日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PA] ポスター発表 PA(01-63)

Sat. Sep 14, 2019 10:00 AM - 12:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PA13] 災害時の向社会的行動は情報確認を重視する傾向により妨害される

瀧澤純 (ノースアジア大学)

Keywords:避難行動、行動指針、防災教育

 災害から即座に避難すべき場面でも,情報の確認を優先したために,避難が遅れることがある(片田ら,2005)。また,災害の規模が不明な状況では,近隣の他者に避難を呼びかけることに抵抗が生じる。このような例は,「素早く避難すべき」「確実な情報を入手すべき」などの行動指針の対立としてとらえることができる。しかし,従来の研究では,このような対立を想定していない。そこで本研究は,行動指針が避難行動に与える影響を明らかにすることを目的として行う。そして,適切な避難行動を行うための防災教育の方法を議論する。
方  法
参加者 大学生475名(男性307名,女性163名,性別不明5名)を分析対象とした。
課題1:避難行動選択課題 瀧澤(2017)と同様に,時間に余裕がない状態で,災害場面での行動を選択する課題を実施した。本試行の問1から問8と練習試行は自分の身を守ることを目的として,本試行の問9から問13は他者の身を守ることを目的として,行動を選択するようにした。例えば問9では,「海岸や河口付近から避難したいが,津波の正確な情報を確認できない。」という仮想の場面に対して,「A.周囲の人に津波が到達する可能性を伝えながら避難する」「B.正確な情報を確認できるまでは、個人で避難する」からどちらかの行動を選択するようにした。
課題2:災害での行動指針の重要度(以下,指針重要度) 大きな地震が起きた場合に,「自分の安全を確保すること」「できるだけ素早く避難すること」「二次災害や被害拡大の防止」「他者を助けること」「確実な情報を入手すること」の指針重要度を,0点から100点で評価するように求めた。
手続き すべての課題は,プロジェクターを使用して画面に提示した。課題1は,調査者が仮想の場面と選択肢を口頭で読み終えてから,3秒以内に選択を終えるように指示した。回答用紙を回収した後,課題1の各問について解説を行った。
結  果
 避難行動選択課題における各問の正誤(誤答が0,正答が1)を目的変数,五つの指針重要度を説明変数とする,強制投入法によるロジスティック回帰分析を行った。同様の分析を,目的変数を変えて繰り返した。その結果,他者の身を守ることを目的として行動を選択する場合に,指針重要度による影響がみられた(Figure 1)。
考  察
 「確実情報」の高さによって問9と問11の誤答が増加したことから,防災教育において情報の入手を重視させる指導は,他者を守る行動の一部を減少させる可能性が示された。防災教育だけでなく,政府機関や地方自治体の広報においても,情報提供のあり方を見直すべきであろう。
 より適切な防災教育について考察する。まず,行動指針のような大きな目標に頼らず,災害場面と避難行動の組み合わせを覚える方法がありうる。しかし,災害場面の多さを考えれば,非現実的である。瀧澤(2017)のように,行動指針を場面による混乱が少ない形にした上で,災害場面と避難行動の組み合わせを覚える方法が有効であろう。
引用文献
片田・児玉・桑沢・越村 (2005). 土木学会論文集,No.789/Ⅱ-71,pp.93-104.
瀧澤 (2017). 雪国民俗(ノースアジア大学雪国民俗館紀要),41,pp.26-33.