[PA05] 幼児の他者特性理解
対人葛藤状況下における他児の行為と表情の一致・不一致に着目して
Keywords:特性理解、表情情報、社会的問題解決
問題と目的
ネガティブな行為を受けているにもかかわらず,相手の表情がポジティブであった場合,相手の行為・特性について正確な解釈を行うことが難しい場合がある。本研究では,特に,対人葛藤状況下における行為者の表情が,行為者の行為・特性に対する被行為者の解釈にどのような影響を与えるかといった点について幼児を対象に明らかにすることで,幼児の他者理解に関する基礎的資料を得ることを目的とする。
方 法
1)調査対象児 5歳児36名(男児24名,女児12名),6歳児28名(男児17名,女児11名)。
2)要因計画 年齢(2;5・6歳児)×表情条件(2;一致・不一致)の2要因計画であった。
3)材料 指人形男女用各4体,「笑い」,「泣き」,「怒り」,「驚き」の各感情を描いた表情図版と大中小の円を描いた図版各1枚であった。
4)手続き 1人につき2課題(一致条件・不一致条件)を実施した。課題では,おもちゃを取りあげる幼児(行為児)と取りあげられた幼児(被行為児)のやり取りを場面としてまとめた。一致条件では,行為児の行動と表情(ネガティブ表情)が一致しており,反対に不一致条件では両者が一致していない(ポジティブ表情)。課題文提示後,①被行為児による行為児の特性理解(やさしい,意地悪)について3件法で尋ね,②行為児の感情について表情図版を用いて4択で回答を求めた。最後に,③関係維持(被行為児は行為児と遊びたいか)について3件法で回答を求めた。
結果と考察
1.表情が幼児の特性理解に及ぼす影響
被行為児の特性理解について,行為児は「やさしい」「意地悪」と回答した程度に応じて0~3点を与え,それぞれポジティブ特性得点,ネガティブ特性得点とした。各特性得点に表情が与える影響について,年齢(2:5歳,6歳児)×条件(2:一致,不一致)の2要因分散分析を実施した(Table 1)。分析の結果,ポジティブ特性得点(F(1, 62) = 23.47, p < .01),ネガティブ特性得点(F(1, 62) = 13.22, p < .01)ともに,表情の主効果が有意であり,ポジティブ特性得点では一致条件より不一致条件の得点の方が,反対にネガティブ特性得点では不一致条件よりも一致条件の得点が有意に高かった。
2.表情が幼児の感情理解に及ぼす影響
被行為児の感情理解について,行為児の感情の推測を,「笑い」「泣き」「怒り」「驚き」のいずれかに分類した。年齢と条件別にχ2検定を実施した(Table 2)。一致条件では,5歳児(χ2(3) = 11.56, p < .01),6歳児(χ2(3) = 11.71, p < .01)ともに人数の偏りに有意差が見られ,両年齢児とも「驚き」よりも「笑い」「怒り」の回答が有意に多かった。また,5歳児では「泣き」よりも「怒り」,6歳児では「泣き」よりも「笑い」の回答が有意に多かった。一方,不一致条件では,5歳児(χ2(3) = 19.11, p < .01),6歳児(χ2(3) = 28.29, p < .01)ともに「泣き」「怒り」「驚き」よりも「笑い」の回答が有意に多かった。
3.表情が幼児の関係維持欲求に及ぼす影響
被行為児の関係維持欲求について,被行為児が行為児とどの程度遊びたいかといった回答について,0~3点を与え関係維持得点を算出した。行為児の表情と関係維持得点との関連性について,年齢(2:5歳,6歳児)×条件(2:一致,不一致)の2要因分散分析を実施したが,年齢,条件の主効果および交互作用はいずれも有意ではなかった。
以上,幼児は同じようにおもちゃをとりあげられたとしても,行為児の表情が行為と一致してネガティブであれば,「意地悪な子」と判断するが,逆に,ポジティブであれば「やさしい子」と判断する傾向が示された。
幼児においては,相手の行為がネガティブなものであっても,表情がポジティブであれば,行為そのものの意味や行為者の特性に気づきにくいといったことが示され,幼児理解の一つの特徴が明らかとなった。今後は,保育場面での具体的な事例と照らし合わせながら,介入のありかたについて検討していきたい。
ネガティブな行為を受けているにもかかわらず,相手の表情がポジティブであった場合,相手の行為・特性について正確な解釈を行うことが難しい場合がある。本研究では,特に,対人葛藤状況下における行為者の表情が,行為者の行為・特性に対する被行為者の解釈にどのような影響を与えるかといった点について幼児を対象に明らかにすることで,幼児の他者理解に関する基礎的資料を得ることを目的とする。
方 法
1)調査対象児 5歳児36名(男児24名,女児12名),6歳児28名(男児17名,女児11名)。
2)要因計画 年齢(2;5・6歳児)×表情条件(2;一致・不一致)の2要因計画であった。
3)材料 指人形男女用各4体,「笑い」,「泣き」,「怒り」,「驚き」の各感情を描いた表情図版と大中小の円を描いた図版各1枚であった。
4)手続き 1人につき2課題(一致条件・不一致条件)を実施した。課題では,おもちゃを取りあげる幼児(行為児)と取りあげられた幼児(被行為児)のやり取りを場面としてまとめた。一致条件では,行為児の行動と表情(ネガティブ表情)が一致しており,反対に不一致条件では両者が一致していない(ポジティブ表情)。課題文提示後,①被行為児による行為児の特性理解(やさしい,意地悪)について3件法で尋ね,②行為児の感情について表情図版を用いて4択で回答を求めた。最後に,③関係維持(被行為児は行為児と遊びたいか)について3件法で回答を求めた。
結果と考察
1.表情が幼児の特性理解に及ぼす影響
被行為児の特性理解について,行為児は「やさしい」「意地悪」と回答した程度に応じて0~3点を与え,それぞれポジティブ特性得点,ネガティブ特性得点とした。各特性得点に表情が与える影響について,年齢(2:5歳,6歳児)×条件(2:一致,不一致)の2要因分散分析を実施した(Table 1)。分析の結果,ポジティブ特性得点(F(1, 62) = 23.47, p < .01),ネガティブ特性得点(F(1, 62) = 13.22, p < .01)ともに,表情の主効果が有意であり,ポジティブ特性得点では一致条件より不一致条件の得点の方が,反対にネガティブ特性得点では不一致条件よりも一致条件の得点が有意に高かった。
2.表情が幼児の感情理解に及ぼす影響
被行為児の感情理解について,行為児の感情の推測を,「笑い」「泣き」「怒り」「驚き」のいずれかに分類した。年齢と条件別にχ2検定を実施した(Table 2)。一致条件では,5歳児(χ2(3) = 11.56, p < .01),6歳児(χ2(3) = 11.71, p < .01)ともに人数の偏りに有意差が見られ,両年齢児とも「驚き」よりも「笑い」「怒り」の回答が有意に多かった。また,5歳児では「泣き」よりも「怒り」,6歳児では「泣き」よりも「笑い」の回答が有意に多かった。一方,不一致条件では,5歳児(χ2(3) = 19.11, p < .01),6歳児(χ2(3) = 28.29, p < .01)ともに「泣き」「怒り」「驚き」よりも「笑い」の回答が有意に多かった。
3.表情が幼児の関係維持欲求に及ぼす影響
被行為児の関係維持欲求について,被行為児が行為児とどの程度遊びたいかといった回答について,0~3点を与え関係維持得点を算出した。行為児の表情と関係維持得点との関連性について,年齢(2:5歳,6歳児)×条件(2:一致,不一致)の2要因分散分析を実施したが,年齢,条件の主効果および交互作用はいずれも有意ではなかった。
以上,幼児は同じようにおもちゃをとりあげられたとしても,行為児の表情が行為と一致してネガティブであれば,「意地悪な子」と判断するが,逆に,ポジティブであれば「やさしい子」と判断する傾向が示された。
幼児においては,相手の行為がネガティブなものであっても,表情がポジティブであれば,行為そのものの意味や行為者の特性に気づきにくいといったことが示され,幼児理解の一つの特徴が明らかとなった。今後は,保育場面での具体的な事例と照らし合わせながら,介入のありかたについて検討していきたい。