日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PA] ポスター発表 PA(01-63)

Sat. Sep 14, 2019 10:00 AM - 12:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PA28] 誤概念反応のリバウンドを抑制するための教授ストラテジーについて

植松公威 (東北生活文化大学)

Keywords:誤概念、リバウンド、教授ストラテジー

問題と目的
 誤概念は教授後に一旦,衰退しても,学習者が過去経験を再度,認識(経験)することによって復活する可能性がある。これが誤概念反応のリバウンドである。特に,過去経験と対立的な関係にある科学的な新情報だけを教授者が提示した場合はリバウンドが生じやすいと考えられる。これに対して,過去経験と科学的な新情報の双方の妥当性を認め,両者の統合や共存を図ることを意図したルール(法則)を提示した場合は,学習者が過去経験を再認識しても,科学的な新情報の妥当性が損なわれないため,リバウンドが生じにくいと考えられる。
 リバウンドの発生には誤概念へのこだわり(固執性)の有無という要因も関係する。こだわりがあるとは,あらかじめ誤概念をもっていて,それとは対立的な科学的な新情報が提示されても,その妥当性を認めず,誤概念を温存することを意味する。一方,こだわりがないとは,同じ状況で科学的な新情報の妥当性を認めることを意味する。こだわりがある群は科学的な新情報が提示されたときに過去経験(誤概念)との間に認知的葛藤が生じるが,こだわりがない群では認知的葛藤が生じない。認知的葛藤は過去経験の捉え直しによる科学的な新情報との統合的理解や共存を促す。ゆえに,こだわりがある群の方がない群よりもリバウンドが抑制されると予想できる。
実験Ⅰ
概要 冊子を使って,事前テスト→誤概念へのこだわりの有無の調査→読み物→事後テストⅠ→過去経験の情報→事後テストⅡの順に進めた。3回のテストは同一である。7つの植物(アサガオ,タンポポ,ホウレンソウ,チューリップ,ヒヤシンス,ジャガイモ,タマネギ)にタネができるかどうかを◯(できる),×(できない),△(わからない)から一つ記入してもらった。チューリップ,ヒヤシンス,ジャガイモ,タマネギをターゲット4事例とし,それらへの×と△を誤概念反応とした。誤概念反応数のレンジは0~4である。誤概念は「体の一部(球根やタネイモ)を植えて育てる植物にはタネができない」,過去経験は「球根やイモを植えた」と想定した。科学的な新情報は「花が咲けばタネができる」である。
誤概念へのこだわりの有無の調査では「『花が咲けばタネができる』という法則があります。チューリップやヒヤシンスにも当てはまると思いますか」と尋ね,当てはまるとした者はこだわり無し,当てはまらないとした者はこだわり有りとした。読み物はチューリップを事例にした。文章の最後に,過去経験と科学的な新情報の妥当性を範囲によって場合分けし,両者の共存を図った「範囲画定型ルール」,または「範囲非画定型ルール」(科学的な新情報と同じ)を図示した。学習者は宮城県内の私立大学,短大の1,2年生で,ルールの種類2水準と誤概念へのこだわり2水準に基づき4群に分けた。
結果と考察 リバウンド発生者率は「画定・有」群50%,「非画定・有」群37%,「画定・無」群33%,「非画定・無」群57%で,2要因のχ2検定では有意な結果は見られなかった。どの群もリバウンド発生者が多かった。リバウンドの前提条件が事前から事後Ⅰへの誤概念反応数の減少であるため,この条件に合致する学習者に限定して平均の誤概念反応数の推移を調べた(Table 1)。4群とも大きなリバウンドがあった。多元配置分散分析では有意な結果は見られなかった。過去経験と科学的な新情報との統合や共存が難しかったと考えられる。
実験Ⅱ
方法 過去経験と科学的な新情報の統合や共存を促すため,冊子の冒頭に過去経験の情報を記した。また,読み物でタネの写真を示した。これ以外は実験Ⅰと同じ。学習者は宮城県内の私立大学・短大の1,2年生(初参加)。
結果と考察 結果に改善が見られた。リバウンド発生者率は「画定・有」群2%,「非画定・有」群15%,「画定・無」群15%,「非画定・無」群29%で,ルールの種類とこだわりの有無の主効果が有意であった(それぞれχ2(2)=8.64, p<.05 ; χ2(2)=7.82, p<.05)。事前から事後Ⅰへの減少者における推移でも(Table 2),事後Ⅰから事後Ⅱへの変化において2つの要因の主効果が有意であった(ルール:F(1,160)=4.01, p<.05;こだわり:F(1,160)=5.13, p<.05)。仮説通り,ルールでは「範囲画定型ルール」の提示の方が,こだわりの有無では有りの方が誤概念反応のリバウンドを抑制しやすいことが確かめられた。