[PA26] 教師と友人に関する自伝的記憶を想起した時の感情状態変化にする研究
想起テーマの特定性を要因に加えて
Keywords:自伝的記憶、感情状態変化、想起テーマの特定性
問題・目的
自伝的記憶の想起にはネガティブ気分が低減する感情制御の効果があることが示唆されている(兵藤,2014; 兵藤・浅野,2013; 兵藤・中山・小川,2013; 兵藤・李,2015)。さらに兵藤(2016)は自伝的記憶の特定性を操作したうえで,「友人」と「校則」という想起手がかりのもとで感情制御の効果についての検討を行った。その結果,想起手がかりの特定性が高い条件においてのみ多面的感情状態尺度(寺崎・岸本・古賀,1992)の倦怠因子について上記の感情制御の効果が示された。本研究では,兵藤(2018)で得られた知見をさらに検討するために,想起テーマを変更した上で,想起テーマの特定性と感情制御の関係を検討した。
方 法
参加者:大学生59名(男性26名,女性33名,M=21.22,SD=1.53)であった。
実験冊子:フェイスシートと気分評定用紙2枚(出来事の想起前後),出来事を記入する用紙をテーマごとに1枚ずつ,自伝的記憶の評定方法が書かれた用紙1枚の計6枚を順番にまとめて実験冊子とした。実験冊子は特定性の2条件とテーマの順番によって4パターン作成された。想起テーマは「友人」と「教師」であった。特定性は「高校の」+想起テーマが記述された条件(特定性高条件)と想起テーマのみが記述された条件(特定性低条件)を被験者間要因として設定し,参加者を各条件に無作為に割り振られた。
気分評定尺度:寺崎ら(1992)の多面的感情状態尺度を元に気分評定尺度を作成した。ポジティブ尺度3因子(活動的快,非活動的快,親和)とネガティブ尺度3因子(抑うつ・不安,敵意,倦怠)それぞれ3項目ずつの計18項目で構成され,各項目5件法で答えさせた。
手続き:大学の講義の時間を利用して集団法で行った。実験冊子配布後,実験者の指示に従って実験をすすめた。フェイスシート記入後,自伝的記憶想起前の気分状態を測定した。気分状態測定後,5分間ずつそれぞれのテーマに関する出来事をできるだけ多く想起させ,冊子の記入用紙に一文ごとに記入させた。想起課題終了後,気分状態を測定した。最後にそれらの出来事に対する感情価,重要度,鮮明度を5段階で評定させた。実験時間は20分程度であった。
結 果
分析にあたり多面的感情状態尺度の各因子を構成する項目の合計得点を各因子得点とした。表1は特定性の各条件の下位因子得点に関する自伝的記憶記述前後の参加者の平均得点を示している。
特定性の各条件において,出来事記述前後の各因子得点についての対応のあるt検定を行った。特定性低条件では出来事の記述後に「抑うつ・不安」因子得点(t(28)=4.64 ,p<.001),「倦怠」因子得点(t(28)=1.7 ,p<.05)が記述後に有意に下がり,「敵意」因子得点も同様の傾向を示していた(t(28)=1.65 ,p<.10)。一方で,「非活動的快」因子得点(t(28)=1.56 ,p<.10),「親和」因子得点(t(28)=1.37 ,p<.10)おいても記述後の方が記述前よりも得点が高い傾向を示していた。特定性高条件では「抑うつ・不安」因子得点(t(24)=3.9,p<.001),「倦怠」因子得点(t(24)=2, p<.05)が記述後に有意に低下していた。
考 察
これまでの多くの結果と一致し,「抑うつ・不安」,「倦怠」の因子において自伝的記憶の想起,記述後,因子得点が低下することが再確認できた。ただし,特定性低条件において快感情の「非活動的快」と「親和」の因子得点が有意傾向ではあるが上昇していることは興味深いことである。これまで,「抑うつ・不安」と「倦怠」が有意に低下することは何度も確認したが,快感情の一部の因子得点が上昇する事がみとめられ,今後,自伝的記憶の応用として,一人暮らし高齢者や施設に入居している高齢者に対して自伝的記憶を想起してもらい感情状態を良い方向へ変化できる可能性がある。
自伝的記憶の想起にはネガティブ気分が低減する感情制御の効果があることが示唆されている(兵藤,2014; 兵藤・浅野,2013; 兵藤・中山・小川,2013; 兵藤・李,2015)。さらに兵藤(2016)は自伝的記憶の特定性を操作したうえで,「友人」と「校則」という想起手がかりのもとで感情制御の効果についての検討を行った。その結果,想起手がかりの特定性が高い条件においてのみ多面的感情状態尺度(寺崎・岸本・古賀,1992)の倦怠因子について上記の感情制御の効果が示された。本研究では,兵藤(2018)で得られた知見をさらに検討するために,想起テーマを変更した上で,想起テーマの特定性と感情制御の関係を検討した。
方 法
参加者:大学生59名(男性26名,女性33名,M=21.22,SD=1.53)であった。
実験冊子:フェイスシートと気分評定用紙2枚(出来事の想起前後),出来事を記入する用紙をテーマごとに1枚ずつ,自伝的記憶の評定方法が書かれた用紙1枚の計6枚を順番にまとめて実験冊子とした。実験冊子は特定性の2条件とテーマの順番によって4パターン作成された。想起テーマは「友人」と「教師」であった。特定性は「高校の」+想起テーマが記述された条件(特定性高条件)と想起テーマのみが記述された条件(特定性低条件)を被験者間要因として設定し,参加者を各条件に無作為に割り振られた。
気分評定尺度:寺崎ら(1992)の多面的感情状態尺度を元に気分評定尺度を作成した。ポジティブ尺度3因子(活動的快,非活動的快,親和)とネガティブ尺度3因子(抑うつ・不安,敵意,倦怠)それぞれ3項目ずつの計18項目で構成され,各項目5件法で答えさせた。
手続き:大学の講義の時間を利用して集団法で行った。実験冊子配布後,実験者の指示に従って実験をすすめた。フェイスシート記入後,自伝的記憶想起前の気分状態を測定した。気分状態測定後,5分間ずつそれぞれのテーマに関する出来事をできるだけ多く想起させ,冊子の記入用紙に一文ごとに記入させた。想起課題終了後,気分状態を測定した。最後にそれらの出来事に対する感情価,重要度,鮮明度を5段階で評定させた。実験時間は20分程度であった。
結 果
分析にあたり多面的感情状態尺度の各因子を構成する項目の合計得点を各因子得点とした。表1は特定性の各条件の下位因子得点に関する自伝的記憶記述前後の参加者の平均得点を示している。
特定性の各条件において,出来事記述前後の各因子得点についての対応のあるt検定を行った。特定性低条件では出来事の記述後に「抑うつ・不安」因子得点(t(28)=4.64 ,p<.001),「倦怠」因子得点(t(28)=1.7 ,p<.05)が記述後に有意に下がり,「敵意」因子得点も同様の傾向を示していた(t(28)=1.65 ,p<.10)。一方で,「非活動的快」因子得点(t(28)=1.56 ,p<.10),「親和」因子得点(t(28)=1.37 ,p<.10)おいても記述後の方が記述前よりも得点が高い傾向を示していた。特定性高条件では「抑うつ・不安」因子得点(t(24)=3.9,p<.001),「倦怠」因子得点(t(24)=2, p<.05)が記述後に有意に低下していた。
考 察
これまでの多くの結果と一致し,「抑うつ・不安」,「倦怠」の因子において自伝的記憶の想起,記述後,因子得点が低下することが再確認できた。ただし,特定性低条件において快感情の「非活動的快」と「親和」の因子得点が有意傾向ではあるが上昇していることは興味深いことである。これまで,「抑うつ・不安」と「倦怠」が有意に低下することは何度も確認したが,快感情の一部の因子得点が上昇する事がみとめられ,今後,自伝的記憶の応用として,一人暮らし高齢者や施設に入居している高齢者に対して自伝的記憶を想起してもらい感情状態を良い方向へ変化できる可能性がある。