日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PA] ポスター発表 PA(01-63)

Sat. Sep 14, 2019 10:00 AM - 12:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PA20] 欲求階層構造に対応する処理の組合せと分散効果

意図記憶と偶発記憶の比較

豊田弘司 (奈良教育大学)

Keywords:欲求階層構造、分散効果、偶発・意図記憶

問題と目的
Nairne et al. (2007)以降の一連の研究ではsurvival処理(生存欲求処理)が他の処理よりも記憶を促進することを示した。豊田・井上(2018)では,生存欲求処理と快-不快処理における提示形式の効果を比較した。その結果,生存欲求処理では集中提示=分散提示,快-不快処理では分散提示>集中提示という関係を示した。この結果は,生存欲求処理が強い符号化であり,集中提示でも有効に機能すると解釈された。
本報では,生存欲求処理と自己実現欲求処理(生存・自己),及び生存欲求処理と親和欲求処理(生存・親和)を組みあわせて,記憶に及ぼす効果を検討する。Maslow(1962)による欲求階層構造からすれば,生存欲求処理は最下層に位置し,自己実現欲求処理は最上層に位置しているので,処理内容は異なり,符号化の変動性は大きい。一方,親和欲求処理は最下層に近く生存欲求処理との符号化変動性は小さい。もし,符号化変動性が影響するならば,生存・自己が生存・親和よりも再生率及び分散効果が大きくなるであろう。一方,Toyota(2016)のモデルでは, 下層ほど優勢な符号化であり,その有効性が高いので,生存・親和が生存・自己よりも再生率及び分散効果が大きくなるであろう。本報の目的は,これらの対立仮説を意図記憶と偶発記憶手続きで検討することである。
方  法
実験計画  2(記憶型;意図,偶発)×2 (提示形式;集中提示,分散提示) × 2(処理の組合せ型;生存・自己,生存・親和)の要因計画。後2要因は参加者内要因。参加者 女子大学生55名(意図記憶群30名,偶発記憶群25名)。平均年齢20.21歳。材料 a)記銘リスト 北尾ら (1977) から選択された漢字1文字単語16語。提示形式×処理の組合せ型による4つの条件に4語ずつを割り当てる。各字は2回提示されるので,バッファー語を追加し,34語からなるリストとなる。リストはPowerPointスライドにされた(Figure 1)。各スライドには方向づけ質問 (生存欲求処理では「生きるために必要ですか?」,自己実現欲求処理では「自分を知るために必要ですか?」,親和欲求処理では「人と親しくなるために必要ですか?」)及び6段階評定尺度 (「必要でない~必要である」)が表示。b)自由再生テスト用紙 A4用紙。
手続 集団実験。1)方向づけ及び記銘試行 偶発記憶群にはスライドで提示される単語の示す対象が上述した生存欲求処理,自己実現欲求処理及び親和欲求処理に対応する質問に対して,その必要性の程度を評定するように,意図記憶群では評定してからその単語を覚えるように教示された。また,同じ字が2回提示されるが,続けて提示される場合も,間をおいて提示される場合もあることも教示された。参加者が課題内容を理解したことを確認した後,本試行に入り,参加者は実験者の合図に従って,5秒ごとに該当する数字に○印を記入。2)自由再生テスト 書記自由再生 3分。3)実験の採点と解説 参加者は採点票に基づき採点し,研究目的に関する解説を受け,了承して評定用紙等を提出してくれた。
結果と考察
再生率(Table 1)に関する分散分析の結果,記憶型の主効果(意図>偶発, p<.001),提示形式の主効果(集中<分散, p<.001)が有意であった。また,提示形式×組合せの交互作用が有意傾向であり,分散提示では生存・自己>生存・親和という関係があり,分散効果量も生存・自己>生存・親和という関係が見いだされた。この結果は,符号化変動性仮説からの予想を支持した。ただし,意図記憶においては処理の組合せの効果は明確ではなかった。意図記憶では,Nairneらの主張する適応記憶システムを背景とした生存欲求処理が強く,他の処理による加算的効果はないことを示唆した。