[PA08] ある2歳女児にみられる社会的行動の発現条件
Keywords:2歳児、社会的行動、表象
本研究は,2歳児とその相手をする大人との間で発生する社会的行動の発現条件を析出することを目的とする。子供は好奇心や意図に基づき,結果の成り行きを表象して行動する。それが展開するためには,身体運動能力がそれにみあうものであることと,他者は援助してくれるはずだという対人表象が重要である。本研究では,対象児をよく見知っている大人が,基本的に子供に合わせて場を構成して関わる典型的な場面から検討する。
方 法
対象児:A(201X年12月X日生,女,満期出産)
観察場面:対象児の自宅における日常生活と遊び
対象児の相手:対象児の祖父(G)祖母(B)(両親の就労中,週3回毎回6時間程度養育)
観察:養育中の祖母による参与観察
なお本研究を行うに当たり,対象児の両親および祖父母からデータの使用について了承を得ている。
エピソード(E)と考察(C)
紙幅の都合上,原則として主語は対象児とする。
(E1)2(1)28 ベッドに上がり,壁の電灯スイッチを押す(やってはいけないことになっている)。電気がついたのを見てBの顔を見る→B「消して」→A消す→Bの顔を見て大きな口を開けて満面の笑みをたたえてからスイッチを押す→B「あーあ,消して」→Aすぐに消す。これを10回程度繰り返す。次に同じことをしたときBが無表情だと,反応するように声を出して要求した。
(C1)ここを押せば電気がつくはずであるという表象と相手は自分に応じてくれるはずだという人の表象に基づいて,相手を巻き込んだ結果を予測し同位水準のいたずらを繰り返している。
(E2)2(3)15 ブロックのいすを置いて,メロンパンナの人形に「シュワッテ」(座って)といってすわらせる。なにやら喃語で話している。
(C2)これまでは人に向けた指示を人形に拡大してやりとりを形成している。自分の表象に基づきものを対応づけて扱う例である。
(E3)2(3)11 アンパンマンの人形を手に持って首を回したり手を動かしながら甲高い声でしきりに何かしゃべっている。GがAの動きを見て「飛んでった」というと,Aはアンパンマンを飛ぶように動かして「トンデッタ」→別のアンパンマンを持ってきて「マテマテ」としゃべっている。
(C3)他者と表象を共有できたので,遊びが拡大しやや構成的な遊びへと質的に変化している。
(E4)2(2)15 台の上にGが人形を座らせる→Aは寝かせながら「ネンネ」→起こしてから「オキタ」という。寝かせて布をかけようとするがうまくいかないとイライラして大声で騒いだ。Gが布をかけてやるとうれしそうにさわった。自分で人形を寝かせて,おなかのあたりを両手で交互に軽くたたき,甲高い声で話し続けた。
(C4)人形の取り扱いについての意図が明確なので,成り行かない場面に怒りを爆発させている。しかし場面の認識を共有している他者の介入により情動水準が平静化し,やや構成的な遊びへと自発的に展開させている。
(E5)2(3)15 レゴのブランコを作っているとき,Gが支柱を1本手伝うとA「オー,デキタ」といって持ち直しながら見る。次のパーツをGが渡すとM「ココ」といって別のところにはめようとする。G「それは後だよ」と言うが同じところにはめようとしている。Gが入れるところを指すと「エー」と言うがそこには入れない。飽きずに繰り返していたが最後まで支柱はできなかった。
(C5)ブランコと支柱を関係づける表象が不明確なので,他者が補助しても対応付けできない。
(E6)2(3)29 最近は着替えをいやがり逃げ出すことが多いが,おやつを食べるときB「おしりきれいにしておやつ食べようね」と声をかけると,おむつが置いてある場所に取りに行こうとする。Gが別の場所をさして「ここにあるよ」というと,A「ココ」といってそのおむつを拾って持ってきて寝転がり着替えさせてもらう。
(C6)場の目的が意識できれば納得できるところである。着替えの表象が明確になったので,おむつが置いてある場所の変更にも柔軟に応じられた。他者の意図を共有できたからである。
総 合 考 察
今回取り上げた関わりの方向は,対象児から見て,自→他,他→自,他=自の3つに分類される。自己の意図通りに成り行けば有能感を感じ(E1,2)成り行かなければ怒りを感じる(E4)。他者の介入により遊びの質が変わるのは,表象を共有できるかどうかが条件となる。つまり,共有できれば調整可能(E4)だが,共有できなければ展開しない(E5)。さらに自己のシェムに組込めれば上位の水準への展開も起こりうる(E4,6)。
方 法
対象児:A(201X年12月X日生,女,満期出産)
観察場面:対象児の自宅における日常生活と遊び
対象児の相手:対象児の祖父(G)祖母(B)(両親の就労中,週3回毎回6時間程度養育)
観察:養育中の祖母による参与観察
なお本研究を行うに当たり,対象児の両親および祖父母からデータの使用について了承を得ている。
エピソード(E)と考察(C)
紙幅の都合上,原則として主語は対象児とする。
(E1)2(1)28 ベッドに上がり,壁の電灯スイッチを押す(やってはいけないことになっている)。電気がついたのを見てBの顔を見る→B「消して」→A消す→Bの顔を見て大きな口を開けて満面の笑みをたたえてからスイッチを押す→B「あーあ,消して」→Aすぐに消す。これを10回程度繰り返す。次に同じことをしたときBが無表情だと,反応するように声を出して要求した。
(C1)ここを押せば電気がつくはずであるという表象と相手は自分に応じてくれるはずだという人の表象に基づいて,相手を巻き込んだ結果を予測し同位水準のいたずらを繰り返している。
(E2)2(3)15 ブロックのいすを置いて,メロンパンナの人形に「シュワッテ」(座って)といってすわらせる。なにやら喃語で話している。
(C2)これまでは人に向けた指示を人形に拡大してやりとりを形成している。自分の表象に基づきものを対応づけて扱う例である。
(E3)2(3)11 アンパンマンの人形を手に持って首を回したり手を動かしながら甲高い声でしきりに何かしゃべっている。GがAの動きを見て「飛んでった」というと,Aはアンパンマンを飛ぶように動かして「トンデッタ」→別のアンパンマンを持ってきて「マテマテ」としゃべっている。
(C3)他者と表象を共有できたので,遊びが拡大しやや構成的な遊びへと質的に変化している。
(E4)2(2)15 台の上にGが人形を座らせる→Aは寝かせながら「ネンネ」→起こしてから「オキタ」という。寝かせて布をかけようとするがうまくいかないとイライラして大声で騒いだ。Gが布をかけてやるとうれしそうにさわった。自分で人形を寝かせて,おなかのあたりを両手で交互に軽くたたき,甲高い声で話し続けた。
(C4)人形の取り扱いについての意図が明確なので,成り行かない場面に怒りを爆発させている。しかし場面の認識を共有している他者の介入により情動水準が平静化し,やや構成的な遊びへと自発的に展開させている。
(E5)2(3)15 レゴのブランコを作っているとき,Gが支柱を1本手伝うとA「オー,デキタ」といって持ち直しながら見る。次のパーツをGが渡すとM「ココ」といって別のところにはめようとする。G「それは後だよ」と言うが同じところにはめようとしている。Gが入れるところを指すと「エー」と言うがそこには入れない。飽きずに繰り返していたが最後まで支柱はできなかった。
(C5)ブランコと支柱を関係づける表象が不明確なので,他者が補助しても対応付けできない。
(E6)2(3)29 最近は着替えをいやがり逃げ出すことが多いが,おやつを食べるときB「おしりきれいにしておやつ食べようね」と声をかけると,おむつが置いてある場所に取りに行こうとする。Gが別の場所をさして「ここにあるよ」というと,A「ココ」といってそのおむつを拾って持ってきて寝転がり着替えさせてもらう。
(C6)場の目的が意識できれば納得できるところである。着替えの表象が明確になったので,おむつが置いてある場所の変更にも柔軟に応じられた。他者の意図を共有できたからである。
総 合 考 察
今回取り上げた関わりの方向は,対象児から見て,自→他,他→自,他=自の3つに分類される。自己の意図通りに成り行けば有能感を感じ(E1,2)成り行かなければ怒りを感じる(E4)。他者の介入により遊びの質が変わるのは,表象を共有できるかどうかが条件となる。つまり,共有できれば調整可能(E4)だが,共有できなければ展開しない(E5)。さらに自己のシェムに組込めれば上位の水準への展開も起こりうる(E4,6)。