日本教育心理学会第61回総会

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自主企画シンポジウム

[JH03] JH03
いじめ × マンガ

マンガを活用した「いじめ」予防教育の可能性

Mon. Sep 16, 2019 1:00 PM - 3:00 PM 3号館 3階 (3303)


企画・司会・話題提供:家島明彦(大阪大学)
話題提供:山内康裕#(マンガナイト)
話題提供:山本智也#(筑波大学附属駒場中・高等学校)
指定討論:戸田有一(大阪教育大学)
指定討論:横田正夫(日本大学)

[JH03] いじめ × マンガ

マンガを活用した「いじめ」予防教育の可能性

家島明彦1, 山内康裕#2, 山本智也#3, 戸田有一4, 横田正夫5 (1.大阪大学, 2.マンガナイト, 3.筑波大学附属駒場中・高等学校, 4.大阪教育大学, 5.日本大学)

Keywords:いじめ、マンガ、予防教育

企画趣旨
 本シンポジウムでは,「マンガ×教育・学習」をテーマに,マンガを活用した教育・学習の可能性について議論する。今回は,(1)「学習マンガ」と「娯楽マンガ」,(2)「意図的な学習」と「結果的な学習」という2つの観点から議論を展開する。 
 これまでにも「マンガ×教育・学習」に関する議論や研究・教育実践は様々な場で行われてきた。例えば,日本マンガ学会のマンガ教育部会では,マンガ「を」教育すること,および,マンガ「で」教育することの両方について議論を重ねている。日本マンガ学会第16回大会(2016年,東京工芸大学)では「学校とマンガ」というシンポジウムが開催され,学習マンガを創作する立場も交えてマンガと教育・学習に関する議論が展開された。日本教育心理学会第55回総会(2013年,法政大学)では「マンガと教育に関する研究の展開―授業においてマンガを活用する実践に注目して―」という自主企画シンポジウムが,日本発達心理学会第 23 回大会(2012年,名古屋国際会議場)では「教育実践にマンガをどう活用するか―授業で使えるマンガ,発達支援に役立つマンガ」という会員企画ラウンドテーブルが,日本心理学会第73回大会(2009年,立命館大学)では「マンガ心理学の展開(1)―認知心理学・教育心理学・感性心理学からのアプローチ」というワークショップが開催されるなど,心理学関連学会においては,教育心理学に関する研究者がマンガと教育・学習に関する先行研究や先進事例の発表を重ねてきた。他にも多数のイベントが様々な領域で開催されており,枚挙に暇がない。
 しかし,これらの議論において,教育・学習を目的とした「学習マンガ」と,娯楽を目的とした「娯楽マンガ」(一般的なストーリーマンガなど)の両方を取り上げ,その教育効果の異同について正面から議論したものは少ない。
 一方,学校現場からは「マンガを活用したいと思っても,どの作品が相応しいのかわからない」といった声が挙がっていた。マンガの教育・学習効果に関する理論的な研究と同時に,マンガ教材の紹介という現場支援も必要である。
 そこで,今回は「マンガの種類」と「学習の種類」に着目し,これまでの議論を発展させると同時に,マンガに詳しくない人でもマンガ活用教育を実践しやすい環境づくりについても検討する。

話題提供1
教育・学習にマンガを活用するための論点整理―マンガの種類と教育・学習効果の種類―
家島明彦
 本発表では,教育・学習の現場でマンガを活用するために知っておくべき情報について整理する。具体的には,(1)マンガと教育・学習に関する基礎知識(諸理論,先行研究,教育実践),(2)マンガの種類(学習マンガと娯楽マンガという観点),(3)教育・学習効果の種類(意図された教育・学習効果と結果としての教育・学習効果という観点),の3点について報告する。本発表を通して,教育・学習の現場におけるマンガ活用の可能性を探り,実現に向けた論点整理をすることが目的である。
 第一に,マンガの教育・学習効果を考える上で知っておくべき諸理論,先行研究,教育実践事例などについて言及する。一般的にメディアの影響について語られるときに想定されているモデルやメカニズム,心理学的に説明する際に使われる諸理論について言及し,マンガの教育・学習効果に関する先行研究とマンガを活用した教育実践事例について概観する。
 第二に,マンガの種類について言及する。ここでは,マンガを大きく2つに分類する。ひとつは,当初から特定の内容についての教育・学習を目的とした「学習マンガ」である。歴史や偉人を扱うもの,世の中の仕組みを理解したり,資格取得のための勉強をしたりするものに加えて,近年では哲学や理論を学ぶためのものがある。もうひとつは,学ぶこと(教育・学習)が目的というよりは楽しむこと(娯楽)が目的である「娯楽マンガ」である。いわゆる一般的なストーリーマンガなどのことである。それぞれの具体例を挙げながら,マンガの教育・学習効果を考える際に両者を区別することの重要性を論じる。
 第三に,教育・学習効果の種類について言及する。ここでは,教育・学習効果を「意図的な教育・学習効果」と「結果的な教育・学習効果」の2つに分類し,マンガの教育・学習効果を考える際に両者を区別することの重要性を論じる。
以上のような基礎知識の確認,および,論点の整理を踏まえた上で,教育・学習の現場におけるマンガ活用の可能性について議論してみたい。

話題提供2
現代における学習マンガの種類とその学習効果―研究者とマンガ家の立場から―
菅谷充/すがやみつる
 本発表では,学習マンガを数多く発表してきた実作者の体験をベースに,表現形式の違いによる学習マンガの分類と,それぞれの効果の違いについて発表する。具体的には500冊強の学習マンガを調査し,表現形式の違いによって5種類に分類した後,代表的な2種類の学習マンガについて,それぞれの読みの速度と学習効果を計測・分析した結果,および,その考察について述べる。
 本発表のベースとなった研究は,発表者が早稲田大学人間科学部eスクールの卒業研究として実施したもので,第一研究として,大手書店や図書館において大人向け学習マンガ576点を調査し,表現形式の違いに応じて「ストーリー型」「教授型」「導入型」「イラスト型」「文章+イラスト型」の5タイプに分類した。
 このうち,全編がコマを割ったマンガになっていたのは「ストーリー型」と「教授型」だけであった。そこで第二研究として,この両タイプについて,読みの速度と学習効果をそれぞれ測定した。読みの速度を計測したのは,同じ学習効果が得られる学習マンガ同士なら,短時間で読める学習マンガの方がコストパフォーマンスが高いのではないかと考えたからである。
 具体的には,まず「米国アップル社の歴史を描いたストーリー型のマンガと,これを教授型に改変したマンガ」「アマチュア無線の国家試験問題を解説する教授型のマンガと,これをストーリー型に改変したマンガ」の双方をWebサイトに掲載し,読みはじめから読了までに要した時間を計測した。次に,マンガの内容に関するテストをオンラインで実施し,記憶の定着具合を計測した。
 さらに,読後感についてのアンケートも実施した結果,ストーリー型の方が速く読めるうえに親しみやすいが,教授型の方が学習効果が高いことが判明した。この結論が,果たして正しいのかどうか,山内氏が紹介する学習効果を持つエンターテインメントマンガとも比較しながら議論してみたい。
参考文献
向後千春・向後智子(1998).マンガによる表現が学習内容の理解と保持に及ぼす効果 日本教育工学雑誌, 22, 2, 87-94.
村田夏子(1993).教授方略としての漫画の効果 読書科学, 37, 4, 127-136.
中村光判・白井裕美子(2001).児童における学習教材としてのマンガのあり方―教授型マンガとQAマンガの比較 日本教育心理学会総会発表論文集, 43, 164.

話題提供3
現代における娯楽マンガの種類とその学習効果―マンガ作品を分類して紹介する立場から―
山内康裕
 本発表では「これも学習マンガだ!」の取り組みを紹介し,エンターテイメントマンガ(娯楽マンガ)を分類する際の考え方について説明する。また,エンターテイメントマンガの学習効果についても言及する。
具体的には,「学びに活きる」という観点からエンターテイメントマンガ200作品を選出して11ジャンルに分類した「これも学習マンガだ!」プロジェクトにおける分類と選出の方法について言及する。また,他のメディアとも比較しながら,エンターテイメントマンガの学習効果についても考察する。
 「これも学習マンガだ!」には,2つの特徴がある。第一に,「これも学習マンガだ!」は11のジャンルに分けられているが,その区分は学校教育課程における科目とは異なったものになっているという点である。学校教育で教える教科以外の,生きていくうえで必要なこと,それはマンガからも学べるという意味も込めて11ジャンルを設けた。
 第二に,「これも学習マンガだ!」は「世界発見プロジェクト」という副題も掲げているという点である。これは,マンガを通じて新しい「世界」を発見してほしいという観点から名付けられたものである。また,選書にあたり何歳向けというものを大きく前面に出してはいない。自分の「世界」が広がろうとしているとき,新たな「社会」へ踏み出そうとしているとき,その時に価値観や選択肢の幅が広がるような作品を選出している。そのようなタイミングは小学生かもしれないし,大学を卒業してからかもしれない。「世界」をマンガで学ぶという視点から進められたプロジェクトなのである。
 最後に,エンターテイメントマンガの学習効果について,検討する。具体的には,マンガと他のメディア(アニメやゲームなど,楽しみながら学べるエデュテインメント性の高い他のメディア:エンターテイメントコンテンツ)を,絵やコマ,当事者性など複数の観点から比較検討し,マンガの有用性について考察する。
 以上のことを通して,当日はエンターテイメントマンガと学習マンガを教育・学習に使用していく際の効果的な使い分けについて議論してみたい。

参考URL
これも学習マンガだ!公式サイト
http://gakushumanga.jp/