やいじめ,非行など様々な学校適応に関する問題が大きく取り上げられるようになってきた。現代の学校適応に関する問題を理解・援助する際には,学校という文脈における適応という概念について誰にとっての何への適応なのかなどを検討していく必要があるといえる。こうした問題意識から,一連の学校適応に関するシンポジウムを企画し,様々な視点から学校適応に関する問題を議論してきた。一昨年は小学校での学級への適応と教師の影響,昨年は中学校での学校への適応と友人関係といったように各学校段階での適応に固有の特徴を踏まえた議論を行ってきた。
今回のシンポジウムでは,高等学校段階における学校の多様性に焦点を当て,各学校の特徴や学校経営の方針と生徒の学校への適応について検討したい。高等学校には多様な特徴をもつ学校が存在しており,どの学校を選択するかによって,適応が変わることは容易に推測できる。その一方で,学校適応研究ではこうした学校の特徴については,捨象して研究が行われてきたといえる(大久保, 2005)。したがって,今回は高校で研究を行っている研究者に対象としている学校の特徴を踏まえた話題提供を行ってもらい,高校生の学校適応について理解を深めていきたい。
話題提供者としては,定時制高校の教師でもある北海道大学大学院の渡邉仁先生に「全日制高校と定時制高校の中退問題からみた学校適応」というタイトルで発表していただく。また,通信制高校でのフィールドワークを行っている立命館グローバル・イノベーション研究機構の神崎真実先生に「社会適応と接続した学校適応のかたち―通信制高校での事例をもとに」というタイトルで発表していただく。そして,多くの学校でフィールドワークを行っている北海道教育大学の川俣智路先生に「「良い環境」は生徒の成長を促すのか,阻害するのか?」というタイトルで発表していただく。指定討論者としては,近畿大学の大対香奈子先生と福岡教育大学の小泉令三先生にお願いすることとした。今回のテーマである高等学校における生徒の学校適応だけでなく,今後の学校適応に関する研究の方向性や課題も含めてフロアと活発に議論していきたい。
話題提供
全日制高校と定時制高校の中退問題からみた学校適応
渡邉 仁
近年,高校現場では様々な問題があり,中学校にはない高校特有の中途退学(以下中退)問題を抱えている。特に,定時制高校(以下定時制)の中退率は9.5%(文部科学省,2016)と深刻である。一方,全日制高校(以下全日制)の中退率は普通学科が0.8%,専門学科が1.1%(文部科学省,2016)と定時制に比べて低いが,古賀(1999)が学校によって中退率が0%から10%と幅があると指摘しているように,学校によって中退問題は深刻である。
中退理由については,対人関係や学習活動がうまくいかなかったというような学校不適応が最も多い(文部科学省,2015)ことから,中退する理由の多くに学校適応が影響していると考えられる。
しかし,どの学校も学校適応と中退は同じように関連しているのだろうか。杉江・村上・石田・清水(2011)が,中退者の友人関係が非中退者と差異がないことを示しているように,全日制に通っている生徒が,友人との関係がうまくいかないが大学進学のために中退せずに学校へ通い続けている生徒がいることが考えられる。また,杉山(2011)が学力不足に関係なく中退の予防が可能であることを示唆しているように,定時制において学力不足で成績不振となった生徒に対して,手厚い補習等で成績不振が解消して,中退せずに進級する生徒もいることが考えられる。逆に対人関係が良好である一方で中退してしまうこともある。例えば,友人との関係が良好な生徒が,むしろ仲間との存在が問題行動を促進させてしまい,中退に至ってしまう(杉山,2007)ことも考えられる。
このように,学校によって学校へ適応する要因や中退する要因が様々であり,特に全日制と定時制では大きく異なることが考えられる。しかし,高校を対象とした学校適応や中退に関する研究の対象校はほとんどが全日制で,中退問題が深刻である定時制を対象とした研究は少ない。
そこで,実証研究が少ない定時制も含めて,高校における学校適応の現状と実態を明らかにした結果,学校へ適応しているという感じ方が学校によって異なり,特に定時制は全日制と比べて生徒が学校へ適応していないと感じており,学校適応感に有意な課程差があった。また,学校適応要因には全日制と定時制で共通なものと異なるものがあった。よって,本発表では学校適応と中退の要因,学校適応と中退の関係性を学校間で比較検討した研究結果を用いて議論を深めていきたい。
社会適応と接続した学校適応のかたち―通信制高校での事例をもとに
神崎真実
本報告は,通信制高校での実践事例をもとに,社会適応と接続した学校適応のかたちについて考えるものである。報告者は,不登校経験者等を受け入れる学校(以下,受け入れ校)である通信制高校と全日制単位制高校で参与観察を行い,教師たちの視点と支援方法を探ってきた。受け入れ校には,不登校経験者や中途退学者,発達障害者や外国につながりのある者など,様々な背景をもった生徒が在籍している。また,受け入れ校に入学する生徒は,中学校や前籍校で何かしらの不適応・不適合を経験していることが多い。
受け入れ校では,前籍校に適応できなかった/しなかった生徒たちを包摂することが目指される。それゆえ,制度として,学校組織として,あるいはローカルな慣習・規則として,従来とは異なる学び方や学校生活が形づくられる(学級単位で生活しない,授業への出席ではなくレポートを中心として学習を進める,生徒の服装や身だしなみにルールを設けない等)。受け入れ校によってその内容は様々であるが,朝から夕方まで同じ集団の中で過ごさなければならないという前提が取っ払われていることもあり,どのような状態・生徒が学校適応的/学校不適応的なのかについても,一枚岩ではない。
では,受け入れ校の教員が何を問題視しているのかというと,他者と関わることができない,朝から起きられない,スケジュール管理ができないといった,生徒の生活全般に関わる事柄である。例えば,生徒のスクーリング(面接指導)日数が足りていないことを問題視した通信制高校の教員が,当該の生徒に電話をかけて理由を聞くと,たいていの場合は学校外の文脈から理由が説明される。学校で毎日過ごすことが前提になっていない分,生徒は自らの生活の(学校外の)文脈から欠席理由を説明せざるを得ないのかもしれない。いずれにせよ,教員は学校での生徒のつまずきを,生徒の生活の文脈とともに理解していくことになる。こうして,学校での躓き(学校適応の問題)は,社会適応の問題と接続されてゆく。
本報告では,通信制高校での事例をもとに,生徒がいかなる社会適応・学校適応の問題に直面し,教員が生徒の適応課題をどこまで・どのように扱おうとしたのかを検討する。そして,社会適応と接続した学校適応のかたちについて考察を行う。
「良い環境」は生徒の成長を促すのか,阻害するのか?
川俣智路
学校適応のためにできる取り組みとして,最も重要なものの1つが環境の調整である。しかし,実際の取り組みの際には「環境調整をしたものの,その環境を生徒自身が活かそうとしなかったため,効果的ではなかった」,「調整された環境には身を置くことができたが,そこから生徒自身の変化が見られず,本人の学校生活の改善の効果が感じられなかった」といったような場合も少なからず見られる。またこうした例を理由に,「『快適すぎる』環境は生徒の成長を促さない」と環境調整に対して否定的な見解を持つ場合も見られる。
ここで重要な点は,学校が一方的に期待される適応に生徒を落とし込むために環境を調整しても,生徒にとっては必要なサポートにもならないことである。学校には,生徒のニーズを把握し環境調整するだけではなく,生徒自身がなぜその環境調整がありそれが何に役立つのかを理解して,積極的に環境を活用できるような支援が求められているのではないだろうか。
本報告で紹介するA高校は,通信制高校サポート校として「発達障がいを抱えた人」「不登校を経験した人」「学校という環境に違和感を感じ馴染めなかった人」「勉強に苦手意識をもっている人」などの受け入れを積極的に実施している。また,自立訓練事業所とも連携している。その取り組みはきめ細やかで,個別の支援ニーズへの対応,個人にあった進路指導の結果,入学者の95%以上が卒業することができている。その中で,特徴的な取り組みとして,学習の目的(Goal)となぜ学習するのか(Why)を明確に示し,それにそって生徒自身が学習の方法,進度,順序,評価のタイミングなどを自分に合わせた形で選択し進めることができる,学習支援の取り組みが挙げられる。例えば,数学の時間では,現状にあわせた習熟度別の課題が選択でき,課題の問題数なども自分で必要に応じてアレンジでき,課題を解く際には教員の説明を聞く,ヒントを見る,動画による解説を参考にするなどの方法から,その都度自分に合った学び方を選ぶことができる。こうした環境の中で,生徒は「支援を受ける」立場から「環境を利用すれば学習に自分で取り組むことができる」立場へと成長していくのである。
当日はA高校の学校方針,実践の紹介,生徒の事例の紹介を通して,A高校の方針がどのように生徒に影響を与えており,A高校における生徒の適応がどう考えられるかについて検討したい。