日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PA] ポスター発表 PA(01-63)

Sat. Sep 14, 2019 10:00 AM - 12:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PA24] 中1国語「読むこと」における3点セットと相互説明の活用

佐藤浩一1, 須永真佐恵#2, 田村充#3 (1.群馬大学, 2.太田市立城東中学校, 3.群馬大学)

Keywords:中学国語、トゥルミン・モデル、相互説明

 トゥルミンによる議論の分析モデルは,「3点セット」「三角ロジック」などの名称で授業に取り入れられている。本研究では中学校1年生の国語にこのモデルを取り入れ,相互説明活動と組み合わせて,生徒の思考力等への効果を検討する。
実  践
 対象者 関東圏の公立中学校の1年生で実践を行った。4学級編制で,生徒数は136名だった。
トゥルミン・モデルの活用 モデルにおける「根拠」「論拠(理由づけ)」「主張」を,生徒には「証拠-推理-結論」の3点セットとして示した。国語で学習課題に取り組む際には,必ずこの3点セットで考えるように指導した。
相互説明の活用 清河・犬塚(2003)の相互説明を参考に,3人一組で説明役・質問役・記録役に分かれ,互いに説明と質疑応答を行い,その記録を残すようにした。三つの役割は短時間で交代し,全員の考えが検討されるようにした。
国語科での実践 2018年4月にまず,小学校低学年の教材文「お手がみ」から課題を作成し,3点セットと相互説明の練習を行った。その後,11月まで文学的な文章,説明的な文章,詩,古典の4分野・9単元において,3点セットと相互説明で考える課題を設定した。文学的な文章と説明的な文章では2~4つ,詩と古典では1~2つの課題が設定された。これらの課題を考える場合に1時間の授業は,課題の提示-3点セットで各自が考える-相互説明-学級全体での意見交流-各自が考える,という流れを基本とした。1学期の終盤に次の2点を改善した。第一に,相互説明で記録の負担を軽減するよう,ワークシートの形式を変更した。第二に,全体交流の時間に互いに反論し合う機会を設けた。
他教科等での実践 学活・道徳・社会科でも,3点セットで考え,相互説明と全体交流を行う授業を実施した。
結  果
 半年間の実践の成果を,以下の観点で検証した。
根拠に基づいて考えを書く課題 全国学力・学習調査問題(平成19年度・27年度)を参考に,「貉」(小泉八雲)と「蜘蛛の糸」(芥川龍之介)を素材に,最後の場面がある方が良いかない方が良いか,他の人に納得してもらえるように詳しく書く,という問題を作成した。同じ問題を4月と11月に実施した。4学級中2学級では「貉」,2学級では「蜘蛛の糸」を用いた。結論が書けている,理由が書けている,本文から根拠をあげて書けている,という基準で得点化した(3点満点)。1年生全体をまとめた得点は4月が平均1.7(SD = 0.47),11月が平均2.5(SD = 0.55)であった。時期×学級の分散分析を行ったところ,時期の主効果のみ有意であった(F (1, 123) = 229.43, p < .01)。解答内容を分析したところ,4月の時点で結論は98%,理由は66%の生徒が書けていたが,根拠を書けていたのは7%だけであった。11月には結論は99%,理由は89%の生徒が書け,さらに62%の生徒が根拠も書けていた。従って,本文中の記述を根拠としてあげて,自分の主張の理由を述べる力が身についたと言える。
質問紙調査 5月・7月・11月の3回,質問紙調査を実施した。批判的思考の尺度(安藤・池田, 2012等)を参考に,「証拠や理由をもとに自分で考える」「他の人の考えを参考に,自分の考えを見直す」等の7項目について,どの程度できたかを5段階で評定させた。また協同作業認識尺度(長濱ら, 2009)等を参考に,「みんなで色々な意見を出し合うことは役に立つ」「他の人と話し合いながら取り組むことが好きだ」等の5項目について,どの程度同意できるかを5段階で評定させた。時期×学級の分散分析を行ったところ,全12項目のうち10項目について時期の主効果が有意であり,5月より7月や11月の方が,論理的思考に対する効力感,他者と共同で取り組むことへの肯定的な評価が高かった。
抽出生徒の変容 国語の学力が上位・中位・下位の生徒を抽出し半年間の変容を検討した。下位の生徒は3点セットで考えを書いたり,相互説明で質問に答えたりできるようになった。中位・上位の生徒は証拠-推理-結論の一貫性が高まり,適切な質問や反論ができるようになった。授業の振り返り等を検討したところ,どの水準の生徒も,最初は3点セットや相互説明を難しく感じていたが,次第に話し合うことや反論し合うことの楽しさを感じるようになってきたことが読み取れた。
考  察
上記のような成果が得られた理由として,(1)同じ活動を繰り返すことで生徒が慣れた,(2)「証拠,推理,結論」という共通の言葉を使うことで相互説明や交流が行いやすくなった,(3)途中で方法を改善した,といったことがあげられる。一方で,(1)3点セットの一貫性が弱い,(2)適切な質問をすることが難しい,(3)反論することに熱中し本来の学習目標からずれることがある,といった課題が残った。