日本教育心理学会第61回総会

Presentation information

ポスター発表

[PA] ポスター発表 PA(01-63)

Sat. Sep 14, 2019 10:00 AM - 12:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PA42] 「いのちと死の授業」による生きる意欲や死生観の変化

DVD視聴の前後で比較して

伊藤美奈子 (奈良女子大学)

Keywords:生きる意欲、抑うつ感、死生観

問題と目的
 中学・高校教師の5人に1人は生徒の自殺に,3人に1人は自殺未遂に遭遇したことがあるという(上地,2003)。他方,核家族化の進展に伴って,子どもたちが家族の死に直面することが少なくなり,子どもたちにとって死のもつ意味を考える機会が減少している。こうした現状に対する課題として掲げられたのが<生と死を考える教育の推進>である(兵庫・生と死を考える会,2007)。
 他方,教育現場では,さまざまな生や死を題材にした授業実践が行われている。しかし“体系的な取り組みが行われている学校はごく限られている”(古田,2002)という。
 そこで,本研究では,いのちと死を伝えるために開発されたDVD「いのちと死の授業-難病と闘って気づいたこと:白血病を克服した患者の体験を伝える授業の取り組み」(伊藤・相馬,2017)を取り上げ,その視聴前後に行った調査結果をもとに,子どもたちの死生観の変化や授業としての効果について検証することを主たる目的とする。
方  法
調査時期:2017年9~10月。
調査方法:A女子高校生345名とB専門学校生徒313名(計658名)に依頼した。調査(視聴前後)とDVDの内容について各学校で検討を重ねた結果,承諾を得た。自分や家族に重病を抱える者,身近な人の死を経験した者,過酷ないじめや辛い状況にある者等は事前に把握し,参加の可否を十分に検討した(その結果,1名は不参加)。調査の前には,「調査結果は成績には関係がない」「調査の途中で中断することは可能」等伝えた。さらに,調査後に何らかのショックや心身の変化がないか十分に観察するように配慮と支援を求めた。
調査内容:①「生きる意欲」「抑うつ感」各5項目(伊藤・相馬,2019)。4件法で実施した。②死生観をいのちと死のイメージから測定するため,形容詞9対ずつのSD尺度(6件法)を作成した。
いのちと死のイメージは<プラス><マイナス><遠い>の3因子得点として分析を行う。
以上の調査を,DVDの視聴前後に実施した。
結果と考察
 「生きる意欲」「抑うつ感」といのち・死のイメージ3得点の相関を求めた(Table 1)。相関係数の絶対値が.200以上の下線箇所に注目した結果,いのちを楽しく美しいと肯定的に捉えるほど,生きる意欲は高く抑うつ感は低くなる。いのちに対しては,怖く辛いイメージを抱くほど抑うつ感が高かった。一方,死については怖く辛いと感じているほど生きる意欲が高い。これより,生きる意欲や抑うつ感といのちに対するプラスイメージとは関連することが示唆された。他方,前向きに生きようとする生徒ほど,死を美化したり,逆に怖くないと否定するのではなく,誰にでも訪れる死に対して畏怖の気持ちを持つことが示唆された。
 次に,視聴前後の結果を比較した(Table 2:有意差のあるもののみ)。「生きる意欲」「抑うつ感」については,視聴前に比べて視聴後は,「生きる意欲」が上昇し,「抑うつ感」が低下した。死のイメージに大きな変化はないが,いのちはよりプラスなイメージに変容しいのちも死も身近なものへと受け取りが変わった。以上より,「いのちと死の授業」DVDを視聴することによる授業の効果が示唆され,“人生には限りがあるからこそ,生きている今を輝かせて大切にしよう”というメッセージを伝えるという授業の目的は,ある程度確認された。