日本教育心理学会第61回総会

Presentation information

ポスター発表

[PA] ポスター発表 PA(01-63)

Sat. Sep 14, 2019 10:00 AM - 12:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PA21] 朗読における読み手の気分変化による動機づけへの影響

朗読と音読,黙読の比較

福田由紀 (法政大学)

Keywords:朗読、動機づけ、気分変化

問題と目的
 朗読とは,「声に抑揚がある」「声に強弱がある」「登場人物ごとに声色が変わっている」「発声が明確である」という4つの特徴をもつ発声とした一連の研究により,ポジティブな物語を読んだ場合,読み手の感情が物語の感情価と同じであるポジティブに変化することが示されている(例えば,福田・楢原,2015)。そのような感情の変化が,次の読書行動への動機づけに影響しているか,否かについて,黙読と音読と比較しながら検討を行う。
方  法
参加者 朗読条件12名(男5,女7),音読条件13名(男4,女9),黙読条件12名(男5,女7),年齢の範囲は18歳9ヶ月から21歳5ヶ月の大学生であった。なお,本研究は法政大学文学部心理学科・心理学専攻倫理委員会で承認を受けた(承認番号:18-0124)。
材料 福田・楢原(2015)でポジティブな感情を表していると確認された「初がつおのたたき(西本,2004)」1,823文字,「たんぽぽの目(村岡,2014)」1,382文字を使用した。
質問紙 感情を測定するために,肯定的感情因子・否定的感情因子・安静状態の3つの因子,各8項目,計24項目から構成された4件法の一般感情尺度(小川他,2000)を用いた。主観的な動機づけを測定するために,8項目からなる7件法の課題への興味尺度(外山他,2017)を使用した。
自由時間中の課題 アナグラム課題とクロスワード課題,物語課題を用意した。これらの課題は,予備実験を行い,課題への興味尺度の合計点に有意な差がないことと,5分では全てを終了することが出来ないことが確かめられた。
手続き 参加者は無作為に3つの条件のうち1つに割り当てられ,材料はカウンターバランスされた。個別実験の所要時間は約40分であった。
 手続きは,一般感情尺度1回目(実験前)→条件別練習→課題への興味尺度1回目(処遇前)→実験材料の黙読→内容確認理解質問と一般感情尺度2回目(初見の黙読後)→条件別に実験材料を読む→一般感情尺度3回目(処遇後)→5分間の自由時間→課題への興味尺度2回目(処遇後)→読書動機尺度であった。なお,自由時間の過ごし方について,データを整理するために約5分間待って欲しいこと,実験者が用意した3つの課題,ないしは何もしなくていいことを参加者に教示した。また,条件別練習では,朗読条件では4つの特徴をもった発声を,音読条件では「発声が明確である」読み方を練習した。黙読条件ではPC操作に慣れるためと教示し,練習を行った。実験中はビデオによって参加者の行動は録画された。
結果と考察
 朗読条件と音読条件の読み方に関して,実験協力者2名が各特徴について5段階評価した結果,すべての参加者の評価は4以上であったため,次の分析に移る。なお,本発表では条件と感情変化,主観的な動機づけの変化に焦点をあてる。
 感情毎に,条件3(朗読・音読・黙読)×測定時期3(実験前・初見の黙読後・処遇後)の混合計画の分散分析を行った結果,肯定的感情で有意な交互作用が認められた(F(4,68)=3.50, p<.05)。単純主効果の検定を行った結果,処遇後において黙読条件<朗読条件,朗読条件のみ実験前<処遇後に有意な差が認められた。また,否定的感情では,測定時期の主効果に有意性が認められ(F(2,68)=4.76, p<.05),初見の黙読後よりも処遇後の方が得点は低かった。これらの結果は福田・楢原(2015)と同様であり,読み手の肯定的な感情を促進する朗読の効果が再確認された。
 課題への興味尺度に関して主成分分析した結果,「集中して取り組んだ」の第1成分の負荷量が.234と低かったため,削除した。7項目で再度,主成分分析を行った結果,各項目の負荷量は.705以上を示したため,まとめて以下の分析を行った。
 条件3(朗読・音読・黙読)×測定時期2(処遇前・処遇後)の混合計画の分散分析を行った結果,測定時期に関してのみ,処遇前よりも処遇後の方が有意に得点は高かった(F(1,34)=73.92, p<.01)。
 また,感情の変化による動機づけへの影響を検討するために,処遇後の課題への興味得点と肯定的感情の変化量(処遇後-実験前)との相関係数を求めた結果,朗読条件のみに有意な相関関係が認められた(朗読:r=.681*,音読:r=.389,黙読:r=.147)。これらの結果から,黙読や音読とは異なり,朗読をすることにより,読み手の主観的な動機づけが促進されるプロセスの可能性が示された。
主な引用文献
福田・楢原(2015). 朗読をすると気分が良くなるのか? 読書科学, 57, 23-34.
外山他(2017). プロセスフィードバックが動機づけに与える影響 教育心理学研究,65, 321-332.
付  記
 本研究はJSPS科研費JP16K04319の助成を受けたものです。