[PA29] 色覚多様性シミュレーションの経験は自己効力感に影響を及ぼすか
Keywords:色覚多様性、自己効力感、障害
問 題
「障害の有無にかかわらず,国民誰もが互いに人格と個性を尊重し支え合って共生する社会」(内閣府)が目指される中,人間の多様性を理解すること及びその支援の重要さは増している。そのうちの一つで学校場面にみられるものが,視覚的多様性の理解である。このうち先天的な原因によるものにはP型・D型などいくつかのタイプがあるが,日本人男性の5%程度にみられると言われつつも広く社会に認識されているとは言いがたい。本研究は,それに関連するシミュレーション経験が視覚的な障害をもつ学生との交流に関する効力感に影響するかを調べる。
方 法
実験参加者 都内工科系大学生80人。自己申告によればいずれも自らの色覚は統計的な多数に属しているとしている。
尺度 河内・四日市(1998)の,視覚に障害を持つ学生とのキャンパス内での交流の心地よさに対する自己効力感尺度(26項目; 以下自己効力感尺度と呼ぶ)を用いた。これは,「自分がよく知らない同性の大学生で目が全く見えない相手」と質問された状況で交流する場合の気持ちを(6)気分が非常によい,から(1)気分が非常によくない,までの6段階で尋ねるものである。河内・四日市は探索的な因子分析の結果2因子(I: 交友関係=e.g. その人とレストランで食事をする場合,II: 自己主張=e.g. 先月貸した1000円をその人に催促する場合)と解釈し,それぞれ因子負荷の高い10項目を用いている。本研究でも同様に得点化した。
手続 2クラスの授業を用いて一斉に行った準実験である。それぞれのクラスで第1週目に自己効力感尺度についての評定を求めた。評定にはgoogle formを用い,参加者のペースで記入を求めた。翌週,実験群(N=50)では処遇を行い直後に再び自己効力感尺度についての評定を再度求め,統制群(N=30)では処遇なしで自己効力感尺度についての評定を求めた。処遇として行ったのは,少女キャラクターの髪及び眼の色を変化させて作った5種の絵に対して,P型及びD型に近く見えるような変換を施したシミュレーション画像を交えた15種の絵に対するSD法による印象評定(18形容詞,7段階)である。自己効力感の評定にはおよそ5分,SD評定にはおよそ30分を要した。なお,全ての実験終了後に実験目的を説明した。
結 果
自己効力感の尺度ごとに,処遇の有無(実験群・統制群)×調査時期(事前・事後)の2要因のうち1要因に繰り返しのある分散分析を行った。すると,第I因子(交友関係)では処遇の主効果・時期の主効果・交互作用がいずれも有意ではなかった(順にF(1, 78)=.269; F(1, 78)=.091, F(1, 78)=.013)。第II因子(自己主張)では交互作用が有意ではなかったが(F(1, 78)=.737),処遇の主効果と時期の主効果がみられた(順に,F(1, 78)=5.32, p< .05; F(1, 78)=4.81, p<. 05)。
考 察
P型・D型のシミュレーション画像を見ることによって,障害のある学生との交流に関する自己効力感が変化するという証拠は得られなかった。今回はP型・D型の色覚多様性をシミュレートするという処遇だったが,自己効力感についての質問項目は目が全く見えない相手についてのものでその違いが大きかったことが理由としては考えられる。
引用文献
河内清彦・四日市章 1998 感覚障害学生とのキャンパス内交流に対する健常学生の自己効力に関する研究 教育心理学研究, 46, pp. 106-114。
「障害の有無にかかわらず,国民誰もが互いに人格と個性を尊重し支え合って共生する社会」(内閣府)が目指される中,人間の多様性を理解すること及びその支援の重要さは増している。そのうちの一つで学校場面にみられるものが,視覚的多様性の理解である。このうち先天的な原因によるものにはP型・D型などいくつかのタイプがあるが,日本人男性の5%程度にみられると言われつつも広く社会に認識されているとは言いがたい。本研究は,それに関連するシミュレーション経験が視覚的な障害をもつ学生との交流に関する効力感に影響するかを調べる。
方 法
実験参加者 都内工科系大学生80人。自己申告によればいずれも自らの色覚は統計的な多数に属しているとしている。
尺度 河内・四日市(1998)の,視覚に障害を持つ学生とのキャンパス内での交流の心地よさに対する自己効力感尺度(26項目; 以下自己効力感尺度と呼ぶ)を用いた。これは,「自分がよく知らない同性の大学生で目が全く見えない相手」と質問された状況で交流する場合の気持ちを(6)気分が非常によい,から(1)気分が非常によくない,までの6段階で尋ねるものである。河内・四日市は探索的な因子分析の結果2因子(I: 交友関係=e.g. その人とレストランで食事をする場合,II: 自己主張=e.g. 先月貸した1000円をその人に催促する場合)と解釈し,それぞれ因子負荷の高い10項目を用いている。本研究でも同様に得点化した。
手続 2クラスの授業を用いて一斉に行った準実験である。それぞれのクラスで第1週目に自己効力感尺度についての評定を求めた。評定にはgoogle formを用い,参加者のペースで記入を求めた。翌週,実験群(N=50)では処遇を行い直後に再び自己効力感尺度についての評定を再度求め,統制群(N=30)では処遇なしで自己効力感尺度についての評定を求めた。処遇として行ったのは,少女キャラクターの髪及び眼の色を変化させて作った5種の絵に対して,P型及びD型に近く見えるような変換を施したシミュレーション画像を交えた15種の絵に対するSD法による印象評定(18形容詞,7段階)である。自己効力感の評定にはおよそ5分,SD評定にはおよそ30分を要した。なお,全ての実験終了後に実験目的を説明した。
結 果
自己効力感の尺度ごとに,処遇の有無(実験群・統制群)×調査時期(事前・事後)の2要因のうち1要因に繰り返しのある分散分析を行った。すると,第I因子(交友関係)では処遇の主効果・時期の主効果・交互作用がいずれも有意ではなかった(順にF(1, 78)=.269; F(1, 78)=.091, F(1, 78)=.013)。第II因子(自己主張)では交互作用が有意ではなかったが(F(1, 78)=.737),処遇の主効果と時期の主効果がみられた(順に,F(1, 78)=5.32, p< .05; F(1, 78)=4.81, p<. 05)。
考 察
P型・D型のシミュレーション画像を見ることによって,障害のある学生との交流に関する自己効力感が変化するという証拠は得られなかった。今回はP型・D型の色覚多様性をシミュレートするという処遇だったが,自己効力感についての質問項目は目が全く見えない相手についてのものでその違いが大きかったことが理由としては考えられる。
引用文献
河内清彦・四日市章 1998 感覚障害学生とのキャンパス内交流に対する健常学生の自己効力に関する研究 教育心理学研究, 46, pp. 106-114。