日本教育心理学会第61回総会

講演情報

自主企画シンポジウム

[JH07] JH07
高等学校における特別支援教育の現状と課題

合理的配慮の提供や校内支援体制の構築について

2019年9月16日(月) 13:00 〜 15:00 3号館 3階 (3308)

企画・司会・話題提供:大崎博史(国立特別支援教育総合研究所)
話題提供:伊東和#(長野県箕輪進修高等学校)
話題提供:谷美也子#(長野県箕輪進修高等学校)
話題提供:石毛純子#(千葉県立佐原高等学校)
指定討論:三宮真智子(大阪大学)
指定討論:笹森洋樹(国立特別支援教育総合研究所)

[JH07] 高等学校における特別支援教育の現状と課題

合理的配慮の提供や校内支援体制の構築について

大崎博史1, 伊東和#2, 谷美也子#3, 石毛純子#4, 三宮真智子5, 笹森洋樹6 (1.国立特別支援教育総合研究所, 2.長野県箕輪進修高等学校, 3.長野県箕輪進修高等学校, 4.千葉県立佐原高等学校, 5.大阪大学, 6.国立特別支援教育総合研究所)

キーワード:高等学校、特別支援教育、合理的配慮

企画趣旨
大崎博史
 平成19(2007)年4月に幼児児童生徒一人一人の特別な教育的ニーズに対応した指導や支援を行う特別支援教育がスタートしてはや12年が経過した。この12年間に,日本では障害者の権利に関する条約を批准するなど,共生社会の実現に向けて,障害者を巡る環境が大きく変化している。教育分野についてもインクルーシブ教育システムの構築に向けて,国内法が整備されるなどさまざま変化している。
小学校や中学校においては,平成19年4月の特別支援教育がスタートして以来,発達障害(LD,ADHD,高機能自閉症)等の特別な教育的ニーズのある児童生徒への対応がなされてきた。
 しかし,高等学校では,学校教育法施行規則の改正により,平成30年度4月より特別な教育的ニーズのある生徒等に対応するため,通級による指導がスタートしたばかりである。しかも,通級による指導を実施している高等学校は,各都道府県等で1校から9校程度にとどまり,平成30(2018)年3月現在,全国で実施している学校数は123校とまだ少ないのが現状である。
 特別支援教育資料(2017)によると,平成28(2016)年度に中学校で通級による指導等を受けている生徒数は,全国で10,383人いるが,高等学校への進学率が98%を超える現状(「高等学校における通級による指導の制度化及び充実方策について(報告)」(2016)による)を考えると,高等学校の通級による指導だけで,この数の生徒を指導・支援するのは困難であると言える。また,小学校や中学校の通常の学級においても平成24(2012)年の文部科学省調査によれば,発達障害の可能性のある児童生徒が6.5%程度在籍している。中学校から高等学校への進学率が98%以上であることを考えると,高等学校の通常の学級にも発達障害のある高校生が多数在籍していることが推測されることから,高等学校の通級による指導担当者だけがその生徒達に対応するのではなく,高等学校の教員全員が必要最低限の知識を持ち,その生徒達に対応していく必要があると言えよう。
 また,平成28(2016)年4月に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下,障害者差別解消法)」が施行され,障害を理由とする差別の禁止や障害のある人から何らかの配慮を求める意思の表明があった場合には,過度な負担になりすぎない範囲で,社会的障壁を取り除くために必要な合理的配慮の提供を行うことが求められるようになり,高等学校においても合理的配慮の提供の在り方について考えていく必要がある。
 しかし,実際に高等学校が抱える特別な教育的ニーズのある生徒の課題や支援の現状,高等学校でどのような合理的配慮が提供されているのか,また,特別支援教育に関する研修等の情報は,明らかにされていない。
 そこで,本シンポジウムでは,高等学校における特別な教育的ニーズのある生徒についての現状と課題を把握し,高等学校には,どのような特別な教育的ニーズのある生徒が在籍しているのか,その課題に対して,高等学校の教員がどのように対応を行っているのか,配慮の必要な生徒にどのような合理的配慮の提供を行っているのか,また,校内支援体制や特別支援教育に関する校内研修の有無等の現状についても明らかにしたい。

引用・参考文献
文部科学省初等中等教育局特別支援教育課(2017).特別支援教育資料(平成28年度).
文部科学省初等中等教育局特別支援教育課(2012).通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査.
話題提供

高等学校における特別支援教育の現状と課題―高等学校におけるインタビュー調査の結果から―
大崎博史
 本調査は,平成30(2018)年度科研費基盤研究C「合理的配慮の提供と特別支援教育を推進するための高等学校校内研修プログラムの開発(研究代表者 大崎博史)の一環として行った調査である。 
 高等学校における合理的配慮の提供や特別支援教育に関連する校内研修プログラムを開発するに当たり,高等学校における合理的配慮の提供や特別支援教育の現状と課題について把握することを目的として行った。
①調査名
「高等学校における合理的配慮の提供や特別支援教育の現状と課題に関するインタビュー調査」 
②調査対象
都道府県・指定都市教育委員会が推薦した高等学校の計23校で,特別支援教育コーディネーターや通級による指導担当者等,校内の中で特別支援教育について詳しい先生を対象とした。
③調査方法
半構造化インタビュー調査を実施した。
④調査内容(主な項目)
・特別な配慮を必要とする生徒の現状について
・校内支援体制
・特別支援教育に関する研修の実施
 話題提供では,インタビュー調査の結果から高等学校における特別支援教育の現状と課題を明らかにし,合理的配慮の提供や特別支援教育に関連する校内研修プログラムを開発するための示唆を得たいと考えている。

長野県高等学校の特別支援教育―「通級による指導」を通して見えてきた特別支援教育の現状と課題―
伊東 和・谷 美也子
 長野県の小中学校の特別支援学級数とその在籍者数は全国トップである。そのため,自閉症・情緒障害特別支援学級の卒業を主とした特別支援学級在籍者の7割以上が県内すべての高等学校へ進学している。一方,高校現場では各校の特徴や教職員の特別支援教育に対する知識・理解が様々で必要性を感じていない学校もあり,多様な生徒に対応しきれていない現状である。
 箕輪進修高校は,11年前に多部制単位制の高校へと変換した。当初は不登校生徒を受け入れる形を目指していたが,発達障がいを抱えた多くの生徒も,少人数の学習環境を求めて入学するようになった。そのため,担任や特別支援教育コーディネーターだけではなく,学校全体で生徒達を支えていくシステム構築が必要不可欠な課題となった。平成26年度から文部科学省「個々の能力・才能を伸ばす特別支援教育充実事業」の指定研究校となり,複数の教職員が視察・研修を行ってきた。また,進路実現の他,全教員が授業における生徒の困難さを「みとる」ための「授業づくり検討会」も実施してきた。このような背景により,平成30年度から「通級による指導」がスタートした。
 県内中学校では「通級指導教室」数が全国と比べ圧倒的に少ない上,まだ導入が始まったばかりであり,継続が必要な生徒について高校へのつなぎは実現していない。
 本校では通級開始を2年次からとし,1年目は対象生徒を絞り込み,校内で可能な自立活動を実現するためのアセスメント期間としている。昨年度は導入1年目であり,思考錯誤の毎日であったが,特別支援学校からのサポートや巡回指導もあり,さまざまなアプローチをすることができた。
 今後は「通級による指導」実施校は増えることが予想される。教員配置,不十分な基礎的環境整備などの課題の他,「高校における自立活動とはどうあるべきか」について焦点を当てたい。高校の立場からは伊東が,特別支援学校からの高校巡回指導員(当時)の立場からは谷が話題提供を行う。

千葉県立佐原高等学校における特別支援教育の現状と課題
石毛純子
 本校は,千葉県北総地域の伝統校であり,県教育委員会から進学指導重点校の指定を受け,大学進学の実績を挙げつつ「文武両道」を掲げ部活動や学校行事の充実を図っている中で生徒は,積極的に学校生活全般に取り組んでいる。一方で,自己調整や対人関係において困難を抱える生徒もおり,それが生徒指導上の問題となることもある。平成26年~28年の3年間,文部科学省の指定を受けて「高等学校における個々の能力・才能を伸ばす特別支援教育モデル事業」に取り組んだ。並行して平成28年度から「合理的配慮」の提供を,平成29年度の準備期間を踏まえて,平成30年度から千葉県の指定により「通級による指導」を行っている。
その中で,本校で実践している「佐原高校における特別支援教育」について,
○特別な教育的ニーズのある生徒の把握
(中学校との連携の在り方,本人,保護者への説明,実態把握等も含む)
○校内体制の構築
(教育相談・特別支援教育委員会の機能)
○支援の実際
(合理的配慮の提供,通級による指導,教育相談)
○教員への周知,啓発,連携 などについて,特別支援教育コーディネーターの立場から現状と課題を発表する。

(OSAKI Hirofumi, ITO Nagomi, TANI Miyako, ISHIGE Junko, SANNOMIYA Machiko, SASAMORI Hiroki)