[PA01] 4~6歳児におけるナラティブの発達と言語知識との関係
ナラティブ発達評価指標作成に向けての基礎研究
Keywords:ナラティブ、発達評価指標、幼児期
問 題
本報告はナラティブ発達評価指標作成に向けての一連の基礎研究の一部である。報告者らは幼児期後半から学齢期にかけて発達する談話能力の発達プロセス,評価の方法について検討するために,ナラティブに関連する課題を作成し,4歳から6歳児を対象に調査を実施し,それぞれ課題ごとに分析を進めてきた(瀬戸・秦野2014,2015,2016,2017,2018,2019;秦野・瀬戸2014,2015,2016)。本報告では,作成した課題の中から4つのナラティブに関する課題と文の復唱課題を取りあげ,1)発達の様相と発達指標間の関係を検討する,2)4課題の発達指標と語彙などの言語能力と関係を明らかにする,ことを目的とする。
方 法
調査参加児:保護者の承諾が得られ調査を実施した幼稚園児153名を対象とした(4歳前半22名,4歳後半35名,5歳前半33名,5歳後半29名,6歳前半18名,6歳後半16名)。調査期間:2013年,2015年,2016年。手続き:調査は2日に分けて実施し,2015,2016年調査(70名)では1日目に言語検査(PVT-R絵画語い発達検査,言語調整機能テスト(天野2006),KABC-Ⅱ語彙尺度課題)を,2日目にナラティブに関連する7種の課題を実施した。分析対象の4つの課題内容:①「なにしてあそんでいる」課題:質問応答状況で幼稚園や家での遊びや楽しかったことについての経験を語ってもらう。②「どれがいい」課題:出版社の許可を得て,絵本 新版『ねえ どれが いい?』(ジョン・バーニンガム作 まつかわ まゆみ訳 評論社2010)の3場面を課題とし,絵の中から一つを選択した理由を説明してもらう。③「どんなじゅんばん」課題は,3つの場面について,場面の最初と最後を示した絵カードの中間部に入るでき事について語ってもらう。④「どんなおはなし」課題は,出版社と著者の許可を得て作成した字のない紙芝居「クレヨンのはしご」(板橋敦子著 ひさかたチャイルド発行)とその話をCDで聞かせた後に,視覚的手がかりが無い状態で紙芝居の内容を語ってもらう。また,「まねしてみよう」課題は文の復唱力を把握するもので,知能検査等を参考に語の一部を改変した4~8文節の12問を課題とし,復唱してもらう。分析資料:すべての発話のトランスクリプトと言語検査結果を分析の対象とした。
結果と考察
1)ナラティブの発達の様相と発達指標間の関係
「なにしてあそんでいる」課題では,語られた日常経験の伝達における1ユニット内での自立語数,および情報伝達の要素数(いつ,どこで,など),「どれがいい」課題では,当該肢の選択理由をどの程度明確に説明しているかを基準にした得点,「どんなじゅんばん」課題では,日常的に順序性をもって繰り返される事象のうち,子どもが語った事象数(SCR得点),「どんなおはなし」課題では,物語の筋立てに必要な基本述語文のうち,子どもが語った述語文数(SN得点)の発達的変化を検討した。また,文復唱課題については,文節数と文全体を基準とした文復唱得点を検討した。
5歳くらいまでは,課題によって時期にずれを生じながら発達する傾向がみられたが,5歳後半から6歳代にかけては,ほとんどの課題の発達指標の得点は急上昇を示し,ナラティブ能力の発達が収束し高まっていく様子が窺われた。
また,ナラティブ課題間の関係について,年齢を統制した偏相関係数をみると,暦年齢の影響を取り除いても,経験の説明得点と選択理由の説明得点には弱(自立語数r=.297)から中(情報伝達の要素数r=.432)程度の相関,SCR得点とSN得点の間には弱い相関(r=.250)が示された。
2)ナラティブ課題の指標と言語知識との関係
言語検査を実施した70名を対象に,ナラティブの発達と,言語知識および文の復唱課題との関係について,年齢を統制した偏相関をみた。その結果,暦年齢の影響を取り除いても,PVT-Rの修正得点はSCR得点との間に弱い相関(r=.298),KABC-Ⅱの表現語彙粗点は,経験の説明(自立語数r=.258,情報伝達の要素数r=.320)得点と,選択理由の説明得点との間に中程度の相関(r=.419),KABC-Ⅱのなぞなぞ粗点は,選択理由の説明得点との間に弱い相関(r=.327),文復唱(文全体)得点は,経験の説明得点(r=.293),SCR得点(r=.351),SN得点(r=.320)と弱い相関があった。
以上のように,ナラティブ課題から抽出した発達指標は,既存の各種の言語発達検査や文の復唱課題が測っている語彙や統語能力,言語的記憶などと弱い相関があることが窺われた。今後さらに対象児を増やして検討をしていきたい。
(本研究は平成27~30年度基盤研究C(課題番号15K04572)の助成を受けている)
本報告はナラティブ発達評価指標作成に向けての一連の基礎研究の一部である。報告者らは幼児期後半から学齢期にかけて発達する談話能力の発達プロセス,評価の方法について検討するために,ナラティブに関連する課題を作成し,4歳から6歳児を対象に調査を実施し,それぞれ課題ごとに分析を進めてきた(瀬戸・秦野2014,2015,2016,2017,2018,2019;秦野・瀬戸2014,2015,2016)。本報告では,作成した課題の中から4つのナラティブに関する課題と文の復唱課題を取りあげ,1)発達の様相と発達指標間の関係を検討する,2)4課題の発達指標と語彙などの言語能力と関係を明らかにする,ことを目的とする。
方 法
調査参加児:保護者の承諾が得られ調査を実施した幼稚園児153名を対象とした(4歳前半22名,4歳後半35名,5歳前半33名,5歳後半29名,6歳前半18名,6歳後半16名)。調査期間:2013年,2015年,2016年。手続き:調査は2日に分けて実施し,2015,2016年調査(70名)では1日目に言語検査(PVT-R絵画語い発達検査,言語調整機能テスト(天野2006),KABC-Ⅱ語彙尺度課題)を,2日目にナラティブに関連する7種の課題を実施した。分析対象の4つの課題内容:①「なにしてあそんでいる」課題:質問応答状況で幼稚園や家での遊びや楽しかったことについての経験を語ってもらう。②「どれがいい」課題:出版社の許可を得て,絵本 新版『ねえ どれが いい?』(ジョン・バーニンガム作 まつかわ まゆみ訳 評論社2010)の3場面を課題とし,絵の中から一つを選択した理由を説明してもらう。③「どんなじゅんばん」課題は,3つの場面について,場面の最初と最後を示した絵カードの中間部に入るでき事について語ってもらう。④「どんなおはなし」課題は,出版社と著者の許可を得て作成した字のない紙芝居「クレヨンのはしご」(板橋敦子著 ひさかたチャイルド発行)とその話をCDで聞かせた後に,視覚的手がかりが無い状態で紙芝居の内容を語ってもらう。また,「まねしてみよう」課題は文の復唱力を把握するもので,知能検査等を参考に語の一部を改変した4~8文節の12問を課題とし,復唱してもらう。分析資料:すべての発話のトランスクリプトと言語検査結果を分析の対象とした。
結果と考察
1)ナラティブの発達の様相と発達指標間の関係
「なにしてあそんでいる」課題では,語られた日常経験の伝達における1ユニット内での自立語数,および情報伝達の要素数(いつ,どこで,など),「どれがいい」課題では,当該肢の選択理由をどの程度明確に説明しているかを基準にした得点,「どんなじゅんばん」課題では,日常的に順序性をもって繰り返される事象のうち,子どもが語った事象数(SCR得点),「どんなおはなし」課題では,物語の筋立てに必要な基本述語文のうち,子どもが語った述語文数(SN得点)の発達的変化を検討した。また,文復唱課題については,文節数と文全体を基準とした文復唱得点を検討した。
5歳くらいまでは,課題によって時期にずれを生じながら発達する傾向がみられたが,5歳後半から6歳代にかけては,ほとんどの課題の発達指標の得点は急上昇を示し,ナラティブ能力の発達が収束し高まっていく様子が窺われた。
また,ナラティブ課題間の関係について,年齢を統制した偏相関係数をみると,暦年齢の影響を取り除いても,経験の説明得点と選択理由の説明得点には弱(自立語数r=.297)から中(情報伝達の要素数r=.432)程度の相関,SCR得点とSN得点の間には弱い相関(r=.250)が示された。
2)ナラティブ課題の指標と言語知識との関係
言語検査を実施した70名を対象に,ナラティブの発達と,言語知識および文の復唱課題との関係について,年齢を統制した偏相関をみた。その結果,暦年齢の影響を取り除いても,PVT-Rの修正得点はSCR得点との間に弱い相関(r=.298),KABC-Ⅱの表現語彙粗点は,経験の説明(自立語数r=.258,情報伝達の要素数r=.320)得点と,選択理由の説明得点との間に中程度の相関(r=.419),KABC-Ⅱのなぞなぞ粗点は,選択理由の説明得点との間に弱い相関(r=.327),文復唱(文全体)得点は,経験の説明得点(r=.293),SCR得点(r=.351),SN得点(r=.320)と弱い相関があった。
以上のように,ナラティブ課題から抽出した発達指標は,既存の各種の言語発達検査や文の復唱課題が測っている語彙や統語能力,言語的記憶などと弱い相関があることが窺われた。今後さらに対象児を増やして検討をしていきたい。
(本研究は平成27~30年度基盤研究C(課題番号15K04572)の助成を受けている)